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【特集】2025年の大化け銘柄発掘法 ─「第2のエヌビディア」は?[大山季之の米国株マーケット・ビュー]<新春特別企画>

大山季之(松井証券マーケットアナリスト)

◆「トランプ2.0」のベストシナリオ、ワーストシナリオ

 2025年の米国株式マーケットが始動した。昨年、一昨年を振り返ってみると2年連続で米国株投資家にとっては非常に良いマーケット環境だった。S&P500種指数は2年連続で25%超の上昇となり、ナスダック総合指数も23年が40%超、24年も30%超の上昇となった(24年12月24日終値)。歴史的に見ても2年連続でこれほどの上昇相場が続くのは珍しい。では幕を開けた25年の相場はこのまま好調を維持できるのかというと、ことはそう簡単ではないのではないか、というのが正直なところだ。

 25年の相場のキーワードをひと言で表すとすると、「不安定」という言葉に尽きるのではないだろうか。まずベストシナリオを描くとすれば、1月20日に米大統領に就任するドナルド・トランプ氏がビジネスマンに徹するということだ。大統領選以降、トランプ政権への期待からポジティブに反応した株式マーケットは、「トランプ・ラリー」を展開したが、もし、トランプ氏が自身の打ち出した選挙公約を抑制の取れた形で実行していくのなら、25年を通して株式市場の上昇基調は続くかもしれない。

 例えば就任後、直ちに取り組むと宣言している不法移民の強制送還などは、実際に取り組むとなると膨大な予算を注ぎ込まなければならない。規制緩和や大型減税、高関税政策など、トランプ政権の目玉ともなる他の政策も同様だ。これら経済、通商政策を、マーケットの反応を見ながら段階的に慎重に行っていくならば、持続的な経済成長も現実的になり、さらなる株価の上昇も期待できる。

 一方のワーストシナリオは、トランプ氏が拙速に政策を推し進めることによって、世界的にインフレが再燃することだ。トランプ氏は中国製品に対して60%、他国に対しても10%の関税をかけることを選挙公約としてきた。選挙後もすでにメキシコやカナダ、EUなどへの追加関税を示唆しているが、こうした高関税政策が実施され、世界中で関税の報復合戦が繰り広げられることになれば、世界経済は混とんとした状況に陥り、株式マーケットにも小さくない影響が出るのではないか。

 経済通のスコット・ベッセント氏、ハワード・ラトニック氏などのトランプ氏が任命した次期閣僚陣の顔ぶれを見る限り、それほど危惧する流れにはならないとは思う。だが、インフレ要素を孕んだ政策とデフレ要素を孕んだ政策が混在するトランプ氏の選挙公約だけに、現時点での見通しは不透明だ。もし、インフレが再燃して金利が上昇局面に転じれば、23年、24年までは金利の先安期待から資金が流入していたAI関連などのハイテク株も、調整を余儀なくされるかもしれない。

◆米国株は年央の調整を経て、年末に向けて再び上昇か

 こうしたベストシナリオとワーストシナリオの間で揺れ動くのが今年のマーケットの特徴となりそうだ。そんな中でも、25年の米国株投資を考える際の参考として、年間を通したマーケットのイメージをまとめてみたい。まず、1月20日にトランプ大統領の就任式が行われてから100日間、春先ごろまではトランプ氏が打ち出す初動段階の政策によって、マーケットがインフレ再燃を懸念し、相場はレンジ内で乱高下するような展開になると見ている。優先課題として挙げる不法移民問題に対する施策も、この期間に何らかの方向性が打ち出されていくのではないだろうか。

 次に年央から夏頃に向けては、規制緩和や関税政策などの、トランプ氏の経済、通商分野の施策が本格化する。規制緩和は「トリプルレッド」となった議会の後押しを受けてスムーズに進むと見ているが、問題となるのはやはり高関税政策だ。政策自体は米国の製造業再建が目的なのだが、これによってインフレの再燃など、米国企業や国民への負担増は避けられず、FRB(米連邦準備制度理事会)の利下げもスピードを落とさざるを得なくなる。それに伴い、株式マーケットも緩やかな下降局面を迎える。

