【特集】「激動の証券界、至高の顧客体験で成長にアクセル」米ウィブルCEOに聞く<トップインタビュー>
─スマホ証券で圧倒的ブランド力、サービス拡充で日本の個人投資家は更に進化へ─
ウィブル・フィナンシャルCEO
アンソニー・デニエー氏
スマートフォンを通じて気軽に株式投資ができる個人投資家向けオンライン取引プラットフォームで、世界的に圧倒的な知名度を誇るウィブルグループ。同社の取引アプリのダウンロード数はグローバルで4000万件以上に上り、米国を含め世界13カ国で事業を展開している。日本では2023年4月に米国株の取引を開始。以降、顧客サービスの拡充に果敢に取り組み、個人投資家からの支持を着実に集めてきた。記録的な波乱相場となった今年8月に再来日したウィブル・フィナンシャルのアンソニー・デニエーCEO(最高経営責任者)に、今後のマーケット環境と日本事業の展望について話を聞いた。(聞き手・長田善行)
●「グローバル化」が加速する個人投資家
──前回のインタビューから1年程度経ちました。この間、日米欧の主要株価指数は最高値をつけ、その後8月上旬に急落する場面があり、ボラティリティが一時的に高まりました。足もとのマーケット環境と、ウィブルグループの事業環境をどのように認識していらっしゃいますか?
「マーケット環境に関しては、非常に多くの変化があったと認識しています。特にこの1年間、米国株は強いパフォーマンスを示しました。そして多くの投資家の関心が(エヌビディア<NVDA>を含むハイテクの代表銘柄である)マグニフィセント・セブンに集中する傾向も顕著となりました。米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げがどのように進むのか、米大統領選の結果がどのようなものとなるのか、これらに関する予測が今後、マーケットを刺激することになるでしょう。過去を見ても金利低下は市場参加者に強気のセンチメントをもたらします。米大統領選が行われる年の米国株は上昇しやすいといったアノマリーもあります。私は米国株については引き続き強気で見ています」
「直近の1年間は、グローバルで当社の顧客のエンゲージメント(ブランドへの愛着)が非常に高まった時期でもありました。個人投資家による売買が活発化し、そのボリュームはこれまで過去最高だった2021年を凌ぐような状況です。米国市場における個人投資家の売買シェアも、過去最高のレベルまで戻っています。世界的に政治の世界では脱グローバル化の兆候がみられますが、個人投資家においては自国以外のマーケットに対する関心が非常に高くなっており、グローバル化が進展している状況と言えます」
──米国株が活況を呈し、個人投資家の取引が活発になるのであれば、事業には強いフォローの風が吹くこととなりそうです。
「我々のグローバルのビジネスにおける競争力は、着実に強まっていると感じています。もちろん、今後はトラディショナルな証券業界におけるプレーヤーも、個人投資家とのエンゲージメントレベルを上げようとするはずです。こうした競争自体は、個人投資家にとってより良い経験の提供につながるという点で、好ましいものだと考えています」
●米国株オプションは「成長セグメント」
──日本においては新NISAが始まったのを機に、個人投資家のニューマネーがマーケットに流入するようになりましたが、証券会社間の競争も激しくなっています。
「我々は常に、顧客に対しベストな体験をローコストで提供したい、というスタンスでいます。プレーヤー間の競争が激しくなっているのは日本だけではありませんが、手数料無料化に関して、日本の競合他社が進めているからといって、当社も同じ方向で動くのは、時期尚早ではないかと考えています。ゼロコミッションに向かった場合、顧客に対するサービス品質が低下する恐れもあり、慎重に判断することが求められています」
──ベストな体験を顧客に提供するという点で、日本では新たなサービスを相次いで発表されました。昨年7月に始めた米国株オプション取引では、今年8月に「買い」に加えて「売り」も可能にするなど、投資への選択肢を拡充させています。ただ、日本と米国ではオプション取引に対する個人投資家の熱量にギャップがあるようにも思います。
