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【特集】上振れリスクに満ちる原油相場、だぶつき気味の米石油在庫は重しとして不十分<コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司
 米エネルギー情報局(EIA)の週報で、戦略石油備蓄(SPR)を除く原油と石油製品の在庫は合計で12億9602万5000バレルまで増加した。2021年以来となる13億バレルの大台が迫っている。米国は1年間で最もガソリン需要が増加するドライブシーズンに入っているが、ガソリン消費の伸びは穏やかだ。今のところ石油在庫は増える一方で、需給が引き締まる兆候は見られない。

 EIAによると、ガソリン需要の4週間移動平均は日量908万5000バレルと増加傾向にあるものの、6月に入ってやや伸び悩んでいるほか、昨年の水準を下回っている。米連邦準備制度理事会(FRB)が金融緩和を開始する時期は不透明で、金利負担は重いままであり、低迷気味のガソリン消費からすると、家計は節約に励んでいるように見える。クレジットカードの延滞率上昇が示唆するように、生活必需品であるガソリンを切り詰めなければならない家計が多いというなら、昨年から米経済は着実に悪化している可能性が高い。なお、米ガソリン需要の前年割れは4月以降に顕著にみられる傾向だが、4月以降はガソリン小売価格の上昇が一巡し、低下に転じている。ガソリン小売価格が安くなっているにもかかわらず、消費者はガソリンの節約に努めている、ということになる。

●相場の主役はイスラエルとヒズボラの全面戦争リスク

 今年の米ドライブシーズンは始まったばかりだが、現時点でガソリン需要は期待はずれだ。ただ、ブレント原油ウェスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)など世界的な原油取引の指標となる原油相場は6月初めにかけて下値を探ったものの、その後は堅調に推移している。今週1日のWTI先物は1バレル=83.64ドルまで上昇し、4月以来の高値を更新した。米ドライブシーズンにおけるガソリン需要の低迷は、値動きの主軸ではない。イスラエルとレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの全面戦争リスクが主役の相場となっていると思われる。

 ミドル・イースト・アイや米ポリティコ、独ビルトの報道によると、今月には双方の武力衝突が本格化する可能性がある。イスラエルがパレスチナ自治区から完全に撤退しない限りヒズボラの攻撃は止まりそうにない一方で、イスラエルとしてはヒズボラをイスラエル北部のレバノン国境付近から早めに押し戻し、イスラエル北部の平穏を取り戻す必要がある。ヒズボラによってイスラエル北部の対空防衛システムは破壊されており、同国北部は攻撃に対して脆弱だ。米国が支援するイスラエルと、イランが支援するヒズボラの全面衝突は時間の問題であり、軍事対立が激化した場合は米軍基地が集中する中東は少なくとも巻き込まれるだろう。

●トランプ氏が勝利すれば価格上振れリスクが更に上昇

 また、絶対的なイスラエル支持者であるトランプ前大統領が11月の米大統領選で勝利しそうな気配があることは原油相場にとって不穏な兆候である。トランプ氏は在任中にエルサレムをイスラエルの首都として認定した経緯があり、親シオニストであることは明らかだ。イランを一方的に非難してイラン核合意を崩壊させ、対イラン制裁を再開したほか、イラン革命防衛隊(IRGC)のソレイマニ司令官を殺害し、第3次世界大戦のリスクを高めたのもトランプ前大統領である。イスラエルにとってトランプ氏は強い後ろ盾となるだろうが、手に負えない混乱をもたらす厄災かもしれない。

 世界最大の石油消費国である米国の需給の弱さがかろうじて上値を抑えているとはいえ、原油相場は上振れリスクに満ちている。市場参加者は米国の弱めの需給に目もくれず、レバノン・イスラエルの戦争や、トランプ相場に身構えている。石油輸出国機構(OPEC)プラスは10月以降の増産体制を整えて相場の上振れに対抗しようとしているが、視野にあるリスクの一つ一つが甚大であり、抗うことは不可能だろう。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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