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【特集】デリバティブを奏でる男たち【1】 アルケゴス・キャピタルのビル・フアン(前編)


◆巨大なブロック・トレード

 本連載では、デリバティブが市場に対してどのような影響を与えながら発展してきたのかについて触れつつ、デリバティブ市場の発展に寄与した人物や過去に名を馳せた投資家、ファンドを紹介していきたいと思います。
 
 第1回目は、投資ファンドのアルケゴス・キャピタル・マネジメントを率いるビル・フアンについて取り上げます(※)。アルケゴスは巨額損失で話題となっていますので、その名をご存じの方も多いと思われますが、今回の事態が発覚するまで、その存在は一部の市場関係者にしか知られていませんでした。
 
 それはアルケゴスが、米国証券取引委員会(SEC)に登録することが必要なヘッジファンドではなく、個人や家族などの金融資産を運用するファミリーオフィスとして、ヘッジファンドに課せられる規制や主要な情報開示を免れていたことが、大きな要因であったと考えられます。
 
 ビル・フアンは過去にヘッジファンドを運用していましたが、2012年にインサイダー取引や相場操縦の疑いでSECから提訴され、ブローカーや投資アドバイザー、証券ディーラーなどの業務に就くことを生涯禁じられたため(5年で再審査の権利を有する)、ファミリーオフィスという運用形態を選択するに至りました。
 
 今回のアルケゴスの巨額損失問題が表沙汰になったきっかけは、2021年3月26日に米株式市場で執行された巨大なブロック・トレード(主に立会外で行われる相対取引)でした。取引を実施したのはゴールドマン・サックス・グループ(GS)とモルガン・スタンレー(MS)で、ゴールドマン・サックスが105億ドル(1ドル=110円換算で約1兆1550億円)、モルガン・スタンレーが約130億ドル(約1兆4300億円)相当の株式をそれぞれ売却したと報じられています。ブロック・トレードが確認された主な銘柄は以下の通りです。

【タイトル】
出所:各種報道

 このブロック・トレードの後にアルケゴスと取引のあった金融機関が続々と多額の損失を発表、あるいは報じられています。クレディ・スイスの55億ドル(およそ5900億円)を筆頭に、野村ホールディングス <8604>は約29億ドル(同3100億円)、モルガン・スタンレーが約9億ドル(同1000億円)、三菱UFJ証券ホールディングスが3億ドル弱(同300億円)、UBSが8.6億ドル(同930億円)、みずほフィナンシャルグループ <8411>が100億円規模など、いずれもアルケゴス関連とみられています(2021年4月27日時点)。
 
 一方、同じくアルケゴスと取引があったゴールドマン・サックス、ドイツ銀行、ウェルズ・ファーゴなどはほとんど無傷だったといわれています。この違いはなぜ生じたのでしょうか。それを知る前に、まずは「前例のない」と形容される巨額のブロック・トレードに至った経緯をみてみましょう。


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◆若桑カズヲ (わかくわ・かずを):
証券会社で株式やデリバティブなどのトレーダー、ディーラーを経て調査部門に従事。マーケット分析のキャリアは20年以上に及ぶ。株式を中心に債券、為替、商品など、グローバル・マーケットのテクニカル・需給分析から、それらに影響を及ぼすファンダメンタルズ分析に至るまで、カバーしている分野は広範囲にわたる。MINKABU PRESS編集部の委託により本シリーズを執筆。



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