【特集】相場観特集スペシャル版・今年後半の相場はどうなる? 松井証券 窪田朋一郎氏に聞く <GW特集>
窪田朋一郎氏(松井証券 投資メディア部長 シニアマーケットアナリスト)
―波乱含みの東京市場、年末に向けてFRBの利下げ機運がカギを握ることに―
4月初旬に東京市場は波乱含みの下げに見舞われたものの、その後は切り返しが急となった。活発な海外投資家の買いを背景に日経平均株価は年初来高値を更新したが、ゴールデンウィーク明け後は、例年下値リスクも意識されやすい時期である。インフレ高進と景気失速懸念という2つの難題を抱える米国の株価動向も大いに気になるところだ。年後半相場の見通しと投資の勘所について、第一線で活躍する市場関係者で鋭い考察と読みに定評がある松井証券の窪田朋一郎氏に年後半相場の展望を聞いた。
●「急速な円安進行ならトルコ型株高も視野」
窪田朋一郎氏(松井証券 投資メディア部長 シニアマーケットアナリスト)
ゴールデンウィーク明け後の全体相場については強気スタンスを取りにくく、むしろ下値に対して油断のできない相場展開が想定される。世界的に景気先行きに対する警戒感は拭えない状況であり、例えば、米景気のソフトランディングには困難が伴う。ましてインフレを抑制しながら景気が巡航速度を保ったまま着陸しない「ノーランディング」の実現可能性は非常に低いといってよい。
米連邦準備理事会(FRB)の金融政策急転換による高金利環境の影響で米経済は確実に減速している。例えばそれを物語るものとして不動産市況の軟化がある。大手IT企業のメッカであるシリコンバレーやサンフランシスコ周辺では、業績不振に伴う大規模な人員削減などを背景にオフィス需要が停滞、不動産価格の下落が顕著となっている。足もとのメモリー市況の悪化で半導体関連企業も苦戦中だ。スマートフォンやパソコン向けの半導体はコロナバブルで需要が盛り上がった反動が顕著であり、今はそのツケを払う格好となっている。
現在の景気実勢悪が続けば、今後も家庭用雑貨のベッド・バス&ビヨンド<BBBY>のように民間企業の経営破綻が断続的に発生する可能性も高まる。こうした環境下で米国株市場も夏場にかけて水準を大きく切り下げる公算が大きい。S&P500 指数で3800前後までの下落はありそうだ。ただし、企業業績が急速に悪化するなか、今度はFRBが金融引き締め策から緩和策(利下げ)に再び切り替えるタイミングがいずれ訪れる。それは11~12月ごろとみており、これを織り込む形で秋口以降は全体相場が戻り足に転じるとみている。
また、米国では来年に大統領選を控えており、是が非でも勝利を勝ち取りたいバイデン米大統領はインフレ制圧に成功したら、次は景気の落ち込みを放置するわけにはいかなくなる。再び財政出動を伴う景気刺激策に舵を切るはずである。FRBの利下げの動きと米政府の財政政策によって株式市場には再び強い追い風が吹くことが予想される。その場合、年末までにS&P500指数は4300前後まで水準を切り上げるケースが考えられる。
日本株は基本的に米国株市場と連動する動きが予想される。夏場にかけて日経平均はいったん下値を試す場面が想定され、その際には2022年以降のボックス下限ゾーンである2万6500円もしくはそれを若干下回る水準まで切り下げそうだ。そして、秋口から年末にかけては米国株市場に歩調を合わせる形で再浮上し、下げ幅の倍返しである3万円大台を超えてくるような強力な戻り相場に移行するとみている。
ただし、現在時点では年前半に日銀の金融政策正常化が図られると予想しているが、遅れた場合には円安が加速しそうだ。植田日銀総裁は当初の想定よりもハト派で、しかもコンセンサスを重視する傾向がある。海外投資家がこれに目を付けて円売りを仕掛けてきた場合には、円相場が急落し日本国内のインフレが更に加速するだろう。その場合、通貨価値の棄損を回避するために株式が買われる「トルコ型の株高」となる可能性もある。
テールリスクとしては米中対立の先鋭化で、具体的には台湾有事が警戒される。実際これが起こり得るとすれば今年ではなく来年である可能性が高いが、万が一年内に軍事的な衝突が起こった場合は、当然日本も巻き込まれ、東京市場は短期的に急落局面に遭遇することは避けられない。ただし、株価への下げ圧力は一過性で、その後は急激なアンワインドが生じるだろう。インフレと株高が同時進行する形で日経平均は短期間で上下にハイボラティリティな展開となることが予想される。
最後に個別株戦略を考えた場合、物色テーマとしてはインバウンド及びリオープン関連株の伸びしろはまだ十分期待できると考えている。そのなか優位性があるのは鉄道株で、JR東日本 <9020> [東証P]をはじめとするJRグループや、東急 <9005> [東証P]、京成電鉄 <9009> [東証P]といった私鉄株に注目しておきたい。一方、現在は風向きの悪い半導体関連も、夏場にかけて一段と下押す場面があれば、そこは買い場となる可能性が高そうだ。レーザーテック <6920> [東証P]、東京エレクトロン <8035> [東証P]、アドバンテスト <6857> [東証P]といった大手製造装置メーカーの逆張りを念頭に置きたい。このほか、米国で利下げ機運が高まってきたタイミングでは、グロース株に再び矛先が向くことになる。エムスリー <2413> [東証P]やリクルートホールディングス <6098> [東証P]といった銘柄に底入れ反転の動きが期待できる。
(聞き手・中村潤一)
<プロフィール>(くぼた・ともいちろう)
松井証券に入社後、WEBサイトの構築や自己売買担当、顧客対応マーケティング業務などを経て現職。ネット証券草創期から株式を中心に相場をウォッチし続け、個人投資家の売買動向にも詳しい。日々のマーケットの解説に加えて、「マザーズ信用評価損益率」や「デイトレ適性ランキング」「アクティビスト追跡ツール」など、これまでにない独自の投資指標を開発。
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