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【特集】すご腕投資家さんに聞く「銘柄選び」の技 内田衛さんの場合-第4回
相場の暴落時に数々の失敗、その教訓が3億円超えを導いたワケ
登場する銘柄
ひまわりホールディングス、北の家族、ケイビー(いずれも上場廃止)、
長谷工コーポレーション<1808>、
三井信託銀行、住友信託銀行、安田信託銀行(前から2つは現在、三井住友信託銀行として三井住友トラスト・ホールディングス<8309>の完全子会社に、安田はみずほ信託銀行に再編された後にみずほ信託銀行としてみずほフィナンシャルグループ<8411>の完全子会社となる)
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先行きが不確実というリスクを背負う投資は、期待と不安が入り交じるからこそ株価は上下にブレ、上昇に乗ればリターンを、下落に巻き込まれればロスを出す。そんな不確実な世界に長く身をおいていれば、大きな上昇相場に乗ることもできれば、「○○ショック」という暴落にも巻き込まれることもある。
今回紹介している内田衛さんは株式投資歴が30年以上に及んでいることから、足元のコロナショックのような事態に何度も巻き込まれてきた。内田さんの投資戦略では、暴落時期こそチャンスになるのだが、全てが好機になったわけではない。
今回は、相場が不調だった時期に体験した失敗談を紹介するとともに、そこから得た「学び」の部分にクローズアップしていく。最初から"取って置き"のネタがバレてしまうが、下の日経平均株価のチャートに記載している3つの下落局面で、取引したものが今回の主役たちだ。
■日経平均株価の年足チャートと、相場の下落局面で起きた内田さんの失敗例
財務がマズイ! いち早く察知して逃げたはいいが
内田さんいわく、「やられた!」と悔しい思いをしている失敗銘柄は、必ずしも損失額の大きさとは比例しない。損を出した結果というよりは原因、例えば自分の読みの浅さや手抜きをしてしまい、失敗するべくして失敗してしまったことの方が、悔しさとして心に残っているというのだ。まずその2つの例を紹介しよう。
1つ目は、2011年の東日本大震災後の株価急落で食らった。損失額は1000万円にも及ぶが、内田さんにとっては金額よりも、本来はもっと注意すべきことをしていなかったことを悔やむことになった。
その悔いることになった取引とは、当時JASDAQに上場し、その後上場廃止になったひまわりホールディングス<8738>への投資だ。同社は、FX(外国為替証拠金)取引の草分け的存在。FX取引はミセス・ワタナベに代表される投資家層の拡大などで成長が期待できると内田さんは見ていた中で、株価が割安に放置されていた同社株に注目した。
そこで「よし!」と買い出動していたところに、東日本大震災という大アクシデントが襲った。ひまわりにとっての逆風は、急激な円高の進行もあったが、それよりも大きな衝撃が同社傘下のひまわり証券に起こった。同証券は先物・オプション取引を取り扱い、権利行使価格という特定の価格より株価が下がって取引の決済日を迎えると損失が出る「プットオプションの売り」を積極的に顧客に推奨していた。
東日本大震災の株価暴落で、このオプション取引に取り組んでいた顧客は損失を膨らませ、それによって同証券は巨額の立替金が生じることになった。これが発火点になってひまわり証券は証券業務の撤退を余儀なくされ、それがひまわりHDの株価を大暴落させることになった。こうした一連の流れで、内田さんは1000万円の損失を被った。
当時の相場環境やひまわりHD株の事情を考えれば、売却損は1000万円で幸い食い止めることができたという状況かもしれない。内田さんもただ指をくわえて見ていたわけではなく、同社株の異常を察知し、出来得る限りで早めの損切りを行った。
この時に損を1000万円で食い止めることができたのは、当時公表されたひまわり証券の立て替えにより発生した決済損の金額が、「同社の財務内容から見てあまりに大きすぎ」と見極めたからだ。
