【特集】米金融緩和は原油を押し上げ、新たなインフレの扉を開くのか? <コモディティ特集>
minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司
●米金融緩和は原油相場の支援要因
今年の原油相場の方向性を眺めるうえでの焦点の一つは米金融政策見通しである。リスク資産の一角である 原油相場にとって金利の低下は支援要因であり、米連邦準備制度理事会(FRB)が高水準の政策金利をしっかりと調整するならば原油高の手掛かりとなるだろう。1月30日、31日に行われる今年最初の米連邦公開市場委員会(FOMC)でさらなる利下げ示唆はあるのだろうか。CMEのフェドウォッチによると、利下げ開始は早ければ3月とみられている。
昨年末、パウエルFRB議長は政策金利を高水準に維持することについて「あまりにも長く踏みとどまることのリスクを認識している」「われわれはそれがリスクであることを分かっており、そうしたミスを犯さぬよう非常に集中的に取り組んでいる」と述べた。インフレ高進が落ち着いた後の米経済のソフトランディングが見えており、景気悪化リスクをできる限り低減しようとしているようだ。
ただ、タカ派的な米金融政策見通しが転換したことで、一時的に米国債利回りは急低下し、ドルは下落した。ダウ平均など主要な米株価指数は最高値の更新を続けている。米インフレ指標はFRBの目標水準に回帰する方向にあるとはいえ、米利回り低下やドル安、株高はインフレ圧力を高める。リスク資産市場のなかでは比較的重い原油相場もFRBの舵取りによっては戻りを試すかもしれない。米インフレターゲットがまだ達成されていないなかで、物価上昇圧力を最小限に保ちつつ、景気にも配慮するという米金融当局者の意図は前途多難である。
●金融緩和圧力となる米大統領選と米国債市場
一方、2期目を目指すバイデン米大統領にとって、金融緩和は必要である。11月の米大統領選に向けて、バイデン米大統領の支持率は低迷しており、これを回復させるためには米経済を刺激しなければならない。いつまでも追加利上げに含みを持たせていたFRBが突如方向転換したのは当然の成り行きだろう。
FRBのハト派転換は米国債市場を下支えするためにも必要である。米国がウクライナやイスラエルへの莫大な支援を続けるのであれば、米国債のさらなる増発は不可避であり、昨年のような米国債市場の乱高下を回避するためには米金融当局の手助けは不可欠である。米国の総債務残高は昨年末に34兆ドルの大台に達し、借金体質の米国の債務増加ペースはさらに加速している。FRBの責務は雇用の最大化と物価の安定だが、米国債市場の安定化も使命となりそうだ。世界的なドル離れのなかで米国債の需要は不安定化しており、FRBは傍観できなくなっている。
本来であれば中央銀行は物価など経済指標を注視し、金融政策はデータ次第であると強調するものだが、今年の米金融当局はハト派的な舵取りを駆使するだろう。中央銀行の独立性は最優先ではない。FRBは国債増発により市場が乱高下しないよう米国債利回りを抑制しなければならない。親イランの武装組織は紅海を含めて中東各地で米軍を攻撃し、挑発を繰り返しており、大規模な戦争がまた始まるならば戦費の拡大は必至である。ウクライナやイスラエルに続き、米国はイエメンなど中東に戦費を投じることが可能なのだろうか。
FRBは利下げを示唆しつつ利回りを抑制し、米国債市場を守っている。ただ、口先だけであっても金融緩和は新たなインフレ局面の扉を開く可能性がある。そのとき、コモディティ市場は再び脚光を浴びるだろう。米大統領選に向けて、米金融政策に注目しなければならない。
(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)
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