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【特集】ドル相場がコモディティの波乱要因に、米国離れはいつ現実となるか <GW特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司

●エネルギー取引はドル決済が減少

 2023年後半のコモディティ市場を見通す上で最も重要なのはドルの動向である。決済通貨や準備通貨の中心はドルだったものの、ロシアのウクライナ侵攻後の世界経済は多極化しており、人民元やロシア・ルーブル、インドルピー、ブラジル・レアルなど各国通貨による決済が広がりつつある。特にロシアから中国やインドへのエネルギー輸出は格段に拡大しており、この3ヵ国のドル決済は大幅に減少している。2022年のロシアからインドへの石油輸出は前年比で22倍となった。

 今年前半で最も印象的だったのは、中国海洋石油(CNOOC)とアラブ首長国連邦(UAE)の天然ガス取引である。ドルが中心だった天然ガスの決済が人民元で行われたほか、これを仲介したのが仏エネルギー大手トタル・エナジーズだった。決済・準備通貨として人民元の需要が強まっているのは明らかだが、フランスのエネルギー最大手がこの取引を仲介するのは時代の流れなのだろうか。

 西側首脳のなかでマクロン仏大統領はウクライナ紛争の終結に向けて最も熱心であり、和平協議の必要性を繰り返し主張してきた。先月マクロン大統領が訪中した際、「ウクライナ戦争を交渉により終結させるために両国は協力する用意がある」と表明した。マクロン大統領が“ロシアとウクライナの交渉につながる可能性のある計画”を中国に提案する意向であるとするブルームバーグの報道もあった。西側各国のなかでフランス政府の立ち位置は絶妙である。

●ドル離れが米国債市場を不安定化させる

 ドルが基軸通貨としての地位を失っていく過程で、ドルが売られるのは明らかである。国際調査機関ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)によると、2022年の中央銀行による金購入は1136トンと、1967年以降で最高となったことが意味するように、中銀はドルから金現物へ準備資産を移し替えている。はドルの代替資産であり、ドル離れの加速とともに、金の需要はさらに高まっていくだろう。

 ドル離れによるドル安は米国からの資金流出を引き起こすほか、米国債市場が不安定化する可能性が高い。世界中で流通しているドルが行き着く資産は主に米国債であり、ドルが基軸通貨であることが米国債市場の膨張を可能としてきたわけだが、ドル需要が後退すれば米政府はこれまでのように無尽蔵に米国債を発行するわけにはいかない。米国債の利回りを安定させつつ、米連邦政府の法定債務の上限は繰り返し引き上げられてきたが、新たに発行される米国債はいつまで無難に消化されるのだろうか。コロナ対策やウクライナ支援で湯水の如く浪費したことで、米国の総公的債務残高は昨年末の段階で31兆ドルを上回っている。ちなみに日本の場合、中央・地方政府の債務残高は約1200兆円である。

●連鎖するドル・米国債離れと金融システム不安

 新発の米国債に対する需要に陰りが見えたとき、金融市場はどのようなリスク回避の動きとなるのだろうか。従来の安全資産である米国債や逃避通貨であるドルに逃げることは出来ない。世界中の銀行や保険会社、機関投資家、年金基金は少なからず米国債を保有しており、米国債の不安定化、債務不履行(デフォルト)など想像もしたくないはずである。ドル離れ、米国債離れと金融システム不安は連鎖する。ドルや米国債を起点とした金融システム不安が本格化すると、沈静化する手段はおそらくない。

 ドル離れはスローモーションのように確実に進んでいる。もちろん、ドル離れを示唆するニュースが毎日あるわけでもなく、スポット市場で今のところドル安は目立っていない。米財務省が発表する対米証券投資でも、明らかな米国離れは見られない。ただ、小さな流れは大きくなっている。ドラムロールは始まっているかもしれない。

 サウジアラビアなど中東は、米国から離れロシアに接近している。中国の仲介もあって、代理戦争を繰り広げていたサウジとイランの外交が再開し、イエメンやシリアの紛争は終結に向かっていくことから、安全保障のうえで中東各国が米軍に頼る理由は薄れている。中東がロシアや中国の傘の下に入るならば、石油取引のドル離れをきっかけに世界は激変していくだろう。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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