【市況】S&P500 月例レポート ― 金利上昇・高インフレの現実に屈した市場 (1) ―
S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。
●THE S&P 500 MARKET:2022年9月
個人的見解:ジャクソンホール後の株価急落の余波は収まらず
過去の実績を見ると、9月は1年で最もパフォーマンスが低調な月ですが(平均で1.03%下落)、今年もその通りとなりました。S&P500指数は9月に9.34%の広範囲にわたる下落を記録し(9月としては2002年9月の11.00%の下落に次ぐ下落率)、年初来では24.77%の下落となりました。これは2002年の28.94%下落以降では最大の下落率です(とはいえ、少なくともこれに続く2002年第4四半期には株価は7.92%上昇しています)。9月は全11セクターが下落し、S&P500指数構成銘柄で月間の騰落率がプラスになったのはわずか27銘柄でした(これら27銘柄中で年初来の騰落率がプラスとなっているのは14銘柄に過ぎません)。
ジャクソンホールでのパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の講演をきっかけとした相場下落の流れ(2022年8月26日にS&P500指数は3.37%下落)は、その後も続きました。9月に入ってから底値を拾う動きが散見されたものの、金利の上昇(現時点では、2023年に入ってもしばらくは続くと見られています)と高インフレ(高水準の雇用と強い需要が原因)という現実に対抗するには全くの力不足でした。株式市場は下値支持線とされていた3900を割り込み、6月16日に付けた終値の直近安値(3667)をも下回りました。3600(3610まで下げる場面もありました)を新たな支持線とする動きが続いたものの、取引最終日の大引けでついにS&P500指数は3600を割り込み、3585.62(同日の取引時間中の最安値は3584.13)で9月の取引を終えました。
今後を展望すると、10月は企業業績の発表が控えています。第3四半期の業績予想はすでに7%下方修正されており、ウィスパーナンバー(アナリストによる非公式の業績予想)の数値はこれよりも若干厳しいものとなっています。(家計部門の消費が続いていた第3四半期の実績値よりも)一層懸念されているのは、第4四半期のガイダンスです。消費を控える動きが見られ、インフレ上昇が続く中、FRBによる「調整」が一段と大きな影響を及ぼしてくるとみられるためです。
過去の実績を見ると、9月は44.7%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は3.28%、下落した月の平均下落率は4.62%、全体の平均騰落率は1.03%の上昇となっています(過去の実績では1年で最も悪い月)。2022年9月のS&P500指数は、9.34%の下落となりました。
10月は57.4%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は4.18%、下落した月の平均下落率は4.67%、全体の平均騰落率は0.46%の下落となっています。
今後の米連邦公開市場委員会(FOMC)のスケジュールは、2022年11月1日-2日、12月13日-14日、2023年は1月31日-2月1日、3月21日-22日、5月2日-3日、6月13日-14日、7月25日-26日、9月19日-20日、10月31日-11月1日、12月12日-13日、となっています。
S&P500指数は9月に9.34%下落して3585.62で月を終えました(配当込みのトータルリターンはマイナス9.21%)。8月は3955.00で終え、4.24%の下落(同マイナス4.08%)、7月は4130.29で終え、9.11%の上昇(同プラス9.22%)でした。過去3ヵ月では5.28%下落(同マイナス4.88%)、年初来では24.77%の下落(同マイナス23.87%)、過去1年間では16.76%下落(同マイナス15.47%)、2022年1月3日の最高値からは25.25%の下落(同マイナス24.35%)となり、今年の安値である3585.62(2022年9月30日)で月を終えました。コロナ危機前の2020年2月19日の高値からは5.89%上昇(同プラス10.41%)でした。
