市場ニュース

戻る
 

【特集】ペトロダラー合意を巡りざわつくSNS、サウジはドル建て取引を続けるのか?<コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司

●降って湧いた「ペトロダラー」騒ぎ

 今月になってソーシャル・メディアを賑わせた言葉がある。「ペトロダラー」である。世界最大級の産油国であるサウジアラビアが石油をドル建てで輸出する50年にわたる合意が今月9日をもって終了し、サウジはこの取り決めを継続しないというのがソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)で話題となった内容だ。

 ブラジル、ロシアなど新興消費大国の連合であるBRICSに加盟したサウジアラビアが石油のドル建て取引を停止するならば、サウジから石油を輸入するためにドルの確保が必要ではなくなる。BRICSを中心としたドル離れは明らかであり、準備通貨としてのドルの地位が瓦解していくと、米国は覇権国ではなくなるだろう。ハイパーインフレや米国債市場の不安定化によるソブリン危機を警戒しなければならない。2020年以降、米国の総債務は35兆ドル規模まで急速に膨張し、利払いも1兆ドルを上回るなど、米国の借金中毒は誰がどう見ても末期的で、サウジがペトロダラー合意を放棄するのが自然な流れであるように思える。いくらでも発行できる無担保の紙切れを蓄えるリスクは言うまでもない。

 ただ、石油のドル建て取引についての米国とサウジの具体的な取り決め文書は見当たらない。X(旧Twitter)上ではドル建て取引の期間が50年であることや、この取り決めが今月9日で失効すると指摘されていたが、筆者はそのように明文化されたペトロダラー合意の公式な文書を見つけることは出来なかった。大手金融情報サイトでは「マーケット・ウォッチ」がこの限られた界隈での不可解な一件を記事として取り上げているものの、SNS上の指摘を盛り上げる内容ではない。この真偽不明な話題に対して、主流メディアはほぼ完全に沈黙している。50年、あるいは6月9日という日付がどこから出てきたのか不明だが、いわゆるフェイクニュースではないか。ソーシャル・メディアXで拡散する内容に、根拠とされるソースが添付されることは多くない。

●サウジがドル建て以外で石油を販売できることを示唆

 一方、今回のペトロダラー騒ぎは人民元や円やリヤル、ルーブルなど、どのような通貨でもサウジが石油を販売できることを示唆している。ペトロダラー・システムはドルの基軸通貨としての地位を固める土台ではあるが、サウジが石油のドル建て取引を続けなければならない根拠は存在しないことになる。約50年前、当時のファハド王子(のち国王)とキッシンジャー米国務長官とのあいだで何らかの口約束があったのか、対外的な脅威を背景に米国製の兵器を欲していたサウジと、ドルを安定させる必要のあった米国の相互利益からペトロダラーが自然発生的に生まれたのか不明だが、石油をドル建てで輸出するようサウジを縛る合意がないのならば、サウジはこの慣行からいつでも抜け出すことが可能である。

 米国、あるいはサウジアラビアの政府関係者がこの一件について言及してくれるなら、いわゆるペトロダラー合意とは何かよりはっきりとする。SNS上の些細なざわつきについて一国の報道官がわざわざ言及することではないかもしれないが、真相に関心のある市場参加者は間違いなく多い。早ければ今年にもBRICS通貨が発足するとの観測があり、BRICS加盟国であるサウジの動きは要注目である。

 11月の米大統領選に向けて優勢を維持するトランプ前大統領は「ドル離れは許さない」と語っている。ドル需要の減少は米国にとって死活問題である。債務の膨張を米経済拡大の原動力とすることを可能にしたのはドルの供給拡大である。ドル離れは米国、あるいは欧米が主導する世界の終わりの始まりとなるだろう。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

株探ニュース

株探からのお知らせ

    日経平均