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【市況】S&P500 月例レポート ― 変転する相場ムード、落ち着きどころを模索 (2) ―


●バイデン大統領と政府高官

 ○連邦裁判所判事は退去の全国的な猶予措置(トランプ政権下で開始しバイデン政権下で延長)を無効とし、米疾病予防管理センター(CDC)には猶予措置を発令する権限がないとの判断を示しました。この影響が明らかになるのはまだこれからですが、大きくなる可能性もあります。

 ○イエレン財務長官(前FRB議長)は「金利は上昇する必要があるかもしれない」と発言し、その後これを撤回し、「何かを予測したわけでも推奨したわけでもない」と述べました。金利(雇用統計発表後、5月7日金曜日に反転)とインフレへの懸念が高まり、金利上昇のタイミングとペースが争点となる中、市場は下落の反応を示しました。

 ○バイデン大統領は2021年6月16日にスイスのジュネーブでロシアのプーチン大統領と首脳会談を行う予定です。

 ○バイデン大統領は就任後初となる2022会計年度(2021年10月1日開始)の予算教書を発表しました。6兆ドルの予算額(財政赤字額は1兆8000億ドル)には、合計4兆ドルの「米国の雇用のための計画」と「米国の家族のための計画」が含まれており、財源は増税で賄う予定です。予算案に対しては共和党からの強い反発が予想されますが、民主党はホワイトハウス、上院、下院のすべてを支配しており、計画の大部分は成立すると見込まれます。

●新型コロナウイルス関連

 ○インドでは感染のさらなる拡大と死亡率の悪化が続き(都市部から地方に拡大)、1日当たりの新規感染者数は41万4188人で世界最多を記録し、一部地域ではロックダウン(都市封鎖)が実施され、医療不足は全国に広がりました。一方、南アジアの他の地域でも感染者数が増加し、予防的措置が講じられました。

 ○米国ではワクチン接種ペースの鈍化が続きました。バイデン大統領は2021年7月4日(米独立記念日)までに接種率(少なくとも1回接種した人の割合)を70%にするとの目標を設定し、ワクチン接種を促す措置を講じました。

 ○ワクチン接種ペースが鈍化を続ける中、CDCがファイザー<PFE>製ワクチンの接種対象年齢を12歳(これまでは16歳)に引き下げることを承認し、さらに1700万人の若者が接種可能になりました。接種は既に始まっています。

 ○CDCはワクチン接種完了者に対する指針を変更し、公共の場でのマスク着用を不要にすると発表することで、まだワクチンを接種していない人に接種を促しました。

 ○バイデン大統領は、米国が承認した新型コロナウイルス・ワクチンを少なくとも2000万回分、6月末までに他国に提供すると発表しました。さらにアストラゼネカADR<AZN>製ワクチン6000万回分も、米国での使用が承認され次第、他国に提供すると約束しました。

 ○感染者数が少なくワクチン接種があまり進んでいなかったシンガポールで、一転、感染者数が急増しました(本稿執筆現在も状況は進行中)。

 ○米国ではワクチン接種奨励策が進む中、マスク着用義務の解除が始まりました。

 ○EUは域内の移動を容易にするため、ワクチン接種証明書システムを導入すると発表しました。

 ○米国ではマスク着用義務を解除する動きが続きました。州による着用義務の解除や緩和が進み(飛行機、電車、バス、ほとんどの公共施設では引き続き着用を義務化)、依然として多くの人がマスクを着用していますが、その数はこの1週間で著しく減少しました。

 ○昨年から延期された東京オリンピックをめぐり、各種団体や政治家から延期を求める声が上がる中、国際オリンピック委員会(IOC)は予定通りに開催する意向を示しました。米国は日本への渡航警戒レベルを引き上げました。日本のワクチン接種は遅れており、現時点で人口に対する接種率はわずか4.4%にとどまっています。

 ○新型コロナウイルスの治療薬と治療法、そして夢の万能薬

  ⇒治験の結果、モデルナ<MRNA>製の新型コロナウイルスワクチンは12?17歳の若年層にも有効であることが示され、同社は6月にも適用を申請する見通しです。

   →現時点で、世界全体で17億4000万人が1回以上のワクチン接種を受けました(4月末時点では11億人、3月末時点では5億7400万人、2月末時点では2億2500万人)。米国では:

    ・現時点で、2億8900万人が1回以上のワクチン接種を受けました(同2億3700万人、同1億4800万人、同6830万人)。

  ⇒人口の49.4%(4月末時点では43.3%)が少なくとも1回は接種したことになり、人口の39.3%(同30%)が2回の接種を終えました。

  ⇒米国の1日当たり接種回数の7日平均は一時400万回を超えましたが、その後170万回に低下しました(同263万回、同277万回、同131万回)。これはワクチン接種希望者の人数が減少しているためです(供給は十分にあります)。

  ⇒各国中央銀行の動き(および関連ニュース)

 ○4月27-28日に開催されたFOMCの議事録が公表されました。FRBが、経済はあるべき姿からいまだ程遠い状態にあり、依然としてパンデミックの成り行き次第であると見ていることが明らかになりました。また、経済が急速な成長を続ければ、テーパリング(金融緩和策の縮小)についての議論を開始する可能性があるとの見方が示されました。