「確かに、米国においてオプション取引は『エキゾチック』なものではありません。そこには歴史的な背景があります。米国の投資家はこれまで数々の強気相場を目の当たりにしてきました。ドットコムバブルもそうですし、直近のAI相場もそうです。上昇相場が訪れるたびに個人投資家はその時代のプラットフォームを通じ、株式市場との関係性を深めてきました。そしてプラットフォームの進化に連動する形で、投資に関する高度な知識を個人投資家は習得してきたわけです。米国のオプション市場は今では個人投資家による取引が主体となっています。これに対し、日本の個人投資家は過去30年以上にわたり、マーケットが良好な状況を目にすることができませんでした。日本人にとって株式市場は魅力的なものではなく、その結果として投資よりも貯蓄にお金を回すこととなったのだと思います。しかし、今はこうした状況が大きく変わり始めています。日本において競争力のあるプラットフォームが普及することで、過去の米国と同じようなことが日本でも起きるのではないかと考えています」
──日本の個人投資家にとってオプション取引が身近な存在になる日が迫っているということですね。
「実際に日本では多くの個人投資家が高度な知識を求めるようになり、株式市場に対するエンゲージメントレベルも高まりつつあります。米国株オプションは当社の日本事業にとって、成長セグメントであると考えています。当社はこれまでパートナーであるシカゴ・オプション取引所(CBOE)と組み、投資家へのさまざまな教育コンテンツやツールを提供し、非常に大きな成功を収めてきました。顧客に対する教育・啓発活動に対してはこれからも真剣に取り組みたいと考えています」
●「Moneybull」も日本市場に投入、投資とウェルスマネジメントを1つのアプリで
──顧客の米ドルの運用とともに自動買い付けなどが可能な新サービス「Moneybull」も日本においてローンチされました。
「全ての投資家が毎日、トレードをしたり、トレードのアイデアを思い浮かべたりすることができるわけではありません。トレードをしない間に証券口座にキャッシュが放置されていればもったいない話ではあります。証券口座のなかで利回りを得ることができ、自分が望むタイミングでいつでも資金を活用してトレードできるシステムを提供するのは、日本の証券会社では当社が唯一です。システムに関しては特許を申請しています。こうしたシステムを顧客に提供できることを私たちはとても誇りに思っています」
──今後のサービス拡大に向けて、ウィブルとしてどのように日本事業にリソースを投下していくお考えですか?
「ウィブルはグローバルで非常に大きな成功を果たしたブランドです。日本事業は現地のスタッフによるチームを組成して展開したいと考えていますが、特に米国において当社が持っているブランド力、資本、人材を活用し、日本でのビジネス展開を後押ししていきたいと考えています」
──日本において個人投資家が米国株に投資をすることは特に珍しいことではなく、普通のこととして受け入れられるようになりました。一方、ウィブルのプラットフォームを通じて、日本株への投資に関心を持つ海外の個人投資家も存在すると思います。
「実際に、日本株に対する日本の投資家以外の関心は非常に高まっています。最近の話で言えば、円キャリ―取引で積みあがったポジションのアンワインド(巻き戻し)により相場のボラティリティが急激に上昇した局面で、米国の投資家による日本市場への注目度が一段と高まりました。日本株には数多くの変動要因があります。今後、どこまで相場が上昇するのかという点については、日本株の専門家のほうが詳しいと思いますが、ADR(米預託証券)やETF(上場投資信託)を通じ、海外から日本株へのアクセスを求めるニーズは増えています。当社はグローバルに展開する証券業者として現在、13カ国で事業を展開しています。そのなかでも日本は世界で有数の経済大国です。世界の投資家がポートフォリオを分散するうえで、日本株がその候補となるのであれば、当社のプラットフォームを活用することで、どの企業よりも効率的に分散が図れることとなります。こうした競争力のあるプラットフォームを私たちは提供しています」
◇アンソニー・デニエー(Anthony Denier)
2000年コロンビア大卒。クレディ・スイス、オランダ金融大手INGなどを経て2013年にLXMフィナンシャルに移籍しCEOを歴任。2017年よりウィブル・フィナンシャルCEO。
