【特集】「103万円の壁」の議論活発化、手取り収入増で浮揚する銘柄を探せ <株探トップ特集>
衆院選を経て国民民主党がキャスティングボートを握るようになった。手取り増に向けた経済政策が実現すれば、国内消費にプラス効果をもたらしそうだ。
―衆院選で躍進の国民民主党の経済政策に熱視線、「プチ贅沢」消費喚起なるか?―
2024年は政治イベントがマーケットの一大関心事となった。米大統領選はもちろんのこと、10月27日投開票の衆院選で自公与党の議席数が過半数を割り込む事態となったのは、衝撃的な出来事だった。立憲民主党とともに躍進が際立った国民民主党がキャスティングボートを握る結果となり、同党の掲げる経済政策の実現可能性が語られ始めている。同党の重点政策のなかでも株式市場において注目されているのが、年収「103万円の壁」の引き上げやガソリン減税など、消費活性化につながる政策である。
●少数与党との「部分連合」で手取り増の実現なるか
パートやアルバイトなどに従事する労働者は年収が103万円以下の場合、所得税を課されずに済む。非課税枠である「基礎控除」と「給与所得控除」の合計が、現在は103万円となっているためだ。国民民主党は1995年からの最低賃金の上昇率が1.73倍となっていることを踏まえ、基礎控除などの合計額を103万円から178万円に引き上げるべきだと訴えている。
家計をともにするパートナーの配偶者控除や配偶者手当が打ち切られるのを回避しようと、パートやアルバイト労働者が勤務時間を自ら制限するといった事例が後を絶たない。学生がアルバイトをするなかで、扶養者である親が所得控除を受けられるように、勤務時間を調整し、年収を103万円以内に収めようとするケースも多い。
もっとも年収が100万円を超えるとまず、住民税が発生する。国民民主党が引き上げを求める103万円の壁のほかにも、従業員数51人以上の企業で勤務する場合に社会保険料が発生する「106万円の壁」、従業員数の規模を問わず社会保険料が発生する「130万円の壁」も存在する。150万円を超えた場合は、配偶者特別控除が段階的に引き下げられることとなる。
基礎控除などの合計額の引き上げがこれらの壁にどのようなインパクトをもたらすのかは未知数ではある。しかし、103万円の壁の引き上げだけでも、実現すればパートやアルバイト従業員の1人当たりの年収額の引き上げにつながるのは確かだろう。更に国民民主党は、ガソリン減税案や、再生エネルギー賦課金の徴収を一定期間停止することによる電気料金の引き下げ策などを提案している。「手取りを増やす」をキャッチフレーズに選挙戦を戦ってきた同党が、国民からの支持取り付けに躍起な少数与党に取り入り、経済政策を実現させた場合、日本全体の消費活動に対してプラス効果をもたらすこととなる。
そうはいっても、超高齢化社会の日本において、現役世代には社会保障負担が重くのしかかっている。手取り収入の増加分の一部は将来の備えとして、貯蓄などに充てられることが見込まれ、バブル期のような派手な消費行動が活発化するシナリオは描きにくい。それでも現役世代の消費欲はインフレ環境下で、長期にわたり抑圧された状況が続いている。新車の購入や長期間の海外旅行といった高額消費とまではいかなくても、普段よりもリッチな体験を得ようと、「プチ贅沢」的な消費行動が活発化する素地は整っている。
●デパ地下・外食サービスに追い風か
プチ贅沢の消費対象の筆頭格に挙げられるのが、「食」の領域である。多忙な現役世代にとって、時間と労力を掛けなくても、高い満足感を得られるのが最大の理由だ。デパ地下での食材販売店や、客単価を比較的高めに設定したレストランなどの事業環境にはフォローの風が吹くこととなるだろう。 美容関連で自分への投資額を増やし、日常生活のなかで失った自己肯定感を取り戻そうとする人が増える可能性もある。これらの観点から、手取り収入の増加によるプチ贅沢消費を取り込めそうな銘柄をピックアップしてみる。
ロック・フィールド <2910> [東証P]はデパ地下などに高級総菜店「RF1」を出店。25年4月期は創業者への特別功労金の支給の影響で最終減益を予想するものの、営業利益と経常利益は2ケタ増を計画する。22年に冷凍食品ブランド「RFFF(ルフフフ)」を立ち上げ、「ご褒美のようなごちそうストック」として消費者に訴求。商品ラインアップを40種類以上に拡大させており、成長の新たなエンジン役として期待が膨らむ。
