【特集】「アルテミス計画」本格始動! 成長軌道に乗る「月面探査」関連株 <株探トップ特集>
人類の月面再訪を目指す「アルテミス計画」のロケット打ち上げが迫っている。同計画は米国を中心に日本なども参加しており、月を舞台とした新たなビジネスが生まれようとしている。
―目前に迫る新・宇宙時代の到来、探査は月そして火星へ―
米国を中心とした月面探査「アルテミス計画」に向けた動きが本格化しつつある。米航空宇宙局(NASA)が3日に予定していた新型ロケット「スペース・ローンチ・システム(SLS)」の打ち上げは再延期となり、ロケット打ち上げの難しさが改めて示されるかたちとなったが、1号機で無人飛行に成功すれば2024年には宇宙飛行士が搭乗する2号機を月の周回軌道に送り込む予定だ。同計画には欧州やカナダをはじめ日本も参加しており、関連銘柄に注目したい。
●物資輸送など期待される日本の役割
アルテミス計画とは、米国が提唱する月面への有人着陸に関するすべてのプログラムの総体で、25年以降に飛行士が月面に着陸し、その後、ゲートウェイ(月周回有人拠点)計画などを通じて月に物資を運び、月面拠点を建設、月での人類の持続的な活動を目指している。月に着陸することが目的だったアポロ計画とは異なり、アルテミス計画は30年代の有人火星着陸を実現するための能力を培うことを目的としており、それに向けて月面で水などの資源を開発する。
日本は19年10月にアルテミス計画への参加を表明し、20年7月にはNASAと文部科学省が月探査協力に関する共同宣言に署名した。この共同宣言では、ゲートウェイ居住棟への機器などの提供や補給、月面データの共有、月面を走行するための与圧ローバ(探査車)開発を中心に協力するとし、日本人宇宙飛行士をゲートウェイ及び月面に送る方向で合意している。また、日本は新型無人補給機「HTV-X」やH3ロケットを使ったゲートウェイへの物資輸送も担当する予定で、月を舞台とした新たなビジネスが生まれようとしている。
●宇宙無人建設革新技術開発事業に注目
国土交通省及び文科省は「宇宙開発利用加速化戦略プログラム」(スターダストプログラム)の一環として、21年7月に「宇宙無人建設革新技術開発推進事業」を開始している。
これは月面での建設活動を目指して技術研究開発(R&D)を推し進めるもので、22年度の実施対象の一つが大成建設 <1801> [東証P]を代表者とした「月面適応のためのSLAM自動運転技術の開発」だ。これは月面のような特殊な環境に適応可能な自動運転技術の構築を目指すもので、環境情報を活用するLiDAR-SLAM技術と人工的な特徴点を活用するランドマークSLAM技術を統合する。
熊谷組 <1861> [東証P]や住友林業 <1911> [東証P]、加藤製作所 <6390> [東証P]などは「索道技術を利用した災害対応運搬技術の開発」を手掛ける。重要な課題である月面におけるクレーター内部や洞窟内への物資投入や採掘資源の運搬は、運搬路のリスクを軽減し、作業環境対応に優れた自動化技術が必要となる。この開発では、安定した物資運搬である索道技術を災害対応に活用することで、月面での洞窟内への物資投入や月面永久影と日照域との連続運搬システムの開発に向けたR&Dを行う。
技研製作所 <6289> [東証P]の「圧入技術の宇宙空間における可能性検証」は、技術開発や実証に着手するR&Dステージに進む。同社の杭圧入引抜機「サイレントパイラー」やシステム機器は他の杭打ち機と異なり、地盤に打ち込んだ杭をつかみ、その引き抜かれまいとする抵抗力(反力)を利用して次の杭を打つことができるため、機械重量で機体を安定させる必要がなく、原理上、無重力空間でも施工することが可能。R&Dステージでは月面での建設活動を想定し、地盤情報推定技術や自動運転技術を駆使した実証試験に取り組む。
また、大林組 <1802> [東証P]が代表者となっている「月面における展開構造物の要件定義と無人設営検討の技術開発」及び「月資源を用いた拠点基地建設材料の製造と施工方法の技術開発」、清水建設 <1803> [東証P]を中心とした「自律施工のための環境認識基盤システムの開発及び自律施工の実証」及び「月面インフレータブル居住モジュールの地上実証モデル構築」、鹿島建設 <1812> [東証P]主体の「建設環境に適応する自律遠隔施工技術の開発-次世代施工システムの宇宙適用」、コマツ <6301> [東証P]の「デジタルツイン技術を活用した、月面環境に適応する建設機械実現のための研究開発」などが実施対象となっており、アジア航測 <9233> [東証S]は立命館大学などと「月面の3次元地質地盤図を作成するための測量・地盤調査法」の開発を進める。
これ以外では、経済産業省の「月面における水電解技術開発」の委託先に採択された実績のある高砂熱学工業 <1969> [東証P]、月面探査車用タイヤを手掛けるブリヂストン <5108> [東証P]、21年に宇宙航空研究開発機構(JAXA)と月面基地の建設に向けた位置測位の実験を行ったカシオ計算機 <6952> [東証P]、19年からJAXAと有人与圧ローバの共同研究を行っているトヨタ自動車 <7203> [東証P]などの動向にも目を配っておきたい。
●東レ、特殊陶、三菱重なども要マーク
民間主導では宇宙スタートアップ企業のispace(東京都中央区)がランダー(月着陸船)での月面着陸を目指しており、22年末にも打ち上げる計画だ。同社の民間月面探査プログラム「HAKUTO-R」では、独自のランダーとローバを開発して月面着陸と月面探査の2回のミッションを実施する予定で、コーポレートパートナーとなっているのが日本特殊陶業 <5334> [東証P]、スズキ <7269> [東証P]、シチズン時計 <7762> [東証P]、住友商事 <8053> [東証P]、日本航空 <9201> [東証P]など。サポーティングカンパニーとして参画している東レ <3402> [東証P]グループの東レ・カーボンマジックは炭素繊維強化プラスチック(CFRP)機体や部品開発をサポートしているほか、横河電機 <6841> [東証P]は月面での経済活動に必要なインフラの実現に向けて開発を行っている。
加えて、産学官連携のワーキンググループ「月面産業ビジョン協議会」のメンバーとして名を連ねている日揮ホールディングス <1963> [東証P]傘下の日揮グローバル、ユーグレナ <2931> [東証P]、千代田化工建設 <6366> [東証S]、三菱電機 <6503> [東証P]、NEC <6701> [東証P]、三菱重工業 <7011> [東証P]、川崎重工業 <7012> [東証P]、凸版印刷 <7911> [東証P]なども要マークだ。
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