株探ニュース
ウィブル・フィナンシャルCEO
アンソニー・デニエー氏
スマートフォンを通じて気軽に株式投資ができる個人投資家向けオンライン取引プラットフォームで、世界的に圧倒的な知名度を誇るウィブルグループ。同社の取引アプリのダウンロード数はグローバルで4000万件以上に上り、米国を含め世界13カ国で事業を展開している。日本では2023年4月に米国株の取引を開始。以降、顧客サービスの拡充に果敢に取り組み、個人投資家からの支持を着実に集めてきた。記録的な波乱相場となった今年8月に再来日したウィブル・フィナンシャルのアンソニー・デニエーCEO(最高経営責任者)に、今後のマーケット環境と日本事業の展望について話を聞いた。(聞き手・長田善行)
●「グローバル化」が加速する個人投資家
──前回のインタビューから1年程度経ちました。この間、日米欧の主要株価指数は最高値をつけ、その後8月上旬に急落する場面があり、ボラティリティが一時的に高まりました。足もとのマーケット環境と、ウィブルグループの事業環境をどのように認識していらっしゃいますか?
「マーケット環境に関しては、非常に多くの変化があったと認識しています。特にこの1年間、米国株は強いパフォーマンスを示しました。そして多くの投資家の関心が(エヌビディア<NVDA>を含むハイテクの代表銘柄である)マグニフィセント・セブンに集中する傾向も顕著となりました。米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げがどのように進むのか、米大統領選の結果がどのようなものとなるのか、これらに関する予測が今後、マーケットを刺激することになるでしょう。過去を見ても金利低下は市場参加者に強気のセンチメントをもたらします。米大統領選が行われる年の米国株は上昇しやすいといったアノマリーもあります。私は米国株については引き続き強気で見ています」
「直近の1年間は、グローバルで当社の顧客のエンゲージメント(ブランドへの愛着)が非常に高まった時期でもありました。個人投資家による売買が活発化し、そのボリュームはこれまで過去最高だった2021年を凌ぐような状況です。米国市場における個人投資家の売買シェアも、過去最高のレベルまで戻っています。世界的に政治の世界では脱グローバル化の兆候がみられますが、個人投資家においては自国以外のマーケットに対する関心が非常に高くなっており、グローバル化が進展している状況と言えます」
──米国株が活況を呈し、個人投資家の取引が活発になるのであれば、事業には強いフォローの風が吹くこととなりそうです。
「我々のグローバルのビジネスにおける競争力は、着実に強まっていると感じています。もちろん、今後はトラディショナルな証券業界におけるプレーヤーも、個人投資家とのエンゲージメントレベルを上げようとするはずです。こうした競争自体は、個人投資家にとってより良い経験の提供につながるという点で、好ましいものだと考えています」
●米国株オプションは「成長セグメント」
──日本においては新NISAが始まったのを機に、個人投資家のニューマネーがマーケットに流入するようになりましたが、証券会社間の競争も激しくなっています。
「我々は常に、顧客に対しベストな体験をローコストで提供したい、というスタンスでいます。プレーヤー間の競争が激しくなっているのは日本だけではありませんが、手数料無料化に関して、日本の競合他社が進めているからといって、当社も同じ方向で動くのは、時期尚早ではないかと考えています。ゼロコミッションに向かった場合、顧客に対するサービス品質が低下する恐れもあり、慎重に判断することが求められています」
──ベストな体験を顧客に提供するという点で、日本では新たなサービスを相次いで発表されました。昨年7月に始めた米国株オプション取引では、今年8月に「買い」に加えて「売り」も可能にするなど、投資への選択肢を拡充させています。ただ、日本と米国ではオプション取引に対する個人投資家の熱量にギャップがあるようにも思います。
