【特集】自称「不良中年」、正直投資で会社にサヨナラ
登場する銘柄
アッヴィ<ABBV>、ブロードコム<AVGO>、ギリアドサイエンシズ<GILD>、IBM<IBM>、ジョンソン・エンド・ジョンソン<JNJ>、マクドナルド<MCD>、モンダリーズインターナショナル<MDLZ>、アルトリア・グループ<MO>、ペプシコ<PEP>、ファイザー<PFE>、P&G<PG>、フィリップ・モリス・インターナショナル<PM>、シェルADR<SHEL>、サザン<SO>、AT&T<T>、ベライゾン・コミュニケーションズ<VZ>、エクソン・モービル<XOM> |
自称「メーカー勤務の窓際職」のサラリーマン投資家。60歳を迎える、今2022年夏に定年退職予定。会社では出世競争から脱落した"不良中年"だったが、仕事で余ったエネルギーを株式投資に向けたことが奏功し今年4月には億り人達成。19年には目標の年間配当金300万円を達成しており、安泰のリタイア生活を送れる見通しがついている。投資でも順風満帆とはいかず、日本株や海外投信、FX(外国為替証拠金)取引などで大ヤラレ体験。その失敗を糧に08年から転身したアメ株インカム投資で花が開く。投資本『株式投資の未来』(日経BP社)をバイブルとし、そこで身に付けたバイ&ホールドの投資法を愚直に貫いている。
今回登場する正直者さん(ハンドルネーム)は、自らを「不良中年」と名乗る投資家さんだ。
「正直者」というネーミングもかなりユニークなうえ、さらに「不良中年」ときた。それはどういうことか。興味津々で話を聞くと、不良とは、勤めている会社に対して態度がよろしくなかった自分を言い表しているのだという。
と言っても、横領や詐称、上司にあからさまに反抗したり、誰かに危害を加えたりする類の不良とは違う。正直者さんにとって、優秀なサラリーマンとは、会社そして組織のために一心不乱に尽くし、出世を目指して努力している人のこと。こうした様を滅私奉公と捉えると、正直者さんはそうした姿と一線を画してきたサラリーマンだ。
組織人からずれば、仕事はそこそこながら、それなりの給料をもらっているような自分は「不良社員」。これが自ら「不良中年」と名乗るゆえんだ。
といっても、正直者さんは、地元では大手のメーカー企業に勤務し、欧州そして米国に合計二度の海外赴任をしている。傍からは、エリート社員のように映る会社人生を歩んできた。それでも「不良」と言うのには、自分が思い描いていた会社員としての姿とは、異なる状況に置かれたことに落胆したこともある。
50歳にさしかかる頃、組織の出世コースから外れた「窓際族」であることに気づいたという。その立場から脱するために、会社に滅私奉公して挽回をはかる選択肢もあった。しかし、それは「本来の自分の姿ではない。自分の気持ちに正直にありたい」と、会社に捧げるエネルギーを、別に向けることにした。それが若い頃から取り組んできた株式投資だ。
当初は日本株、そしてFX(外国為替証拠金)取引などを手掛けてきたが、そこからアメ株に投資対象を移し、高配当株を長期投資(バイ&ホールド)するスタイルを確立した。
その決断は見事成功。この4月には億り人に到達。そして年間にもらう配当金も300万円を超えるまでに増え、今後、自身が会社を退職しても、妻と子供2人の家計を支えていく見通しはほぼ立った。今夏に60歳を迎える正直者さんは再雇用や雇用延長の道もあったが、すでに勤務先に退職願いを提出。今後は専業投資家として、セカンドライフを歩むことにした。
「滅私奉公してまで出世街道を歩みたくはない」と自分の心に正直に向き合った結果、自分年金300万円を築き、60歳で会社とサヨナラする目標を現実にした正直者さんの投資法とは、どんなものなのか? 2回シリーズで紹介する。
今回は、現在取り組むアメ株投資について見ていこう。
高配当のディフェンシブ系を中心にバイ&ホールド
「たとえこの先どんな相場になろうと、インカムゲイン投資家として注目するのは本業で稼ぐ力が継続しているかどうか。株価は気にすることなく、これまで続けてきた優良配当銘柄への投資を愚直に、かつ淡々と続けていくのみです」
正直者さんのインカムゲイン獲得の基本は、高配当かつ好業績の銘柄をバイ&ホールドし、配当は再投資して複利効果で資産を拡大させていくもの。足元の保有銘柄を見ると、ディフェンシブ関連を中心とした内需系の17銘柄が並ぶ。
医薬品関係では、バイオ医薬品のアッヴィ<ABBV>、医療や健康関連メーカーのジョンソン・エンド・ジョンソン<JNJ>、ファイザー<PFE>、食品・飲料系ではハンバーガーのマクドナルド<MCD>、コーラのペプシコ<PEP>、たばこメーカーのフィリップ・モリス・インターナショナル<PM>、アルトリア・グループ<MO>などがある。
■正直者さんの保有銘柄(22年3月末時点)
銘柄名 <コード> | 主な商品・ サービス | 配当利回り |
アッヴィ <ABBV> | バイオ医薬品 | 3.40% |
ブロードコム <AVGO> | 通信向け半導体 | 2.57% |
ギリアドサイエンシズ <GILD> | 感染再治療薬 | 4.60% |
IBM <IBM> | コンピューター | 4.81% |
ジョンソン・エンド ・ジョンソン<JNJ> | 医療・ヘルスケア用品 | 2.27% |
マクドナルド <MCD> | ハンバーガー | 2.11% |
モンダリーズインターナショナル <MDLZ> | 食品 | 2.13% |
