市場ニュース

戻る
 

【特集】もう一つの危機「原油急落」、OPECプラス交渉決裂で世界が変わる日 <株探トップ特集>

新型コロナウイルスの感染拡大と並び、株価の波乱要因として市場関係者は原油価格の急落に警戒感を抱いている。18年ぶりの安値水準に下落した原油市況は一体何をもたらすのか。

―衝撃的なロシアの減産拒否、新型コロナ感染拡大の影響により需要急減の恐れも―

  新型コロナウイルスの感染拡大と並び、株価の波乱要因として市場関係者が警戒感を強めているのが「原油価格の急落」だ。今月初旬にロシアが追加減産を拒否したことを契機に、原油価格は一時18年ぶりの安値水準に下落した。この原油急落は「米国のシェール企業つぶし」を狙ったものともみられているが、価格低迷は長期化も予想されている。原油価格の急落は米株式市場の下押し要因となり、コロナショックによる混乱に拍車をかけている。

●WTI価格は一時18年ぶり安値、ロシアの米シェール企業つぶしが背景

 原油価格が歴史的な急落を演じている。昨年末にWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)価格ベースで1バレル60ドル前後だった原油価格は今月20日には、一時20ドル割れと3分の1以下の水準に叩き売られた。WTI価格の20ドル割れは、2002年以来となり約18年ぶりのこと。23日は23ドルとやや値を戻したが、依然として低迷状態が続く。

 原油急落の直接のキッカケとなったのは、今月6日の石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟産油国からなる「OPECプラス」の会合で、協調減産の協議が決裂したことだ。新型コロナウイルスの影響で原油需要が低迷するなか開催された同会合では、サウジアラビアなどからの減産の提案をロシアは拒否した。この理由として「ロシアとサウジが協調減産している間に米 シェールオイル企業のシェアが上昇することをロシアは許容できなかった」(市場関係者)ことが要因とされている。

●サウジは一転、増産姿勢に、4月以降の原油余剰強まる

 OPECプラスの交渉決裂は「予想外の出来事」とみる声が多く、これを受け原油価格は急落した。特に、サウジアラビアは4月からは一転して大幅な増産に踏み切ることを表明した。これは、「ロシアなど協調減産に反対した国に対し罰を与える意味がある」(同)という。これに伴い、本来ならコロナショックにより大幅減産が求められる状況下で、原油の大増産が進められることになった。

 4月以降のサウジやロシアなどの増産によって生まれる原油の余剰量に関して、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの主任研究員である芥田知至氏は「日量500万バレル前後ではないか」と試算する。これは、OPEC2位のイラクの1日分の生産量がまるまる余剰となることを意味する。

 増産による原油価格急落は、もちろん産油国自身の首を絞めることになる。20ドル台の原油価格はサウジやロシアにとっても予算編成の前提となる原油価格を大幅に下回り、赤字水準だ。特に、ベネズエラやイランなどの厳しい経済情勢にある産油国は、一段の苦境に立たされる可能性があり、石油関連への依存度が高い新興国経済への不安感を高める要因となる。

●米国や新興国の株価波乱要因、オイルマネー撤退も逆風に

 また、米国や世界経済への影響も大きい。東海東京調査センターの庵原浩樹シニアストラテジストは「米国は原油の純輸出国であり、裾野の広い石油産業を抱えている」と指摘し、原油価格下落が米国株に与える影響を注視している。また、「日本を含めオイルマネーが世界の株式市場を支えている面も無視できない」とし、オイルマネーの撤退が株安を促している側面も指摘する。とりわけ注目を集めているのが、米シェールオイル企業への影響だ。「足もとの原油価格では経営が立ち行かない企業がいくつも出てきかねない」(庵原氏)状況にある。

 既に、米シェールオイル企業のチェサピーク・エナジーやオアシス・ペトロリアムといった企業の株価は1ドル割れの水準に下落している。シェール企業など原油関連企業の経営破綻が増えた場合、米国の銀行などの不良債権問題にもつながりかねない。

●水面下ではロシアとOPECは減産体制の再構築を模索

 では、原油市場の転換点となる要因とは何か。前出の芥田氏は「ロシアとOPECは協調減産の体制を再構築することを模索しているはずだ」という。OPECプラスの協議を決裂させたロシアもここまでの原油安は想定していなかったとみられているだけに、再交渉の余地はある。ただ、「当面はサウジとロシアの相互に不信感は残っているだろう」(芥田氏)といい、減産体制の再構築はそう簡単ではない。このままの状態が続いた場合、WTI価格はどう推移するのか。「20日の19ドルの安値を更に下回ることは考えられる」と同氏はいう。状況次第では10ドル前後への下落もあるかもしれない。

 一方、減産体制が再構築できた場合「40ドル前後までの反発はあり得る」と芥田氏は予測する。ただ、実際のところ「新型コロナによる原油需要減の方が、OPECプラスの交渉決裂より影響は大きい」と同氏はみている。このため、パンデミックの影響が収まらなければ、原油の上値は限られてしまう。

●原油安はソフトバンクグループにとって株安要因に

 6月にはOPECとOPECプラス総会があるが、現在の状況が続けば、OPEC内だけでの減産は意味を無くしてしまう。その意味でOPECは有名無実化の瀬戸際にあるともいえる。米シェールオイル企業の行方を含め、原油相場は歴史的な転換点を迎えている。

 日本の個別株では原油安は国際石油開発帝石 <1605> や石油資源開発 <1662> 、JXTGホールディングス <5020> などにとっての株価下落要因となる。また、ソフトバンクグループ <9984> のビジョン・ファンドにはサウジアラビアとアブダビの政府系ファンドが大口の出資先となっている。このため、「原油安はソフトバンクの株価には向かい風となる」(市場関係者)ともみられている。

株探ニュース

株探からのお知らせ

    日経平均