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【特集】「PCR検査」急拡大、新型コロナ実態把握で奮起する関連株 <株探トップ特集>

急拡大するPCR検査。新型コロナウイルスの実態把握は感染対策に不可欠で、これが関連する企業の業績にも追い風となっている。

―累計検査数700万件突破、業績後押しで新局面入りへ―

  新型コロナウイルス感染症を診断するPCR検査数が拡大している。感染が広がり始めた昨年の春ごろには、その検査数の少なさが世界から批判を浴びたが、官民挙げての協力体制のもと急速に検査体制が整備された結果といえる。第3波突入で陽性者が急増した要因の一つとして、検査数の増加で感染者数が表面化したことも挙げられる。しかし、実態の把握なしで有効な対策はとれない。株式市場でもPCR検査関連株への関心は高く折に触れ動意してきたが、ようやく“現実買い”へ局面が変わってきている。急増するPCR検査関連株の行方を追った。

●PCR実施件数は累計約700万件突破

 2月7日の緊急事態宣言の期限が迫るなか、菅首相は首都圏などへの期間を延長する方針だ。依然として感染水準が高いことに加え、医療体制のひっ迫が継続していることが背景といえる。現在のところ、11都府県に広がった緊急事態宣言再発令の効果もあってか、新型コロナウイルスの陽性者数は減少傾向にある。ただ、いったん気を緩めれば再び増加に転じることが予想されるだけに、宣言解除について懸念する声が上がっていた。

 厚生労働省発表のデータを見ると、PCR検査は昨年末から今年1月中旬にかけて急増しており、10月には1日当たり2万件水準だったものが1月14日には9万182件と最高となった。現在はおおよそ6万件で推移しているが、陽性率はピークから減少傾向にあり、つれて検査数も減少している格好だ。調査を開始した昨年2月中旬では、検査数は約1000件、第1回目の緊急事態宣言が発出された4月でも8000件水準だったことを考えると、当時検査数の少なさが指摘されていたこともうなずける。

 昨年2月18日から今年1月29日までの国内(国立感染症研究所、検疫所、地方衛生研究所・保健所、民間検査会社など)におけるPCR検査の実施件数は、708万2062件となっており、検査に関連する企業の業績を後押しすることになりそうだ。

●大きく変わる状況

 昨年の夏に取材した際は、「PCR検査の需要は拡大していくと思うが、なにぶん病院における一般の受診患者数減少が大きく響いている」(臨床検査関係企業)と話していたが、状況は大きく変化している。決算シーズン突入で、関連する企業もサイレント期間(決算情報の漏えいを防ぎ、公平性を確保するため回答を控える期間)に入っていることで詳細については口を閉ざすが、PCR検査数については「想定よりも大幅に増加している」と答える関係者もあり、一般の受診者数の減少をカバーする状況にあるようだ。また、企業の健康診断も感染抑制の観点から滞っていたが、「年度末に向けて次第に回復傾向にある」ことも好影響となりそうだ。

●栄研化学、一転して増益に

 こうしたなか臨床検査薬大手の栄研化学 <4549> は、1月27日に21年3月期の連結経常利益が前期比20.0%増の56億7000万円になりそうだと発表。従来予想の42億円(同11.1%減)から一転して増益を見込み、3期連続で過去最高益を更新する見通しとなった。独自技術のLAMP法を用いた新型コロナウイルス遺伝子検査試薬の販売が伸びることが寄与する。新型コロナウイルス感染症の第2波、第3波に備えて増産体制を整備し、検査試薬の安定供給を実現したという。各種検診の中断や外来患者数減少の影響を受けながらも、こうした状況を跳ね返した格好だ。この決算を受けて株価は急伸、2000円近辺の株価は翌日には一時2438円まで買われた。現在は2400円手前に位置するが、感染拡大の収束が不透明ななか目が離せない状況が続きそうだ。

●ファルコHDは業績上振れ

 臨床検査受託大手のファルコホールディングス <4671> は1月26日に21年3月期の連結業績予想について、売上高を410億円から425億円(前期比1.6%減)へ、経常利益を15億5000万円から21億円(同2.2倍)へ、純利益を10億円から13億円(同4.6%増)へ上方修正した。受託検体数や処方せん応需枚数が昨年の緊急事態宣言後の落ち込みから第3四半期には一定程度まで回復。加えて、関西地域を中心に新型コロナウイルス感染症関連検査を積極的に受託した結果、11月以降に同関連検査の受託が著しく伸長していることが寄与する。グループの人的資源・検査能力をフル活用し、年末年始及び休日を返上し検査を実施したとしている。株価は、翌日に急動意し一時173円高の1818円まで買われたが、現在は1700円近辺で頑強展開となっている。

