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【特集】割安成長株が「本気出す」 サイバーバズ・高村彰典社長に聞く <トップインタビュー>

高村彰典氏(サイバー・バズ 代表取締役社長)

―インフルエンサー・マーケティングの先駆企業、売上高100億円目標へアクセル―

 今やほとんどの投資家が、SNS を情報収集手段として活用している。投資系インフルエンサー がどのような銘柄に着目しているのか、日々確認をしている投資家も多い。テレビで活躍していた芸能人がインフルエンサーとなって活躍するようになった昨今、SNSを通じた広告・マーケティング 支援の中核企業と位置付けられているのがサイバー・バズ <7069> [東証G]だ。

 インフルエンサーを活用した広告市場の成長が確実視され、業績拡大の期待は大きいものの、株式の流動性が低く、それゆえ同業比較での割安感は強い。企業価値とともに市場の評価をどう高めていくのか。高村彰典社長に直撃した。(聞き手・長田善行)

●ナショナルクライアントが信頼置くチェック体制

──ソーシャルメディア・マーケティングの市場規模は2027年に1兆8868億円と、23年の見通しの1.7倍に成長するとの予測が、サイバーバズとデジタルインファクト(東京都文京区)が公表した調査で示されています。一方で、この分野は参入企業も増えており、競争環境が厳しくなっているような印象も受けます。

 「確かにプレーヤーは昔よりは増えましたが、ナショナルクライアント(全国的な知名度を持つ大企業の広告主)における競合企業が増えている訳ではありません。当社は人気ブロガーによる商品紹介サービスから事業をスタートしており、個人のメディア化にいち早く携わってきた企業です。すべてのSNSプラットフォームを網羅し、企業に対してマーケティング戦略全体を一気通貫で提案できますし、これまでの実績もあります。インフルエンサーのSNS投稿内容についてしっかりとしたチェック体制を構築している点も大きな強みだと認識しています」

──国内では物価高が個人消費に及ぼす悪影響も懸念されています。化粧品・日用品などの大手企業とのビジネスを展開していますが、顧客の広告活動に変化の兆しは出ていますか?

 「今のところ変化はありません。むしろ足もとではインバウンド関連での広告活動が活発化するなど、ポジティブな動きが出ています。仮に個人消費が落ち込み、広告主の業績が圧迫されるようになれば、顧客の広告費に影響が出ることが見込まれますが、一方でコスト効率の高い広告活動に傾斜することも予想されます。顧客の反応が分かりやすいSNS広告を重視する姿勢が企業側で強まれば、当社の事業には追い風になります」

──フォロワー数がそれほど多くはなくても、特定の分野で発信力を持つマイクロインフルエンサーを広告に活用しようとする企業が増え、その対応が求められています。

 「キャンプやクルマ、コスメなどさまざまな分野において、非常に多くのマイクロインフルエンサーが存在します。広告主もフォロワー数が数十万人、あるいは百万人クラスのインフルエンサーだけでなく、マイクロインフルエンサーを活用してリーチを取り、エンゲージメントを高めていく姿勢が強まっています。同じインフルエンサーを繰り返し活用するのではなく、多彩なインフルエンサーを広告に登用したいというニーズも増えています。当社は多様なSNSプラットフォームに対応するインフルエンサーを豊富に抱えており、この点も強みだと考えています」

●TikTokとステマ規制の追い風、「スレッズ」で新規受注も

──23年9月期の連結売上高は前期比29%増の55億円、経常利益は同2.3倍の4億円と大幅な増収増益を計画していますが、ここにきてTikTok広告が業績のけん引役となっています。

 「今後1~2年ほどはTikTokを含めて動画関連のサービスが伸びていくと見込んでいます。広告主にとっては、マス広告ではリーチしにくい層である30代ぐらいまではインターネットの世界でリーチを取りにいかなければならない現実があります。このため広告予算をSNSの領域により多く配分する流れが鮮明となっています」

──ところで、ツイッターの閲覧規制が社会的に大きな動揺をもたらしました。混乱が冷めやらぬなか、メタ・プラットフォームズ<META>が「Threads(スレッズ)」を公開したことが注目を集めましたが、一連の騒動は事業にどのような影響を及ぼすことになるのでしょうか?

