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【特集】トランプ前大統領の返り咲きで原油相場は混乱か、注目は中東政策 <コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司

●トランプ氏の勝利で原油相場は不透明に

 米大統領選でトランプ前大統領が勝利した。民主党から共和党への政権交代により、米国の中東政策やエネルギー政策が転換する可能性が高く、原油相場を見通すうえで不透明な要因が増えた。

 トランプ新政権のもとで気候変動対策は一変する。トランプ次期米大統領は「グリーン詐欺は終わり」、「馬鹿げた電気自動車(EV)の義務化を廃止する」などと述べており、西側中心に推し進められてきた脱炭素社会の推進が頓挫する可能性が高い。EVの販売伸び悩みにトランプ政権が追い打ちをかけることによって、石油消費量の拡大が後押しされそうだ。ただ、脱化石燃料の流れが反転し、石油の増産がさらに強まる可能性もあり、来年以降の需給バランスの変化は確認する必要がある。世界最大の石油消費国かつ産油国である米国の需給動向は相場に多くの手がかりをもたらすだろう。

 前回の任期4年間で明らかであるように、親イスラエルのトランプ次期大統領はイランのことを異常なほど敵視している。イラン核合意の放棄や、対イラン制裁の再開など、トランプ前大統領にとって最大の敵国は中国だけでなく、イランだった。前回のトランプ大統領の任期が始まる前、イランの原油輸出は日量250万バレル規模で推移していたが、米国の石油制裁により一時20万バレル規模まで急減した。現在はバイデン政権下で対イラン石油制裁が形骸化し、イランの原油輸出は日量170万規模まで回復しているものの、トランプ氏はこの制裁を立て直す可能性が高い。イスラエルを脅かしている軍事大国イランの生命線は石油収入であり、イランを痛めつけるには新たな石油制裁が必要だ。なお、イランの原油輸出はほぼ中国向けで、イランの輸出が制限されると中国は他の調達先を探す必要があり、米中の軋轢は必然的に強まる。

●トランプ新政権下でも中東の混乱は続く

 パレスチナ自治区ガザの制圧・接収をイスラエルが継続するなら、トランプ新大統領のもとでも中東は混乱したままだろう。昨年10月から続くイスラム組織ハマスに対するイスラエルの自衛行為はガザ地区からパレスチナ人が一掃されるまで続くと思われる。トランプ次期大統領はイスラエルのネタニヤフ首相にガザ侵攻やレバノン侵攻を解決するように要請しているが、ネタニヤフ首相がこの要求を聞き入れてガザ侵略や植民地化を停止するとは考えにくい。ハマスが要求するガザ地区からのイスラエル軍の完全撤退や、恒久的な停戦合意をネタニヤフ首相が受け入れるはずはなく、そうであるならばレバノンのイスラム組織ヒズボラがイスラエル攻撃を止める理由もなく、隣国のヒズボラによるイスラエル攻撃が続くなら、ネタニヤフ首相はこの攻撃を止めるためレバノン侵攻を続けなければならない。鶴の一声でイスラエルやハマス、ヒズボラが停戦に至る筋道はおそらく存在しない。トランプ次期大統領の要請をイスラエルが受け入れないとしても、米国はイスラエルに対する無制限の軍事支援を続けるだろう。

 トランプ新政権は、イスラエルとアラブ諸国の国交正常化を実現する「アブラハム合意」を引き続き推進すると思われる。ただ、パレスチナ問題が解決しないことにはサウジアラビアとイスラエルの国交正常化はなさそうだ。サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子は、パレスチナ自治区ガザで大量虐殺を行っているとしてイスラエルを非難している。

 来年1月からのトランプ新大統領の就任を控えて、多少の動意はあるものの、原油相場はこう着感をさらに強めつつあるように見える。ニューヨーク市場のウエスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)先物は2023年からレンジ相場を続けており、この2年間で大きなトレンドは発生していない。米新政権は原油市場に流れをもたらすのだろうか。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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