●BML、受託体制を強化

 ビー・エム・エル <4694> は昨年12月、新型コロナウイルスPCR検査の受託体制の強化を発表。測定作業を夜間にシフトにすることで、受付から報告までの時間を平均で7時間の短縮、最速では受付の翌朝6時の報告が可能となった。加えて、BML総合研究所で1日に最大8000検体を処理する能力を有したこと、福井ラボの稼働により、全国10ラボにおいて1日2万900件の受託が可能になったという。株価は3700円水準の高値圏でもみ合うが、昨年2月に上ヒゲでつけた昨年来高値4085円を視界に捉えてきている。

●攻勢強めるHUグループ

 また、ここ攻勢を強めているのがH.U.グループホールディングス <4544> だ。同社は、昨年12月に新型コロナウイルス高感度抗原検査試薬の米食品医薬品局(FDA)への緊急使用許可を申請、1月12日には同社子会社の富士レビオが「旭川工場」を新設し、新型コロナウイルスの迅速抗原検査キット「エスプライン SAS-CoV-2」を初出荷したと発表。また、15日には富士レビオが同一検体で新型コロナウイルス抗原との同時検査が可能になる、全自動化学発光酵素免疫測定システム「ルミパルス」シリーズの大型機で使用するインフルエンザウイルス抗原検査試薬について、厚労省から製造販売承認を取得し販売を開始している。株価は上昇一服。28日に3260円まで買われ昨年来高値を更新したが、現在は3100円近辺で推移している。

 前述の厚労省の発表によれば、調査開始からのPCR検査の実施累計約700万件のうち民間検査会社は約400万件超となっており、業績への影響は少なくないと推測できる。決算発表が迫るなか、関連銘柄への注目が一層高まる状況だ。

●検査実数は発表よりも大きい可能性

 PCR検査については異業種からの参入も加速している。ソフトバンクグループ <9984> がPCR検査業務を展開、また楽天 <4755> は1月28日から自宅で検体採取可能な「新型コロナウイルス唾液PCR検査キット」を提携医療機関のもと個人向けに提供開始すると発表。テレビなどでもPCR検査受託のコマーシャルが頻繁に見られるようになるなど、検査の拡充がうかがえる。厚労省に話を聞くと、発表している検査実施件数については「あくまで厚労省として把握しているもので、全てが含まれているわけではない。駅前(店舗来店型の検査センター)での検査や個人などで取り寄せ各自実施しているものについては、これに含まれているかは不明だ。あくまで報告という形の協力により得た数字ということになる」としており、これを踏まえれば検査実数は厚労省の発表よりも大きい可能性もあり、業績に対する貢献度も一段と期待される。

●島津は海外展開スタート

 こうしたなか、国内のみならずPCR検査試薬キットの海外展開を開始したのが計測・分析器大手の島津製作所 <7701> だ。同社は、感染拡大期から新型コロナウイルス検出試薬キットを発売するなど検査体制の拡充に貢献しているが、1月21日に新型コロナウイルスのPCR検査試薬キットの海外輸出開始を発表。1月19日にシンガポールの健康科学庁から販売の暫定承認を得て、2月上旬からアジア・オセアニア地域の統括会社を通じ東南アジアに輸出する。また、米国ではFDAの緊急使用許可ポリシーに基づき、自家調製検査法を前提にした販売を昨年9月から実施しており、10月にはオーストリアで研究用試薬として販売し、現在はフランスやクロアチアなど欧州各国への輸出準備を始めているという。試薬キットの海外向け生産量は、最大で月間3000キット(30万検査分)を想定している。

●PSS、OTS、保土谷、東ソーにも注目

 そのほかでは、プレシジョン・システム・サイエンス <7707> [東証M]にも目を配っておきたい。同社が新型コロナウイルス確定迅速検査の需要に対応するために、国内販売を開始した自社ブランド製品及びエリテック社向けOEM製品である全自動PCR検査装置や、DNA自動抽出装置の販売に加え、これらに付属する試薬・消耗品が好調だ。株価はいまひとつ冴えないが、昨年12月28日につけた直近安値914円を底に、じわり浮揚力を増しており現在は1100円近辺でもみ合っている。

 また、子会社が新型コロナウイルスのPCR検査受託を行っているオンコセラピー・サイエンス <4564> [東証M]、PCR診断キット用材料の需要が拡大している保土谷化学工業 <4112> 、新型コロナウイルスの検出試薬を手掛ける東ソー <4042> などの動向にも注目したい。

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