 「実際に、スレッズ関連での発注がありました。企業側の広告予算について、一部スレッズに配分されるような動きが今後、広がる可能性もあります。しかしながら、スレッズが今後1~2年で強烈な伸びをみせるかはまだ分かりません。どのような状況になっても、当社として迅速な対応が必要になります」

──日本国内では、広告主が広告であることを明示せずに宣伝活動をする「ステルスマーケティング(ステマ)」が景品表示法の禁止行為に指定されました。

 「広告業界の健全化につながりますし、当社には非常にポジティブな影響が期待できます。これまで業界団体とともに、ステマをなくすための仕組みづくりに努めてきました。しっかりとしたチェック体制が問われることとなりますので、当社の強みが生きてくると思います」

●生成AI導入で社内プロジェクト発進

──市場での御社のポジショニングを考慮すると、業績の更なる拡大が期待できそうですが、中期的な業績目標についてお聞かせください。

 「2年ほどで売上高100億円に到達できるようにしたいと考えています。内訳としては6~7割が既存事業で、それ以外は新規事業のイメージです。M&Aも引き続き、シナジーが見込める企業などがあれば積極的に検討していきます。もちろん、SNSの勢力図が今後、ガラリと変わっていく可能性もなくはありません。新たなSNSが生まれる前に次の手をいかに早く打てるか、新しいサービスやプロダクトをいかに早く創出できるか。それこそが、事業の安定性を高めるうえで重要だと認識しています」

 「インフルエンサーサービスでは、TikTokを中心にショート動画関連が拡大する形になると予測しています。サービス開発などへの投資も進めていく予定です。SNSアカウント運用は、オペレーションコストが非常にかかる領域でもあり、業務の効率化を推進して収益性を高めていきます。新規事業はどれが当たるのか分からない世界でもあるので、伸びそうな分野にリソースを寄せていく方向で考えています」

──業務効率の改善に向け、生成AIなどの導入を目指す企業も増えています。

 「エンジニアを中心に導入に向けたプロジェクトが動いています。AI全般でいえば、SNS投稿のチェック業務で効果を発揮しそうです。投稿の内容について、少しでも怪しいものをピックアップし、人間によるチェックの対象を絞っていくイメージです。オペレーション面で大幅な効率化が見込めるため、年内にも試験的に始めたいと考えています。複数の広告の素案から、最も効果が期待できるものを抽出するといった使い方もできるかもしれません」

──今期の経常利益は19年9月期の最高益に迫る水準です。今後の利益の見通しについてはいかがでしょうか?

 「コロナ禍が収束に向かい、事業の収益性が改善しましたが、次の事業を創造するための投資活動が必要なフェーズに差し掛かっています。いつ最高益を更新するのか、現時点では明言しにくいところがあります」

●株式流動性「課題として認識」、投資家向け情報発信を積極化へ

──業績期待はあっても株式の流動性が低いため、株式の購入をためらう投資家も存在していると思います。流動性の向上という課題にどう向き合っていきますか?

 「この点は大きな課題であると認識しています。業績を伸ばして企業価値と株価を高めながら、流動性の向上につなげていきたいと思っています。しっかりと個人投資家の方に、当社と事業の将来性について理解していただけるように取り組んでいこうと考えています」

──配当の実施や株主優待の導入、株式分割などは検討していますか?

 「新規の投資に可能な限りリソースを回す必要があるので、今のところ配当や株主優待の導入について検討していません。株式分割は、一つの選択肢としては考えられるものかもしれませんが、分割後に一時的に流動性が高まったとしてもそれを維持するには、やはり業績を伸ばすしかないのだと思います」

──個人投資家向けにどのように情報発信をしていきますか?

 「投資家向けのユーチューブチャンネルへの出演や、地方都市での個人投資家向けスモールミーティングなどの準備を進めています。SNSを通じた投資家向けの情報発信もツールとして重要だと考えています」

──自社が抱えるインフルエンサーのリソースを活用する手もありそうです。

 「確かに、金融や投資に詳しいインフルエンサーが何人かいますので、アイデアとしてはありかもしれません。いずれにせよ、投資家に向けた情報発信がまだ十分でない部分があると認識していますので、現状の打破に臨んでいきます」

◇高村彰典(たかむら・あきのり)
サイバー・バズ代表取締役社長。岡山県出身。青山学院大学卒業後、97年興和入社。99年サイバーエージェント入社。2005年取締役。10年10月より現職。

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