下に示したようにひまわりHDは、傘下のひまわり証券で80億円もの取り立て不能の債権が発生したことをリリースした。その直後、株価はすぐには反応しなかったが、内田さんはこの事態を憂慮し、即座に同社の財務内容を確認する。そこで「この財務規模の会社が、80億円の損失をカバーできるわけがない」と判断して、売却に動いた。
■ひまわりHDが東日本大震災後に出したひまわり証券に関する損失額のリリース
この件で、内田さんは割安銘柄に逆張り的に投資するには、財務基盤の精査が重要なことを痛感する。そもそも株価が割安なのは、その状態に置かれるだけの理由がある。業績の伸びや財務の安定性、経営体制など、どこかで投資家に引っ掛かるものがあるからこそ、割安放置されている可能性が高い。
特に内田さんのように悪材料で株価が下落した銘柄を狙う戦略では、会社の存亡を占う上で、財務基盤がどの程度、盤石なのかはしっかり調べる必要はある。ひまわりHDのような中小型の銘柄は、特に財務のチェックは欠かせなく、その意識が薄かったことを反省することになった。
■ひまわりホールディングスの日足チャート(2011年3月1日~11年12月30日)
※当該情報は、一般情報の提供を目的としたものであり、有価証券その他の金融商品に関する助言または推奨を行うものではありません。
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登場する銘柄
ひまわりホールディングス、北の家族、ケイビー(いずれも上場廃止)、
長谷工コーポレーション<1808>、
三井信託銀行、住友信託銀行、安田信託銀行(前から2つは現在、三井住友信託銀行として三井住友トラスト・ホールディングス<8309>の完全子会社に、安田はみずほ信託銀行に再編された後にみずほ信託銀行としてみずほフィナンシャルグループ<8411>の完全子会社となる)
文・イラスト/福島由恵(ライター)、構成/真弓重孝(株探編集部)
内田衛さん(50代・男性)のプロフィール:
投資家だった親戚のおじさんに影響され、高校生のうちから投資をスタート。以降、投資歴は約35年、「逆張り&集中投資」をモットーとするすご腕投資家だ。父親とカードローンから借りた800万円を元手にバブル経済の株価上昇に乗るも、ほどなくしてバブル崩壊の波に飲み込まれ、投資資金もまるまる泡と化す。その後は約9年間、借金返済生活に追われるが、1999年の金融危機のさなかに手掛けた信託銀行3行への投資で一発逆転。それまでの借金をチャラにするほど資金は拡大する。
2001年には約12年務めた会社を退職し、専業投資家に転身。その数年後に億り人を達成するもリーマン・ショックで資金を4分の1程度まで溶かすという大痛手を食らう。それでもめげずに投資を続行し、自身の培った逆張り投資の経験を生かし、1億円のマイルストーンに再到達する。現在はさらに3億円超まで資産の拡大を遂げている。ちょっと波乱万丈系のツワモノだ。
投資家だった親戚のおじさんに影響され、高校生のうちから投資をスタート。以降、投資歴は約35年、「逆張り&集中投資」をモットーとするすご腕投資家だ。父親とカードローンから借りた800万円を元手にバブル経済の株価上昇に乗るも、ほどなくしてバブル崩壊の波に飲み込まれ、投資資金もまるまる泡と化す。その後は約9年間、借金返済生活に追われるが、1999年の金融危機のさなかに手掛けた信託銀行3行への投資で一発逆転。それまでの借金をチャラにするほど資金は拡大する。
2001年には約12年務めた会社を退職し、専業投資家に転身。その数年後に億り人を達成するもリーマン・ショックで資金を4分の1程度まで溶かすという大痛手を食らう。それでもめげずに投資を続行し、自身の培った逆張り投資の経験を生かし、1億円のマイルストーンに再到達する。現在はさらに3億円超まで資産の拡大を遂げている。ちょっと波乱万丈系のツワモノだ。
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先行きが不確実というリスクを背負う投資は、期待と不安が入り交じるからこそ株価は上下にブレ、上昇に乗ればリターンを、下落に巻き込まれればロスを出す。そんな不確実な世界に長く身をおいていれば、大きな上昇相場に乗ることもできれば、「○○ショック」という暴落にも巻き込まれることもある。
