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【市況】明日の株式相場に向けて=製造業の難敵となる上海リスク

日経平均 <日足> 「株探」多機能チャートより
 きょう(11日)の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比46円高の2万6213円と3日ぶり反発。漸くリバウンドに転じたとはいっても自律反発と呼べる代物ではなく、TOPIXはマイナス圏での着地。実質的には東京市場の下値模索は続いている。

 きょうは後場取引時間中に発表されたトヨタ自動車<7203>の決算発表にマーケットの視線が集中した。当然ながら23年3月期の業績予想に耳目が集まったわけだが、営業利益は前期比20%減の2兆4000億円予想で、これには一瞬息を呑む市場関係者も多かったのではないか。事前コンセンサスは前期比4割増の3兆3900億円前後だったが、そこから約1兆円のショートである。これを受けて、発表直後から同社の株価は急降下した。AIアルゴリズム売買の影響はあるが、間断なく売り注文が這わされ5分後には5%超の下落で2050円まで水準を切り下げた。もっとも、一直線に下落したわけではなく、想定為替レートを1ドル=115円としていることが株価の上下動を複雑にした。

 国内企業の中で断トツの為替感応度を有する同社は、1円の円安で約500億円強の利益押し上げ効果があるからだ。もし設定を実勢である1ドル=130円とすれば7500億円あまり上乗せされる勘定となる。少なくとも115円設定は厳しく見過ぎではないかとの思惑も漂った。ただし、資材価格の高騰に加え、上海ロックダウンの影響を重く見る向きもある。「中国・習近平政権のメンツをかけて推し進めるゼロコロナ政策は、10月の共産党大会まで続く」(中堅証券アナリスト)という指摘もあり、その場合は上海発のサプライチェーン問題が大炎上する可能性も否定できない。株式市場はこの上海リスクと改めて対峙する局面に入っているのかもしれない。

 当欄では過去にも取り上げたことがあるが、独哲学の権威ニーチェの至言に「信念は嘘よりも危険な真理の敵である」というものがある。相場格言ではないが、株式投資においてもそのまま当てはまる。例えば、投資家が多大な運用益を獲得するためには、あくせくと短期売買を繰り返していては埒(らち)が明かず、テンバガー銘柄のようないわゆる大化け株を掘り当てることが大事であり、そのためには強い意志(=信念)が必要であるという論調。正論にも聞こえるが、これには大きな落とし穴がある。

 強い意志が必要であるとすればそれは“利益が乗っている時に売らない勇気”である。含み益というのは投資家にとってアドバンテージだが実現益ではない。利が乗った時に「利食い千人力」で対処する銘柄と、そうではなく近い将来の成長性を見据え、最初から中長期投資するつもりの銘柄と色分けするのは戦略上重要だが、引かされた時(含み損を抱えた時)にどうするかという答えは一緒、信念に関係なく「躊躇せずに売る」ことだ。

 どこで切るかは、最初にロスカットポイントを決めて、決めたらそれを確実に実行しなければならない。「一度は大きく引かされたけれど、信念をもってこの銘柄をホールドし続けて良かった」と言えればそれは素晴らしいことだが、十中八九、「なぜあそこで逃げなかったのだろう」というパターンに陥る。

 株式投資で求められるのは柔軟性であり、相場の流れに抗っても決して勝てない。投資した銘柄が思惑とは違う値動きを示し株価が選択の誤りを告げている場合、そこは柔軟に仕切り直す(ロスカットする)のが大切な作業となる。“利益が乗っている時に売らない勇気”と並び立つのは“損している時に売る勇気”である。信念が危険である理由、それはしばしば「感情」に置き換えられてしまい、潜在意識下で失敗を否定する道具に使われてしまうこと。これは含み損を大きくしてしまうということよりも、投資家としては他に有望な投資対象が出現した時に手元資金の不足により好機を逃してしまうというリスクが大きい。今のような中勢下落トレンドの相場では、ロスカットルールの設定と遂行こそが重要となる。

 あすのスケジュールでは、3月の国際収支、日銀金融政策決定会合の主な意見、4月のオフィス空室率、4月の景気ウオッチャー調査など。海外ではフィリピンの1~3月期GDP、英国の1~3月期GDP、4月の米卸売物価指数など。国内主要企業の決算発表では帝人<3401>、SUMCO<3436>、資生堂<4911>、三菱重工業<7011>、東京エレクトロン<8035>、三菱地所<8802>、ソフトバンクグループ<9984>などが挙げられる。(銀)

出所:MINKABU PRESS

最終更新日:2022年05月11日 17時12分

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