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【特集】超越の株高シナリオ、「量子コンピューター関連株」起動へ <株探トップ特集>

たとえ「富岳」であっても気の遠くなるような時を要する計算を、瞬時に解いてしまう量子コンピューター。「01」の領域を超えた未踏の世界への挑戦、そして未知の相場が始まる。

―AI・IoT時代の新たなるステージ 米中冷戦と満を持して動き出す日本―

●次世代コンピューティングの理想郷

 驚異的な演算能力を持つ人工知能(AI)やあらゆるものをオンライン化させるIoTが我々の日常に広く浸透している。こうした環境下で「2025年の崖」を回避するという重要課題に向け、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)投資の動きも加速している。既に時代はIT全盛の趣きを呈しているが、現在よりも更にソリューションを進化させるために、人類の飽くなき挑戦は続いていく。その際、半導体の高集積化・微細化ニーズと歩調を合わせたコンピューターの性能向上は、何よりも重要なカギを握ることになる。

 AI・IoT時代のグレードを極大化させるハード領域の切り札となるのが、次世代コンピューティングの理想郷でもある 量子コンピューター分野だ。従来型コンピューターの動作原理はデジタルの普遍的コンセプトである「0もしくは1」が礎となっていた。計算処理能力の飛躍的な進歩の歴史も基本は「01」の積み上げによって構築されたものである。しかし、量子コンピューターはこの基本的な原理から外れ、ひとつの量子が「0であり、かつ1でもある」という重ね合わせの状態を利用することで、これまでの常識を大きく覆すパフォーマンスを上げることに成功した。最先端のスーパーコンピューターですら気の遠くなるような時を要する計算問題を、量子コンピューターは文字通り瞬時に正解を導き出すことができる。

●グーグルが号砲を鳴らした量子新時代

 米アルファベット<GOOG>傘下のグーグルが2019年の秋、独自開発した量子コンピューターでセンセーショナルなプレスリリースを行ったことはまだ記憶に新しい。スーパーコンピューターではおよそ1万年かかる問題を、量子コンピューターによって3分あまりで解答を導き出す実証実験に成功し、「量子超越」を達成したと発表、世界の耳目を驚かせた。理論上の演算能力が初めて実験で立証されたことになり、これを契機にグローバル規模で同分野における開発競争がヒートアップすることになった。

 最近ではグーグルのスンダー・ピチャイCEOが、量子コンピューターを5年以内に外部の企業や研究団体に貸し出すサービスを始めることを明らかにした、と日本経済新聞で報じられた。3~5年内に初期の量子クラウドサービスを開始する計画とされる。究極の次世代コンピューティングの領域に、一般企業も容易に足を踏み入れる時代が近づいている。

 グーグルが取り組んでいるのは超伝導物質を量子ビットとして利用する超伝導方式で、同社以外では米IBM<IBM>も同方式での研究を進めている。超伝導方式とは物質を極低温に冷却し電気抵抗をなくした回路を使うやり方である。IBMは19年に自社開発で初の商用化を発表し、既にクラウドで提供を進めている。この2社が量子コンピューター分野において米国で双璧だが、米マイクロソフト<MSFT>もマヨラナ粒子を利用した新方式による量子コンピューター開発へのアプローチで話題を集めた。また、米アマゾン・ドット・コム<AMZN>も提携戦略を駆使して量子分野を深耕している。アマゾンは超伝導方式で展開する米ITベンチャーのリゲッティ・コンピューティングや、アニーリング方式の先駆であるカナダのDウェーブなどと協業体制にある。

●覇権争う米中、安全保障にも多大な影響

 このほか、中国では総合ネット企業大手のテンセント(騰訊)が19年に量子研究所を設立し開発に傾注しているほか、これに先立って18年に通信機器大手のファーウェイ(華為技術)は量子計算のシミュレーションができるクラウドサービスを開始している。もとより米国は量子分野に傾注する中国を強く警戒している。量子コンピューターはAIの演算能力を飛躍的に高め、マテリアルや医薬の開発に大きく貢献することが期待されている一方、暗号解読などネット社会における脅威ともなり得るからだ。国家の安全保障問題にも直結するだけに、今後も水面下で激しく米中の主導権争いが続くことになる。

 一方、米中の後塵を拝しているとはいえ、決して日本も負けてはいない。両国へのキャッチアップに向けて大手企業が連携する形で量子コンピューター周辺技術に磨きをかけている。政府は20年に国家戦略として本格的に資金を投じ関連技術の研究拠点整備に動き出している。

●社会実装に向け日本も最強布陣で対抗

 アニーリングマシンではNEC <6701> がDウェーブと資本・業務提携を行っているが、23年までに量子アニーリングマシンの開発を実現させる方向にある。富士通 <6702> は理化学研究所と連携体制で量子コンピューター分野を深耕している。同社は従来型コンピューターで量子コンピューターの演算を疑似的に行う「デジタルアニーリング」の先駆者だ。周知の通り、同社と理研は世界最速のスーパーコンピューターとして話題をさらった「富岳」を共同開発した実績を有する。理研は今年4月新年度入りにあわせて中核研究拠点「量子コンピュータ研究センター」を新たに設け、富士通との連携拠点も併設して研究開発に注力する姿勢を明示している。

 さかのぼって昨年7月末には東京大学を主体とする産官学の「量子イノベーションイニシアティブ協議会」が発足しており、みずほフィナンシャルグループ <8411> の佐藤康博取締役会長を協議会会長にトヨタ自動車 <7203> や三菱UFJフィナンシャル・グループ <8306> 、日立製作所 <6501> 、東芝 <6502> など錚々(そうそう)たるメンバーを揃え、これにIBMも加わり強力な布陣を形成、量子コンピューターの社会実装を目指すことを目的に動き出している。

