【特集】タイパ意識の高まりで商機到来へ、食の新境地「完全栄養食品」に脚光 <株探トップ特集>
「完全栄養食」という言葉を最近よく耳にするようになった。厚労省が定めた日本人に必要な33種類の栄養素を効率的に摂取できる食品のことで、タイパ重視の人が増えるなか関心が高まっている。
―認知度向上で国内市場規模は8年間で3.8倍へ、新規参入企業も続々登場―
「完全栄養食」という言葉を最近よく耳にするようになった。厚生労働省はたんぱく質や脂質、炭水化物など日本人に必要な33種類の栄養素を定め、栄養素の摂取量の基準を策定しているが、完全栄養食はこの栄養素を効率的に摂取できる食品のこと。現代はZ世代(1990年代中盤から2010年代前半に生まれた世代)を中心にタイパ(タイムパフォーマンス=時間対効果)への意識が高まるなか、料理を作ったりメニューを考えたりといった時間を効率化する傾向から、「完全栄養食」への関心が上昇。新規参入企業も増えており、市場の活性化とともに関連企業のビジネスチャンスも拡大している。
●完全栄養食は2010年代前半にアメリカで誕生
完全栄養食の発祥はアメリカとされている。10年代前半に誕生し、当初は粉末状で水に溶かして飲むものや仕事などの合間に片手で持って食べられるバー状のものが多く、栄養補助食品的な意味合いが大きかった。
その後、ビジネスパーソンを中心に食事の代わりになるような商品を求める声が高まり、パスタなど食事タイプの商品などが登場すると認知度がアップ。そこに新型コロナウイルスの世界的な流行も重なり、必要な栄養を効率的に摂取したいという人が利用するようになり市場が拡大した。
日本でも、10年代後半からベンチャー企業などが商品を投入し市場を形成し始めたが、こうした商品の多くはECによる販売が中心であり、プロモーションも限定的だったため、利用する人は一部の人に限られていた。こうしたなか、ベースフード <2936> [東証G]が17年に、自然食材を多く使用したパスタ「BASE PASTA」を発売したことで国内でも認知が広がり始め、その後大手食品メーカーなどが参入したことで、日本でも多くの人が知ることになった。
●バランス栄養食との違いは
完全栄養食とは、前述のように栄養素を効率的に摂取できる商品のことだが、定まった定義はない。似たような商品に「バランス栄養食」があるが、一般的にバランス栄養食は、特定の栄養が強化されている「栄養補助食品」のなかでも、複数種類の栄養素が入っているものをいい、食事にプラスするだけで、補うことが難しい栄養素を摂取できるものとされている。
一方の完全栄養食は、1日に必要な栄養素の種類をほぼ網羅しているので、これだけで1食分の摂りたい栄養素を補給できるようになっている。栄養バランスを気にする必要がないので、普段の食事の置き換えとなり、また栄養に対してカロリーや糖質が低い製品が多いことから、ダイエット目的の人なども利用している。
●国内市場規模は30年に22年比3.8倍へ
認知度が上昇するとともに、市場規模も拡大している。市場調査会社の富士経済(東京都中央区)によると、22年の完全栄養食の国内市場規模は144億円と推定。足もとで市場は順調に拡大していることから、30年の国内市場は22年の3.8倍にあたる546億円に拡大すると予測している。
同社によると、ベースフードなどがフレーバー展開や商品カテゴリーの強化などラインアップの拡充に意欲的であり、引き続き活発な商品展開やプロモーション展開が予想されるという。また、認知度向上により多様な商品カテゴリーで新規参入が期待されていることで、完全栄養食が食の新たな選択肢として定着し、市場規模を拡大させるとしている。
●完全栄養食の関連銘柄
完全栄養食市場はいまだにベンチャーも多く上場企業は限られているが、注目銘柄の代表格は先ほどから名前の出ているベースフードだ。17年に「BASE PASTA」を発売した後、19年にはパンタイプの「BASE BREAD」を投入。その後「BASE Cookies」や「BASE Pancake Mix」などラインアップを拡充させており、国内における完全栄養食のパイオニアとして認知されている。
日清食品ホールディングス <2897> [東証P]は、19年3月に「All-in PASTA」を発売し完全栄養食に進出。これが日本国内の完全栄養食市場拡大のきっかけになったとの見方もある。22年5月からは、栄養素とおいしさの完全なバランスを追求した「完全メシ」ブランドの発売を開始し、「カレーメシ」や「U.F.O.屋台風焼そば」などを投入。24年3月期はブランド売上高50億円規模だったが、26年3月期には100億円ブランドへと成長させる方針で、商品ラインアップの拡充や冷凍カテゴリーの投入などを行っている。
味の素 <2802> [東証P]は今年1月、“女性のための完全栄養食”と銘打った「One ALL」ブランドを発売した。食べ応えのあるショートパスタとスープがたっぷり入ったスープパスタをラインアップしており、自社のD2Cサイト「AJI MALL」を通じて販売。初年度の売り上げ目標を8000万円としており、25年度以降にはパスタ以外の主食タイプも開発するようだ。
ポーラ・オルビスホールディングス <4927> [東証P]は傘下のオルビスが今年5月、無添加の完全食おにぎり「COCOMOGU(ココモグ)」を発売し完全栄養食に参入した。1食(2個)で1日に必要な栄養素を効率的に摂取できる冷凍おにぎりで、専用サイトで販売しているほか、今後は企業向け福利厚生サービスとしてオフィスでも購入できるようにするなど法人向け営業にも力を入れ、今後5年のうちに年20億~30億円の売り上げを目指すようだ。
森永製菓 <2201> [東証P]は「inゼリー」ブランドから昨年11月、「inゼリー 完全栄養」を発売した。同商品は21年8月に一度発売し、当時は2袋が1食分だったが、リニューアルにより1袋で1日に必要な栄養の3分の1以上が摂れるように改良。オンラインショップによる限定販売だが、inゼリーブランドの強みを生かしてファン層を徐々に広げている。
このほか、バランス栄養食にも注目。「バランスオンminiケーキ」「毎日果実」などを展開する江崎グリコ <2206> [東証P]、「MITASE」「スローバー」などを展開するブルボン <2208> [東証S]、「カロリーメイト」シリーズで日本におけるバランス栄養食のパイオニアともいえる大塚製薬を傘下に有する大塚ホールディングス <4578> [東証P]なども関連銘柄として挙げられよう。
株探ニュース