きちりホールディングス <3082> [東証S]は居酒屋「KICHIRI」を運営しつつ、ハンバーグステーキ専門店「いしがまやハンバーグ」については駅ビルやショッピングモール、百貨店などで出店数を大きく拡大。郊外ロードサイド型焼肉店「肉の満牛萬」など新業態の育成にも取り組んでいる。今年2月に発表した公募増資を通じて調達した資金をもとに、新規出店を加速させる方針。コロナ禍の苦境を脱し今期は過去最高益の更新を見込む。23年4月に自治体や地域事業者に向けたふるさと納税の支援業務を始め、地方創生事業の強化も図る。
サンマルクホールディングス <3395> [東証P]は「サンマルクカフェ」や「鎌倉パスタ」を展開。同社のルーツであり、焼きたてのパンの提供がウリである「ベーカリーレストラン サンマルク」において、ファミリー層のプチ贅沢需要を取り込めるかが注視される。25年3月期の最終利益は前期比2.2倍の21億円と急拡大を予想。10月に牛カツの「京都勝牛」の運営企業の買収を発表するなど、事業の拡大に向けた取り組みを一段と活発化させている。
銚子丸 <3075> [東証S]は「すし銚子丸」を関東地方に展開。決算期を2月期に変更し、今期は変則決算となる。ダイレクトマーケティングなどの販促効果が表れ、9月27日に第2四半期累計(5月16日~11月15日)の単体業績予想を上方修正した。同業他社と比べて単価はやや高めだが、劇場空間を意識した接客サービスや水揚げからの店舗直送を武器として利益の底上げを図る。今年5月には双日 <2768> [東証P]とロイヤルホールディングス <8179> [東証P]と共同で米国に合弁会社を設立したと発表。海外展開の足掛かりを構築した。
柿安本店 <2294> [東証P]は精肉・総菜店を百貨店やショッピングモールに展開。精肉事業では黒毛和牛の製販一貫体制を強みとし、松阪牛では全国流通量の販売シェアでトップクラスを誇る。25年4月期第1四半期(5~7月)は減収減益と業況は低調だったが、今後の成長に向けた取り組みとして冷凍総菜食品の販路拡大とともに、海外進出やM&Aも視野に入れている。
●ヘアケア・美容関連も要マーク
I-ne <4933> [東証P]は「BOTANIST(ボタニスト)」ブランドのヘアケア商品や美容家電などを手掛ける。ヘアケア系では「YOLU」ブランドが伸長。スチーマーや脱毛器の販売が急拡大している。10月にスキンケア商品を手掛けるトゥヴェールの買収を発表。買収関連の費用やのれん償却費が主に24年10~12月期に発生する見通しだが、25年12月期の影響に関しては大幅な増収増益の想定のもと、現在精査を進めているとしている。
ビューティガレージ <3180> [東証P]は美容サロン向け商品のECサイトを運営。プチ贅沢に伴う消費がエステやネイルサロン、アイビューティーサロン、マッサージ店の事業環境の好転につながった場合、同社の物販事業の拡大に寄与しそうだ。25年4月期の最終利益は前期比11.6%増の12億1000万円と前期に続き最高益を計画する。
このほか、プチ贅沢の恩恵を受けると期待される銘柄には、 外食・食品関連では高級レストラン「XEX」やカジュアルレストランの「サルヴァトーレ クオモ」を展開するワイズテーブルコーポレーション <2798> [東証S]、高級食パン「銀座に志かわ」を展開するグループ企業を持つOSGコーポレーション <6757> [東証S]、しゃぶしゃぶの木曽路 <8160> [東証P]、高級レストランのひらまつ <2764> [東証S]や梅の花 <7604> [東証S]、うかい <7621> [東証S]などが候補に挙がる。美容に絡んだところではアイスタイル <3660> [東証P]やヤーマン <6630> [東証P]などもマークをしておきたい。「103万円の壁」というテーマそのものにおいては、控除枠の引き上げによりスキマバイトの需要が高まるとの思惑が市場には存在しており、タイミー <215A> [東証G]やツナググループ・ホールディングス <6551> [東証S]、フルキャストホールディングス <4848> [東証P]などが関連銘柄として位置づけられている。
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