アルトリア・グループ <MO> | 食品・たばこ | 6.41% |
ペプシコ <PEP> | 食品・飲料 | 2.45% |
ファイザー <PFE> | 医薬・ヘルスケア | 3.20% |
P&G <PG> | 一般消費財 | 2.03% |
フィリップ・モリス ・インターナショナル<PM> | たばこ | 4.77% |
シェルADR <SHEL> | 石油・化学製品 | 3.05% |
サザン <SO> | 電力 | 3.55% |
AT&T <T> | インターネット・音声通信 | 10.80% |
ベライゾン・ コミュニケーションズ<VZ> | 総合電話通信 | 5.14% |
エクソン・モービル <XOM> | 石油 | 4.24% |
保有銘柄で特徴的なのは、どれも配当利回りが最低でも2%以上と高水準で、かつ持続的に増配を行う企業が多いこと。特にたばこのフィリップモリスは現在4%後半、アルトリアは6%台とかなり魅力的。また、ジョンソン&ジョンソンは5%を超える増配率で連続60期増配という驚異的な実績を積んでいる。
成長分野では半導体メーカーのブロードコム<AVGO>を加えているとはいえ、昨年までアメ株イケイケ相場を牽引してきたGAFAM*のようなキラキラ銘柄は、基本、投資のメインターゲットとはしていない。10倍株(テンバガー)狙いなど、短期で株価の値上がり益を追求する投資法は、過去に犯した失敗から自身には向かないと考え、日々淡々と、自分なりの投資法を積み重ねている。
*GAFAM(グーグルの親会社のアルファベット、アップル、旧FBのメタ・プラットフォームズ、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフトの略)
本業で稼ぐ力に注目
ただし、高配当重視と言えど、配当利回りが高ければそれでいいというわけではない。先に紹介した正直者さんの言葉にあるように、重視するのは本業でしっかり稼いでいるかどうか。そのために企業の開示情報では、特に、「売上高営業キャッシュフロー比率」に注目する。
この指標は、企業の持つ現金をどれくらい効率よく生かして稼ぎを上げているかを見るもので、営業活動での収支を示す営業キャッシュフローを用い、「営業キャッシュフロー÷売上高×100」の計算式によって求めた値だ。
企業が毎年儲けを出して、現金資産を着実に積み上げるビジネスモデルを持っていれば、高い競争力を維持できる。さらに、その現金資産をビジネスに再投資することで、より多くの利益を生むことができ、ひいてはそれを原資に高水準の配当を維持し、連続増配にもつなげられる。
企業決算の分析においては、四半期決算ごとに発表される損益計算書(PL)の売上高や利益の数字を追うのがオーソドックスなやり方だ。しかし、PLに記載される数字は発生ベースで実際には受け取っていない収益や一時的な利益、そして為替差益なども含まれる。
配当をしっかり出し続ける力があるかを見極めるには、企業本来の稼ぐ力がどれだけの水準なのかをチェックする必要があると、正直者さんは強調する。
自身のやり方を愚直に続けて目標達成
ポートフォリオ管理の基本線としては、保有する銘柄が減配に追い込まれた場合は除外の対象に。反対に、売上高営業CF比率が同業他社より高水準で財務内容が良好、かつ配当利回り3%以上などの魅力的な銘柄が見つかった場合には、新規組み入れの対象とする。
これらの考え、保有する銘柄群から見て取れるように、正直者さんの投資スタイルの特徴は、とにかく堅実に一歩一歩進んでいくこと。かつて手掛けた日本株投資から、2008年にアメ株投資に転身して以降、高配当銘柄中心のインカム重視の投資を愚直なまでに貫いてきた。
配当金の再投資によって運用資産額は順調に拡大、それによって受け取る配当額も増えていく好循環を体現。これによって、19年には目標としていた年間配当額300万円超えを達成した。
■正直者さんの累積配当収入の推移(税込み)
銘柄別のトータルリターンで見ると、好成績のものでは09年から投資しているマクドナルドは3月末現在で約5倍以上(426%)、08年からのジョンソン&ジョンソンは約4倍(301%)、ペプシコ(09年から)とファイザー(08年から)、一般消費財のプロクター・アンド・ギャンブル<PG>(09年から)も4倍近くまで膨らんでいる。
■マクドナルドの月足チャート(08年~)
注:出来高・売買代金の棒グラフの色は当該株価が前期間の株価に比べプラスの時は「赤」、マイナスは「青」、
同値は「グレー」。以下同
足元の投資環境を見ると、
インフレの高進に伴う米国の金融引き締め策が、株式市場の需給や企業業績に悪影響を与える可能性、
ロシアのウクライナに対する軍事攻撃の長期化、
中国の過剰とも見られるコロナ対策で国際サプライチェーンの混乱と経済需給の不均衡を誘発、
――といった、複数のリスク要因がのしかかる。
だが正直者さんは、全体相場が軟調ムードにある時期のほうが、保有するディフェンシブ系の底堅さが発揮されるものと考えている。
では、正直者さんは、バイ&ホールド型の投資を貫くために、数多い上場企業の中からどう銘柄選びをしているのか。
※当該情報は、一般情報の提供を目的としたものであり、有価証券その他の金融商品に関する助言または推奨を行うものではありません。
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