 そして、秋から年末に向けては、トランプ政策の目玉の一つ、大型減税が効果を発揮し出して、年末へ向けて株価を強力にサポートしていく。現時点ではこうしたイメージを描いている。いずれにせよ、トランプ次期大統領の政権運営次第なのだが、一時的な調整局面を乗り越えつつも、年間を通せば右肩上がりに上昇してきた昨年のような相場展開にはならない。とは言え、1年を通してみれば、米国経済は成長し、株価も上昇していく、というのがメインシナリオだ。アメリカ1強体制は、来年も続いていくだろうし、心底、そうあってほしいと願っている。

◆アップルの株価は理解不能、では急騰したテスラ株は?

 では次に、個別銘柄に目を移して、24年を席巻したエヌビディア<NVDA>をはじめとしたAI相場の主役たちの展開を見ていきたい。まずエヌビディアだが、事業の成長が続いていることは確かだが、これまでの2年間と同様の株価上昇を期待するのは無理がある。要は株価と期待値の見合いなのだが、期待値以上のサプライズを同社が示すことができるかどうかを、各四半期決算で見ていくよりほかはないだろう。1月7日から開催される世界最大級のテクノロジー展示会「CES2025」で同社がどのような発表をするのかも、注目ポイントかもしれない。

 アップル<AAPL>については、客観的に見て株価がさらに上昇していくシナリオを見つけづらい、というのが正直なところだ。株価が高止まりしているのは、やはり「iPhone」をはじめとした同社製品への信頼なのだろうか。マイクロソフト<MSFT>は昨年後半、株価が軟調だったが、期待されていたAI搭載パソコンの市場が燃え上がらず、あまりブレークスルー要素を感じられないのが難点かもしれない。アルファベット<GOOG>はクラウド・サービスが好調だが、その割に株価が依然として割安な水準であることは魅力だ。12月に量子コンピューター・チップの発表が話題となり、株価が急騰したがそれでもPERは25倍程度と、S&P500指数と同水準。米司法省のクローム分割要求はリスクだが、それを乗り越えれば投資対象として面白いかもしれない。

 メタ・プラットフォームズ<META>は24年のマグニフィセント・セブンでは、最も"化けた"銘柄だ。同社の広告事業が生成AIと相性が良かったためだが、この成長が続くのか。四半期決算ごとに次の展開を待つのが得策だろう。アマゾン・ドット・コム<AMZN>は、ここにきて株価が安定的に上昇し、21年のコロナ相場時に付けた上場来高値を大きく超えてきている。AI需要だけではなく小売りも好調で、同社の2大事業、EC(電子商取引)とクラウド・サービスとも、今後の成長に期待が持てる。

 残るイーロン・マスク率いるテスラ<TSLA>は、年初来で86%高(24年12月24日終値)、春の大底からは3倍超えと、ここまで派手に株価が上がってしまったいまとなっては、同社の今後の投資判断については意見が分かれるところだ。PERは120倍を超え、もうそろそろ利益確定をしてもいいと考えるのも自然だろう。半面、自動運転やロボタクシー、アンドロイドなど、次世代のイノベーションを一手に担う同社の将来性を考えれば、個人的にはまだ割安ではないかと考えている。

◆ウクライナ停戦後の欧州株にも要注目

 最後に多くの投資家が気になる、25年に「第2のエヌビディア」が表れるのか、というテーマについて考えてみたい。エヌビディアがAIムーブメントの中心であり続けることは間違いないだろうが、投資妙味という点では、ピークを過ぎた感はある。では24年の相場の主役はどの銘柄になるのだろうか。

