【市況】カナダドルになお下落圧力【フィスコ・コラム】
不人気のトルドー・カナダ首相が退陣を決意し、次の政権への期待感からカナダドル買いに振れる場面がありました。「ドル1強」のなか、自身の辞任が通貨安を食い止めた格好です。ただ、ドル買いは再開しており、次の政権も通貨安に苦悩させられそうです。
トルドー氏は昨年11月のトランプ米次期大統領との会談に臨んだ際、関税強化策について、「嫌ならアメリカの51番目の州になれば」とジョークにしては辛辣すぎる一撃を食らいました。それが直接の原因ではなかったものの、対米貿易よりも政権浮揚を目指した減税を優先させようとして副首相と対立。野党が内閣不信任案を突き付ける事態となり、2015年からの長期政権はついに終焉を迎えることになりました。
カナダドルは1ドル=1.44カナダドルの心理的節目を超え下値を模索していましたが、首相辞任を受け短期的に反発。トルドー政権は発足以来、ほぼ4年ごとに通貨安に見舞われ、この1.44カナダドルを割り込んでいます。2016年1月は原油相場の低迷を受け、カナダドルは資源国通貨として売り優勢の展開となり一時1.4490ドル付近まで水準を切り下げました。
2020年3月はコロナ禍という未曽有の惨事で、「有事のドル買い」に1.4660カナダドル付近まで押し下げられました。世界が落ち着きを取り戻すとともにカナダドルは対ドルで回復に向かうものの、カナダ銀行の金融政策が米連邦準備制度理事会(FRB)に遅れを取り、金利差から再びドル高・カナダドル安に。強権的なコロナ対応でトルドー政権の人気は急降下し、それによる政策の行き詰まりもカナダドル安の要因になりました。
アメリカ主導の貿易協定の見直しや鋼鉄・アルミニウムへの関税措置は、主にカナダ側の貿易不安定化を招き、輸出市場への信頼を揺るがしました。財政政策に関しても、トルドー政権は積極的な公共投資と社会保障を重点化したため財政赤字が拡大し、通貨への信認を低下させています。エネルギー輸出に過度に依存する構造的な脆弱性と財政運営の課題がカナダドル安を際立たせたと言えるでしょう。
1971年の「ニクソン・ショック」でアメリカが輸入品に高関税を課し、カナダ経済は混乱状態に陥りました。トルドー氏の実父で当時のピエール・トルドー首相は貿易相手国を多様化させてアメリカへの依存度を下げる「第3の選択」政策を打ち出し、乗り切った経緯があります。カナダの政権が交代しても引き続きアメリカの関税強化への対応が優先課題となり、通貨安圧力は継続しそうです。
(吉池 威)
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