ダウ・ジョーンズ工業株価平均(ダウ平均)は8.84%下落の2万8725.51ドルで月を終えました(配当込みのトータルリターンはマイナス8.76%)。8月は3万1510.43ドルで終え、4.06%の下落(同マイナス3.72%)、7月は3万2845.13ドルで終え、6.73%の上昇でした(同プラス6.82%)。ダウ・ジョーンズ工業株価平均(ダウ平均)は正式に弱気相場入りし、2022年1月4日の最高値(3万6799.65ドル)からは21.94%下落して月を終えました。過去3ヵ月では6.66%下落(同マイナス6.17%)、年初来では20.95%の下落(同マイナス19.72%)、過去1年間では15.12%下落(同マイナス13.14%)しました。
●主なポイント
○(FRBが再度0.75%の利上げを決定した後の)金利の動向、企業利益(2022年第3四半期の利益予想は7%下方修正)、個人消費(物価上昇と消費減速)といった要因が株価を押し下げるという懸念を背景に、市場では下値抵抗線を模索する動きが続きました。S&P500指数は3900の抵抗線を割り込み、さらに2022年6月16日に付けた直近最安値をも下回りました(3610.40まで下落)。市場は金利の上昇が長引くことを受け入れ、3600の抵抗線を維持しようと試みましたが、結局9月の終値は3600を下回りました(3585.62)。9月にS&P500指数は9.34%下落し、全11セクターで月間の騰落率はマイナスとなりました。2022年第3四半期は5.28%の下落(月間の騰落率がプラスとなったのは1セクターのみ)、年初来では24.77%下落となりました(同1セクター)。
⇒コロナ危機前の2020年2月19日の高値からの上昇率は2022年9月末時点では5.89%でしたが、過去最高値を付けた2022年1月3日時点では41.65%でした。
○決算期がずれている企業による2022年第3四半期決算の発表が始まりました。15銘柄中9銘柄で利益が予想を上回り、また9銘柄で売上高が予想を上回りました。第3四半期は前期比17.8%、前年同期比6.1%の増益が見込まれています。
2022年第2四半期の決算発表シーズンが終わり、暫定分を含む決算内容を振り返ると、372銘柄で営業利益が予想を上回り(74.5%)、102銘柄で予想を下回り、25銘柄で予想通りとなりました。また、売上高は356銘柄で予想を上回り(71.5%)、四半期ベースでの過去最高を更新しました。2022年第2四半期は前期比5.0%の減益(第1四半期は過去最高となった2021年第4四半期から13.0%減益)、前年同期(2021年第2四半期)比10.0%の減益となりました。売上高は前期比2.3%増、前年同期比12.2%増となり、過去最高を更新しました。
2022年第2四半期中に株式数の減少によってEPS(1株利益)が大きく押し上げられた発表済みの銘柄の割合は、2022年第1四半期の16.6%から2022年第2四半期は19.8%に上昇しました(5銘柄中1銘柄近く)。この割合は、2021年第2四半期は5.4%でした(2020年第2四半期は17.8%、2019年第2四半期は24.2%)。2022年第2四半期に、企業によるコスト上昇の転嫁はあったものの、営業利益率は10.86%となり、前四半期の11.93%から低下しました(1993年以降の平均は8.24%、過去最高は2021年第2四半期の13.54%)。
○S&P500指数の日中ボラティリティ(日中の値幅を安値で除して算出)の9月の平均値は1.91%となり、8月の1.28%から上昇しました(7月は1.68%)。年初来では平均1.85%(8月末時点では1.85%)となりました。2021年は0.97%、2020年は1.73%、2019年は0.85%(2018年は1.21%、2017年は0.51%で、これは1962年以降で最低)でした。
○S&P500指数は9月に9.34%下落して3585.62で月を終えました(配当込みのトータルリターンはマイナス9.21%)。8月は3955.00で終えて4.24%下落(同マイナス4.08%)、7月は4130.29で終えました(9.11%上昇。同プラス9.22%)。過去3ヵ月では5.28%の下落(同マイナス4.88%)、年初来では24.77%の下落(同マイナス23.87%)となっています。
○バイデン大統領が勝利した2020年11月3日の米大統領選挙以降では、同指数は6.42%上昇(同プラス9.57%)しています。しかしながら、翌2021年1月20日の就任式以降では6.91%の下落(同マイナス4.52%)となっています。
○同指数に関する主な騰落率:2022年1月3日に付けた終値での最高値から25.25%下落(同マイナス24.35%)、コロナ危機前の2020年2月19日の終値での高値からは5.89%上昇(同プラス10.41%)しています。
※「金利上昇・高インフレの現実に屈した市場 (2)」へ続く
株探ニュース