 冒頭で記した通り、25年の相場のキーワードが「不安定」だとするなら、24年のようなエヌビディア1強ではなく、局面ごとに複数の銘柄が主役を交代する展開になるのではないだろうか。一つの着眼点は、出遅れているハイテク株を狙うということだ。24年終盤は、トランプ銘柄として株価が急騰したパランティア・テクノロジーズ<PLTR>、コインベース・グローバル<COIN>のほか、実はAIでの収益貢献が進んでいたことが分かり評価を高めたブロードコム<AVGO>、マーベル・テクノロジー<MRVL>などが登場した。

 このような、現在は主役と思われていないが、実はブレークスルー・ポイントを内包する銘柄を探して、ハイテクセクターの決算をウォッチすることも一策だろう。この中で個人的に特に注目しているのが、マーベル・テクノロジーだ。現時点ではまだ赤字決算を続けているが、同社は25年1月期第4四半期にAIチップが収益に貢献し、大幅な黒字転換を見込むガイダンスを発表した。ポスト・エヌビディア候補として、有力アナリストたちが軒並み、目標株価を引き上げるなど、株式マーケットでの評価が急上昇。すでに時価総額ではあのインテル<INTC>を凌駕してしまった。特にクラウド最大手企業のアマゾンと5年間の契約を締結したというニュースは大きい。クラウド各社とも、エヌビディア依存の状況を打開しようと取り組んでいるが、それが現実化しつつある、という認識が広がっているのだ。

 これら出遅れハイテク株探しは、ある程度チャレンジングな投資判断が必要になるだろうが、より堅実に新たな投資対象を探すなら、ダウ工業株30種平均やS&P500構成銘柄の中で、高配当・バリュー株に絞って物色するのが有効だろう。ベライゾン・コミュニケーションズ<VZ>、シェブロン<CVX>、デボン・エナジー<DVN>、そしてフォード・モーター<F>など、対象はいくらでも探すことができる。

 さらにバリュー株への投資の"ワイルドカード"として視野に入れたいのが欧州株だ。24年の世界の株式マーケットを俯瞰して見ると、米国株はS&P500やナスダックなどの主要指数が20%以上、日本株が約15%上昇している中で、欧州株は約7%の上昇に過ぎない。政治的な混乱もあるが、大きな要因はやはりウクライナだ。もし、トランプ政権によってウクライナの停戦が実現すれば、一気に状況が変わるはずだ。


 ただし、個別株は投資手段が限られているので、欧州株に投資をする場合にはETF(上場投資信託)をお勧めしたい。「バンガードFTSEヨーロッパETF」<VGK>、「iシェアーズ・コアMSCIヨーロッパETF」<IEUR>はいずれも大型株から小型株まで欧州株が満遍なく組み込まれており、ドイツのSAP、スイスのネスレ、フランスのモエヘネシー・ルイヴィトン、英国のシェルなど各国の代表的な銘柄に投資をすることができる。

 もう一つ、前回のコラムで記した「スピンオフ」関連の銘柄として注目したいのが、フェデックス<FDX>の動きだ。昨年12月19日(現地時間)に25年5月期第2四半期決算と併せて、同社は300億ドル規模の事業分離を発表し、翌日の株価は乱高下した。経営合理化策として、中核の米国内の宅配事業に注力するためとのことで、スピンオフ時期はまだ先の話のようだが、世界有数の物流会社で各事業の基礎体力はある企業だから、GEベルノバ<GEV>のようにスピンオフによって大化けするかもしれない。同社の動向に注目するのも、25年の「第2のエヌビディア」探しの一助となるのではないだろうか。


【著者】
大山季之(おおやま・のりゆき)
松井証券マーケットアナリスト 

1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、10年バークレイズ証券、12年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案、自社株買い、金融商品組成などに関わる。現在は松井証券のマーケットアナリストとして、米国のマクロ経済分析や企業、セクターの分析等を行う。

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