今回紹介している内田衛さんは株式投資歴が30年以上に及んでいることから、足元のコロナショックのような事態に何度も巻き込まれてきた。内田さんの投資戦略では、暴落時期こそチャンスになるのだが、全てが好機になったわけではない。
今回は、相場が不調だった時期に体験した失敗談を紹介するとともに、そこから得た「学び」の部分にクローズアップしていく。最初から"取って置き"のネタがバレてしまうが、下の日経平均株価のチャートに記載している3つの下落局面で、取引したものが今回の主役たちだ。
■日経平均株価の年足チャートと、相場の下落局面で起きた内田さんの失敗例
財務がマズイ! いち早く察知して逃げたはいいが
内田さんいわく、「やられた!」と悔しい思いをしている失敗銘柄は、必ずしも損失額の大きさとは比例しない。損を出した結果というよりは原因、例えば自分の読みの浅さや手抜きをしてしまい、失敗するべくして失敗してしまったことの方が、悔しさとして心に残っているというのだ。まずその2つの例を紹介しよう。
1つ目は、2011年の東日本大震災後の株価急落で食らった。損失額は1000万円にも及ぶが、内田さんにとっては金額よりも、本来はもっと注意すべきことをしていなかったことを悔やむことになった。
その悔いることになった取引とは、当時JASDAQに上場し、その後上場廃止になったひまわりホールディングス<8738>への投資だ。同社は、FX(外国為替証拠金)取引の草分け的存在。FX取引はミセス・ワタナベに代表される投資家層の拡大などで成長が期待できると内田さんは見ていた中で、株価が割安に放置されていた同社株に注目した。
そこで「よし!」と買い出動していたところに、東日本大震災という大アクシデントが襲った。ひまわりにとっての逆風は、急激な円高の進行もあったが、それよりも大きな衝撃が同社傘下のひまわり証券に起こった。同証券は先物・オプション取引を取り扱い、権利行使価格という特定の価格より株価が下がって取引の決済日を迎えると損失が出る「プットオプションの売り」を積極的に顧客に推奨していた。
東日本大震災の株価暴落で、このオプション取引に取り組んでいた顧客は損失を膨らませ、それによって同証券は巨額の立替金が生じることになった。これが発火点になってひまわり証券は証券業務の撤退を余儀なくされ、それがひまわりHDの株価を大暴落させることになった。こうした一連の流れで、内田さんは1000万円の損失を被った。
当時の相場環境やひまわりHD株の事情を考えれば、売却損は1000万円で幸い食い止めることができたという状況かもしれない。内田さんもただ指をくわえて見ていたわけではなく、同社株の異常を察知し、出来得る限りで早めの損切りを行った。
この時に損を1000万円で食い止めることができたのは、当時公表されたひまわり証券の立て替えにより発生した決済損の金額が、「同社の財務内容から見てあまりに大きすぎ」と見極めたからだ。
下に示したようにひまわりHDは、傘下のひまわり証券で80億円もの取り立て不能の債権が発生したことをリリースした。その直後、株価はすぐには反応しなかったが、内田さんはこの事態を憂慮し、即座に同社の財務内容を確認する。そこで「この財務規模の会社が、80億円の損失をカバーできるわけがない」と判断して、売却に動いた。
■ひまわりHDが東日本大震災後に出したひまわり証券に関する損失額のリリース
この件で、内田さんは割安銘柄に逆張り的に投資するには、財務基盤の精査が重要なことを痛感する。そもそも株価が割安なのは、その状態に置かれるだけの理由がある。業績の伸びや財務の安定性、経営体制など、どこかで投資家に引っ掛かるものがあるからこそ、割安放置されている可能性が高い。
特に内田さんのように悪材料で株価が下落した銘柄を狙う戦略では、会社の存亡を占う上で、財務基盤がどの程度、盤石なのかはしっかり調べる必要はある。ひまわりHDのような中小型の銘柄は、特に財務のチェックは欠かせなく、その意識が薄かったことを反省することになった。
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