●IPOおよび「空箱」SPAC

 ○eコマースサイト支援ツールを手掛けるスクエアスペース<SQSP>は、従来型のIPOで上場しました(SPACではなく)。公募価格の50ドルに対し、初値は44.01ドル、一時55.88ドルを付けましたが、52.63ドルで月末を迎えました。

 ○今後の予定:

  ⇒デジタル貯蓄・投資アプリを運営するAcornはSPAC経由での上場を計画しており、企業評価額を22億ドルと見込んでいます。

  ⇒英国のオンライン中古車販売会社Cazoon Holdingは、SPAC経由で上場することを明らかにしました。上場時の企業評価額を80億ドルと見込んでいます。

  ⇒未公開のリチオムイオン電池メーカーEnovixはSPAC経由での上場を準備しており、当初評価額11億ドルを見込んでいます。

  ⇒イスラエルのデジタル取引プラットフォームのeToro GroupはSPAC(FinTech)経由で上場すると発表しました。時価総額100億ドルを見込んでいます。

  ⇒東南アジアでライドシェア、フードデリバリー、送金のアプリを運営しているGrab HoldingsはSPAC経由で上場することを発表し、企業評価額を400億ドルと予想しています。

  ⇒EVメーカーLucid Motorsはチャーチル・キャピタルIV<CCIV>との合併を通じて上場を計画しています。

  ⇒シェアオフィス大手のWeWorkが再び上場を計画しており、上場時の企業評価額として90億ドルを見込んでいます。これに対して、パンデミックにより労働環境が変化するよりもかなり前の2019年の評価額は470億ドルでした。

●企業業績

 ○2021年第1四半期決算の発表が始まっており、484銘柄のうち411銘柄(84.9%)で利益が予想を上回り、483銘柄のうち377銘柄(78.1%)で売上高が予想を上回りました。

  ⇒2021年第1四半期の利益予想は2021年第1四半期末から21.9%引き上げられ、1年前(2020年第1四半期末)からは14.3%の上方修正となりました。利益は第1四半期として過去最高(2021年第4四半期も同様に過去最高)を記録する見通しで、前期比では24.7%増益、2010年第1四半期以来の低水準となった2020年第1四半期からは2倍以上となる144%増益が見込まれ、過去最高更新まで1%以内となっています。営業利益率は13.09%で過去最高となりました。

  ⇒2021年については過去最高益を更新する見通しで、2020年比で52.5%増益が見込まれており、2021年の予想PERは22.5倍となっています。

  ⇒2022年は2021年比でさらに12.3%増益が見込まれ、同年の予想PERは20.1倍となっています。

●個別銘柄

 ○ソーシャルメディア企業フェイスブックA<FB>の監督委員会は、連邦議会議事堂乱入事件が発生した1月6日以降にトランプ前大統領のアカウントを凍結した同社の措置を支持する判断を下しました。ただし、6ヵ月以内にこの措置について再検討し、具体的な規則に基づいて判断するべきであると提言しました。

 ○通信サービス企業のベライゾン・コミュニケーションズ<VZ>は、YahooやAOLを含むメディア部門の90%をプライベート・エクイティのApolloに50億ドルで売却することを明らかにしました。Verizonは2017年にYahoo、2015年にAOLを買収し、買収額は合計で90億ドルでした。

 ○エクササイズ機器を販売するペロトン・インタラクティブ<PTON>の1-3月期(第3四半期)売上高は前年同期比141%増となりました。また、旧モデルのトレッドミルについて、安全上の問題からリコールを発表しましたが、リコールにかかる予想費用については明らかにされていません。

 ○ゲーム開発の未公開企業Epic Gamesがアップル<AAPL>とアルファベットC<GOOG>のGoogleを相手取り、2020年8月に同社のゲーム「Fortnite」が両社のアプリ配信ストアから削除されたことをめぐって起こした訴訟の公判が始まりました。判決の内容によっては、アプリストア運営側に影響が及ぶ可能性があります。

 ○電気自動車メーカーテスラ<TSLA>のElon Musk最高経営責任者(CEO)はツイッター上で、ビットコインでの決済を認める決定を撤回すると発言し、ビットコインは下落しました。

 ○オンライン小売企業アマゾン・ドット・コム<AMZN>は、EUが求める3億ドルの追徴課税をめぐる訴訟で勝訴しましたが、売り上げをめぐる国際調査は継続されています。

 ○通信大手AT&T<T>とメディア企業ディスカバリーA<DISCA>は、メディア事業を統合して新会社を設立することを明らかにしました。新会社はAT&Tの株主が71%、ディスカバリーが29%を保有し、承認を経て、2022年半ばの統合完了を目指しています。AT&Tは2016年にTime Warnerを850億ドル(および負債)で買収しました。同社はまた、配当の見直しを発表しており、市場は「大幅」な(50%程度)減配になると予想しています。AT&Tは36年連続で増配しており、S&P 500指数の配当貴族銘柄です。同社は配当銘柄として選好されていたため、これを受けて株価は下落しました。

 ○S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスは、製薬大手メルク<MRK>からスピンオフしたヘルスケア企業のオルガノン<OGN>をS&P 500指数に採用し(6月3日の取引開始前)、石油精製企業のホーリーフロンティア<HFC>を同指数から除外する(6月4日の取引開始前)と発表しました。

※「変転する相場ムード、落ち着きどころを模索 (3)」へ続く

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