「確かに、米国においてオプション取引は『エキゾチック』なものではありません。そこには歴史的な背景があります。米国の投資家はこれまで数々の強気相場を目の当たりにしてきました。ドットコムバブルもそうですし、直近のAI相場もそうです。上昇相場が訪れるたびに個人投資家はその時代のプラットフォームを通じ、株式市場との関係性を深めてきました。そしてプラットフォームの進化に連動する形で、投資に関する高度な知識を個人投資家は習得してきたわけです。米国のオプション市場は今では個人投資家による取引が主体となっています。これに対し、日本の個人投資家は過去30年以上にわたり、マーケットが良好な状況を目にすることができませんでした。日本人にとって株式市場は魅力的なものではなく、その結果として投資よりも貯蓄にお金を回すこととなったのだと思います。しかし、今はこうした状況が大きく変わり始めています。日本において競争力のあるプラットフォームが普及することで、過去の米国と同じようなことが日本でも起きるのではないかと考えています」
──日本の個人投資家にとってオプション取引が身近な存在になる日が迫っているということですね。
「実際に日本では多くの個人投資家が高度な知識を求めるようになり、株式市場に対するエンゲージメントレベルも高まりつつあります。米国株オプションは当社の日本事業にとって、成長セグメントであると考えています。当社はこれまでパートナーであるシカゴ・オプション取引所(CBOE)と組み、投資家へのさまざまな教育コンテンツやツールを提供し、非常に大きな成功を収めてきました。顧客に対する教育・啓発活動に対してはこれからも真剣に取り組みたいと考えています」
●「Moneybull」も日本市場に投入、投資とウェルスマネジメントを1つのアプリで
──顧客の米ドルの運用とともに自動買い付けなどが可能な新サービス「Moneybull」も日本においてローンチされました。
「全ての投資家が毎日、トレードをしたり、トレードのアイデアを思い浮かべたりすることができるわけではありません。トレードをしない間に証券口座にキャッシュが放置されていればもったいない話ではあります。証券口座のなかで利回りを得ることができ、自分が望むタイミングでいつでも資金を活用してトレードできるシステムを提供するのは、日本の証券会社では当社が唯一です。システムに関しては特許を申請しています。こうしたシステムを顧客に提供できることを私たちはとても誇りに思っています」
──今後のサービス拡大に向けて、ウィブルとしてどのように日本事業にリソースを投下していくお考えですか?
「ウィブルはグローバルで非常に大きな成功を果たしたブランドです。日本事業は現地のスタッフによるチームを組成して展開したいと考えていますが、特に米国において当社が持っているブランド力、資本、人材を活用し、日本でのビジネス展開を後押ししていきたいと考えています」
──日本において個人投資家が米国株に投資をすることは特に珍しいことではなく、普通のこととして受け入れられるようになりました。一方、ウィブルのプラットフォームを通じて、日本株への投資に関心を持つ海外の個人投資家も存在すると思います。
「実際に、日本株に対する日本の投資家以外の関心は非常に高まっています。最近の話で言えば、円キャリ―取引で積みあがったポジションのアンワインド(巻き戻し)により相場のボラティリティが急激に上昇した局面で、米国の投資家による日本市場への注目度が一段と高まりました。日本株には数多くの変動要因があります。今後、どこまで相場が上昇するのかという点については、日本株の専門家のほうが詳しいと思いますが、ADR(米預託証券)やETF(上場投資信託)を通じ、海外から日本株へのアクセスを求めるニーズは増えています。当社はグローバルに展開する証券業者として現在、13カ国で事業を展開しています。そのなかでも日本は世界で有数の経済大国です。世界の投資家がポートフォリオを分散するうえで、日本株がその候補となるのであれば、当社のプラットフォームを活用することで、どの企業よりも効率的に分散が図れることとなります。こうした競争力のあるプラットフォームを私たちは提供しています」
◇アンソニー・デニエー(Anthony Denier)
2000年コロンビア大卒。クレディ・スイス、オランダ金融大手INGなどを経て2013年にLXMフィナンシャルに移籍しCEOを歴任。2017年よりウィブル・フィナンシャルCEO。
株探ニュース