【特集】WTI原油が前代未聞のマイナス価格、備蓄施設不足で逆オイルショック到来 <コモディティ特集>
minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司
●ミネラルウォーターよりも安くなった原油
石油市場の安定に向けて産油大国である米国、ロシア、サウジが一体となった前例のない取り組みが始まったが、相場は浮上していない。むしろ暴落し、史上初の1バレル=0ドル以下のマイナス圏での取引となった。ニューヨーク市場でウェスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)の20年5月限は20日の取引で一時マイナス40.32ドルまで大暴落している。5月限の最終取引日を21日に控えて、備蓄施設を確保できない企業の投げ売りが殺到し、原油を購入すると代金を支払うのではなく、むしろ処分料を受け取る歴史的な事態となった。
米国の石油供給の要であるオクラホマ州クッシングでは、過剰在庫の拡大で来月にも備蓄施設が満たされる見通し。備蓄が困難になっていることで、買い手がいなくなりつつある。米国の仲介によってサウジとロシアの価格戦争は短期間で終結し、産油大国の協調によって供給見通しは格段に改善したが、原油はミネラルウォーターよりも安くなり、瞬間的には産業廃棄物に成り果てた。
●増え続ける過剰在庫に減産も無力
OPECプラスの減産は来月からであり、有り余る現物に対して無力である。そもそもコロナショックによる供給過剰を打ち消すことは誰にもできない。WTIが衝撃的な安値を記録することは避けられなかったのではないか。OPECプラスの減産によって在庫の増加ペースは鈍化するだろうが、需要が回復しないことには過剰在庫が増え続けることに変わりはない。
国際エネルギー機関(IEA)は4月の石油需要は日量2900万バレル減少するとの見通しであり、 新型コロナウイルスが蔓延する以前に世界全体の石油需要が日量1億バレル規模だったことからすると、需要の吹き飛び方は尋常ではない。IEAはOPECプラスの減産が不十分であるとも指摘しているが、原油安は産油国に非があるわけではない。サウジとロシアの衝突も含めて、新型コロナウイルスがすべての原因である。
あえて繰り返すことではないが、世界経済や石油市場の行方は新型肺炎の流行が短期間で収束するかどうかにかかっている。ロシアとサウジの石油戦争が終結し、OPECプラスが減産を開始することで供給見通しは改善した反面、需要見通しは悪化したままである。
経済活動が極端に制限されているなかでは石油需要の回復は見込めない。OPECプラスは5、6月と日量970万バレルの減産を行った後、段階的に減産規模を縮小する計画となっており、年後半にかけて石油需要が回復していくと想定しているが、果たしてどうなるのだろうか。
●新型肺炎についての発表や報道がすべて
当面は新型コロナウイルスの感染状況や、経済活動の再開に向けた各国の対応が石油の需要見通しを変化させるだろう。新型肺炎についての発表や報道がすべてであり、ある意味ではかなりシンプルな相場になっている。ほかに焦点を当てるべきものはあまりない。
ただ、石油の備蓄施設は明らかに不足している。米エネルギー情報局(EIA)の週間石油在庫統計(Weekly Supply Estimates)や備蓄報告(Weekly Petroleum Status Report)に恐怖する日々が続きそうだ。マイナス価格が一時的な現象で終わるとは限らない。マイナス価格はニューヨーク市場だけの厄災ではなく、世界中のあらゆる原油が直面しているリスクである。
(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)
株探ニュース