●素材・創薬・フィンテック、広がる活躍舞台

 量子コンピューターの産業分野への展開では、電気自動車(EV)のバッテリー素材などマテリアル分野が有力視されるほか、創薬やフィンテック分野などでも大きな役割を担うことが予想される。計算エラーをなくすため、量子を安定的に制御する技術など社会実装に向けたハードルは決して低くないが、いずれにせよ官民が力を合わせて課題を克服し開発に本腰を入れていくことが求められている。そして、その体制は徐々に整いつつある。

 今週7日と8日の日程で行われた「世界デジタルサミット2021」ではデジタル技術をリードする国内外の有力企業経営者や有識者などが参加し、DX時代に進むべき方向性などについて議論が交わされたが、AI革命の原動力ともなり得る量子コンピューターにもスポットが当たった。その講演でIBMのクリシュナCEOは「あと3年くらいで(量子コンピューターが)実現する」と述べ、更に「30年までにAIが全世界に及ぼす経済効果は16兆ドル(約1760兆円)に迫る」との見解を示したことも伝えられている。

 実現に向けた近未来図が描かれ始めたことで、株式市場でも量子コンピューター関連に再び投資マネーの矛先が向く可能性は高い。社会実装が始まれば、AI技術の飛躍につながることは間違いないだけに、中長期的観点からも関連株は株価変貌の可能性を内包することになる。

●エヌエフHD、シグマ光機などに脚光

 国内ではNEC、富士通、日立、東芝などIT大手のほかNTTグループも研究開発に積極的でテーマの牽引役を担う。Dウェーブと協業でアニーリングマシンを深耕するNEC以外は、各社のフィールドは従来型コンピューターを活用したデジタルアニーリングだが、次世代コンピューティングの柱として実用化に向けた取り組みが進んでいる。

 このほか中小型株では、NF制御技術及びアナログ回路技術を強みに電子計測器開発を手掛けるエヌエフホールディングス <6864> [JQ]に注目。量子コンピューター研究向け電子デバイスが売り上げを伸ばし収益貢献が始まっている。全体業績も21年3月期こそ4期ぶりの減収減益を余儀なくされたが、22年3月期はトップラインが2割の伸びを見込み、営業利益段階で前期比48%増の10億4000万円と回復色を鮮明とする見込みだ。

 また、光学部品メーカーで研究開発用レーザーに高い技術力を有するシグマ光機 <7713> [JQ]も目が離せない存在だ。透明な光学素子でレーザビームなど透過光と反射光にわけるビームスプリッターが量子分野の研究開発で活躍する。また、ファンダメンタルズ面からのアプローチでも楽しみが多い。21年5月期営業利益は前期比15%増の8億2000万円を見込むが、第3四半期時点で7億300万円に達しており上振れの可能性がある。

●輝き放つHPCシステムズ、実績のホトニクス

 HPCシステムズ <6597> [東証M]はマザーズ市場に上場して2年にも満たないニューフェースだが、ハイパフォーマンスコンピューティング分野のニッチトップ企業で大学や研究機関向けで高い納入実績を持っており、量子コンピューター分野でもその存在は輝きを放っている。量子化学計算・分子動力学計算などに強みを有し、今年4月には「富岳」を計算資源とするクラウド経由でソフトを提供するサービスの実証を開始している。20年6月期はトップラインが5期ぶりに減少したものの、利益ベースでは高成長を継続、21年6月期は前期比2割強の増収と切り返し、営業利益段階で32%増の6億3000万円と大幅増収増益路線に復帰する見通し。22年6月期以降も成長シナリオに陰りは見られない。

 HPCシステムズが新星なら、光電子増倍管で世界シェア9割を誇る浜松ホトニクス <6965> はグローバル・ニッチトップの元祖といってよい。光検出器分野の高技術は他社の追随を許さない。同社は5月に高精度の科学計測用カメラを発売、これは世界で初めて、光の最小単位である光子の数や位置を2次元の画像として捉えることを可能としたもので、量子コンピューター分野の研究開発で大きな役割を果たすことが期待されている。21年9月期営業利益は前期比29%増の280億円を見込んでいる。これは18年9月期の水準を上回り過去最高利益更新となる。

●Fスターズ、テラスカイも復活の鐘を鳴らすか

 顧客企業のシステムを高速化するソフトを開発し、高いリピートオーダー率を誇るフィックスターズ <3687> は量子コンピューターやAI分野にも積極展開を図っていることで知られる。Dウェーブと業務提携して量子アニーリングマシン活用のコンサルティング事業も手掛けていることから、同関連の草分けとして人気化した経緯がある。ところが、前期から業績高成長路線がいったん頓挫した格好となったことで株価は大きく水準を切り下げ、時価は1000円を割り込んだ水準で推移している。しかし、21年9月期は2ケタ減益見通しながらトップラインは増収を確保する見通しで、22年9月期は利益も回復が鮮明となる可能性が高い。逆張りの好機にも映る。

 また、同じく株価が底値圏をはっているテラスカイ <3915> も量子コンピューター関連の有力株として注目度が高い。同社は米セールスフォース・ドット・コム<CRM>のシステムを主軸にクラウド導入支援ビジネスを展開するほかアマゾンのAWS案件でも実績が高い。株価面では昨年の年央から長期下落トレンドとなり、直近は22年2月期営業利益が3割減益見通しにあることが嫌気され、株価の下げに拍車がかかった。しかし、将来的な成長期待が色褪せたわけではない。量子コンピューターの研究開発子会社Quemixを設立し、IBMとの連携で展開を図っているが、同子会社は昨年12月に政府系ファンドからの出資も受けており、将来的には株式公開も視野に入れている。

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