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【特集】OPECプラスは意図的に原油相場を圧迫か、主要産油国は高値維持政策を放棄へ? <コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司
 石油輸出国機構(OPEC)プラスは、減産するうえでのベースラインを修正しつつ、日量366万バレル規模の協調減産を来年末まで延長すると発表した。一部の産油国が実施している日量220万バレル規模の自主減産については6月末から9月末まで延長し、10月以降は自主減産の幅を毎月縮小する。ただし、10月以降の段階的な増産については市況次第で停止あるいは反転しうるという。

 今回の産油国会合の直前になって、日程のほか、対面あるいはオンラインなど会合の形式について変更があり、事前にバタバタした印象があった反面、合意がもたつくことはなく、主要産油国の決断は迅速だった。ただ、今年10月以降、あるいは来年の需給を見通す手がかりが出揃うまでにまだ十分な時間があるにもかかわらず、あっさり合意することに戸惑う産油国はなかったのだろうか。

●消費国に対し驚くほどやさしい政策

 現時点で10月以降の増産を決めなければならない理由は見当たらず、OPECプラスに相場を支えようとする態度は希薄だ。せめて9月に増産を発表するならば、少なくとも夏季の相場は堅調に推移した可能性が高いが、主要産油国は高値誘導を回避した。これまでは相場の高値維持に主眼が置かれ、産油国の舵取り役であるサウジアラビアは価格の下振れを許容しない頑な態度を示してきた。しかし、今回の決定は消費国に対して驚くほどやさしい。OPECプラスの閣僚会合後、ブレント原油ウェスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)先物は2月以来の安値を更新したが、不満を口にする産油国は見当たらない。

 例年、世界最大の石油消費国である米国のガソリン需要が7-9月期に1年間で最も増加するため、この時期の世界的な需給は引き締まりやすいが、このピークを過ぎると需要は緩む。OPECプラスは需要がピークアウトする時期に増産を開始しようとしており、秋からの原油安を受け入れようとしている。この産油国の態度は夏場のエネルギー高を抑制するだろう。需給バランスが緩む可能性が高いと確信できる時期が視野にあれば、需要が上振れするといっても夏場に強気に仕掛ける市場参加者は限られると思われる。今回の決定で、OPECプラスは夏場の原油高誘導を狙っておらず、むしろ抑制しようとしている。

 世界最大の石油消費国である米国では物価上昇率が高止まりする兆候がある。高水準の政策金利の据え置きが長期化し、重い金利負担に耐えきれず米景気が悪化するリスクがある。金融引き締めのなかでも主要な米株価指数が過去最高値を更新して、資産効果による消費を支えに米経済は堅調さを維持してきたが、株高が反転すると金利負担の重圧が一気に表面化する恐れがある。このリスクに対して慎重になることもなく、OPECプラスは増産を決めたのだろうか。それとも年内の米利下げ開始を確信しているのだろうか。

●OPECプラスの豹変は相場を押し下げる重石に

 市場参加者が何を重視するかにより値動きは分かれるものの、夏場の需給ひっ迫は焦点ではない印象だ。むしろ、サウジアラビアやロシアを中心としたOPECプラスの態度が様変わりしたことを意識しないわけにはいかない。相場を積極的、先制的に刺激しようとしてきたOPECプラスは何故か豹変した。市場参加者はこの驚くべき現実を目の当たりにしたばかりであり、消化するまでまだ時間が必要である。世界最大の石油カルテルの変容は相場をさらに押し下げる十分な重石であり、一時的に売りが収まっても弱気な流れは容易に反転しないだろう。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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