【特集】米大統領選控えてトランプ・ラリーに現実味、原油相場は「リスク」よりも「雰囲気」重視<コモディティ特集>
minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司
●米金融緩和期待の高まりは原油相場を支援
今月発表された米雇用統計や米消費者物価指数(CPI)を手がかりに9月の米利下げ開始観測が強まっている。賃金上昇率は鈍化し、雇用環境の冷え込みがみられるほか、CPIの減速は物価の落ち着きを示唆している。CMEのフェドウォッチによると、9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)における利下げ確率は約9割まで上昇しており、市場参加者は利下げをほぼ確実視している。今月末のFOMCでパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が金融緩和の開始を示唆すると期待されている。8月は市場参加者だけでなく、米金融当局者も夏季休暇入りすることから、利下げを織り込ませるならば、今月末のFOMCが好都合だ。米金融緩和期待の高まりは、原油相場を支援する。
昨年末にパウエルFRB議長が利下げ開始を示唆してからずいぶんと待たされたものの、その条件がようやく整いつつある。グールズビー米シカゴ連銀総裁は「最近のインフレデータはきわめて好ましい」、「このようなデータが続けば確信を強めることができる」と述べている。11月に控えている米大統領選に向けて利下げが始まれば、金融相場の様相が強まっていくかもしれない。米CPIが鈍化している反面、米生産者物価指数(PPI)が加速していることは生産者が消費者に物価高を転嫁できていないことを示唆しており、インフレ圧力が全面的に後退しているわけではないが、金融市場でこれを危惧する雰囲気は限定的である。生産者が価格転嫁を見送っている背景はともかく、米シカゴ連銀総裁が述べているように物価指標の推移が極めて好ましいならば、金融市場の楽観的な雰囲気に追随する場面だろう。
●「雰囲気」重視でトランプ・ラリーの公算
米大統領選はトランプ前大統領が優勢である。暗殺未遂事件を経て支持率がさらに上昇し、ほぼ勝負が決まったのではないか。血を流しつつ、トランプ前大統領は強い指導者が再び登場することをアピールした。今更ではあるが、高齢不安がクローズアップされている現職とは対照的だ。主要な米株価指数は過去最高値を更新する流れにあり、バイデン米大統領の仕事ぶりは前向きに評価されているが、トランプ前大統領が勝利して米大統領の健康不安が払拭されるならば、あらためて株高を促す可能性が高い。
米利下げ開始期待が高まっていることや、米国にとってより望ましいと思われる大統領候補が注目されていることは、年後半のリスク資産市場を押し上げる可能性がある。就任当時のトランプ氏は旧ツイッター(現X)でとにかくつぶやくことが多い大統領で、市場参加者にとって波乱の玉手箱だったが、週末の事件を経て新たなイメージをまとった。石油輸出国機構(OPEC)に対して原油価格を下げるよう口うるさかった過去はあるものの、それはさておき、この前向きなムードに便乗する場面だと思われる。トランプ前大統領がまた中国やイランを敵視し、余計なイベントが発生するリスクもひとまず忘れよう。相場が変動する要因としてムードを重視すべきではないかもしれないが、利益を提供してくれそうな雰囲気に身を委ねることも選択肢の一つだと思われる。
(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)
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