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【市況】植草一秀の「金融変動水先案内」 ―年初波乱相場は2020年激動の予兆か

植草一秀(スリーネーションズリサーチ株式会社 代表取締役)

第26回 年初波乱相場は2020年激動の予兆か

●ゴーン逃亡とイラン事変

 みなさま新年おめでとうございます。2020年の幕開けを告げる除夜の鐘が響く前にゴーンゴーンとけたたましい騒音が静寂を打ち破りました。重大な刑事事件の被告人が国外に逃亡を図るという珍事が繰り広げられたのです。この被告人はレバノンに逃げ延びて記者会見まで開くという厚顔無恥な対応を示しています。現代資本主義社会で労働者を虐げて不正に私腹を肥やす悪徳経営者がはびこるようになると、株式会社制度もいずれは崩壊することになるでしょう。企業の持続的な発展のために何が重要であるのかを改めて問い直すことが求められています。

 そのレバノンに近接するイラン、イラクで緊張感が一気に高まりました。米国のトランプ大統領が指示して、イラン最高指導者ハメネイ師直属のイラン革命防衛隊精鋭部隊である「コッズ部隊」ソレイマニ司令官が殺害されたのです。米国防総省はソレイマニ司令官と指揮下の部隊が「米国や有志連合の要員数百人の殺害、数千人の負傷に関与した」とし、トランプ大統領は「ソレイマニはアメリカの外交官や軍関係者に対する邪悪な攻撃を間もなく実施しようとしていた。しかし我々は、現行犯でそれを押さえ、あの男を終了させた」と述べました。

 しかし、NYタイムズ記者が匿名米政府関係者を含む消息筋の話として、「アメリカの標的に対する攻撃が急迫していたと示唆する証拠は『かみそりの刃ほど薄い』ということだ」とツイートしたとも伝えられています。

●緊張激化がひとまず後退

 イランの首都テヘランで行われたソレイマニ司令官の葬儀にはイラン民衆100万人が参列したと報じられました。その葬儀の直後にあたる1月8日、イランはイラクの米軍拠点に弾道ミサイル16発による報復攻撃を実行しましたが、人的被害を与えていないと見られています。イラン国営テレビはウェブサイト上で「この攻撃で、少なくとも80人の米兵が死亡した」と報じましたが事実ではない模様です。イランは意図的に人的被害が生じない攻撃を実行したと見られます。

 ゴーン被告がレバノンで記者会見を行った直後にトランプ大統領はホワイトハウスで演説しました。「イランに軍事力を用いたくない」と軍事的反撃を否定するとともに、イランの核開発に向けての動きに対して「イラン指導部に強力な制裁を科し、イランが態度を改めるまで継続する」と表明しました。金融市場は軍事的緊張が後退したと判断し、1月9日、 NYダウは2万8988ドルの史上最高値を付けました。

 しかし、その後、カナダのトルドー首相が首都ウクライナで記者会見し、1月8日にウクライナの旅客機がテヘランの空港を離陸直後に墜落したことについて「イランから地対空ミサイルが発射され、打ち落とされたことを示す証拠がある」と述べました。意図的な撃墜か誤発射によるものかは判明していないとのことです。意図的な撃墜ということになると緊張後退が再び崩れることも考えられます。

●すべては大統領再選成就のため

 2020年の金融変動と密接な関わりを持つのが11月3日に投票日を迎える米国大統領選です。トランプ大統領のすべての行動は大統領再選に焦点を当てたものになっていると推察されます。ソレイマニ司令官殺害とその後の軍事オプションの非選択は、大統領選に向けての米国民支持を獲得するために計算された行動であると見られます。

 イランのハメネイ師は穏健派指導者とされており、イランも米国との本格的戦乱を回避したい意向を有していると見られます。それでも、軍事的な戦乱拡大は想定外の事象発生によってもたらされることが多いものです。イラン国営放送は米軍関係者80名以上死亡の情報を発表しましたが、これが虚偽であると判明すれば、対米強硬派が独自に戦闘行動を拡大させる恐れもあります。不測の事態が発生して軍事衝突がエスカレートする可能性を否定し切ることはできません。

 2020年は中東だけでなく極東も含めた地政学リスク拡大に留意する必要がありそうですが、足元では軍事衝突リスクが後退してNYダウが史上最高値を更新。3万ドルの大台まであと1000ドルの水準に到達しました。その一方で、日経平均株価は2018年10月の2万4448円を抜くことができていません。昨年12月17日に2万4091円の高値を付けましたが、ここから反落しています。

 NY株価と比較して日本株価の上昇力が弱いことが観察されています。

●日本経済の下方圧力を探る

 昨年10月に消費税率が10%に引き上げられました。政府は2兆円の増税対策を実施して、キャッシュレス決済に対するポイント還元などの措置を講じています。この措置によって消費税増税の実体上の影響はかなり緩和されるはずですが、それでも、これら措置が消費者の購買行動を喚起しない可能性は残ります。消費者はポイント還元を積極的に利用しようとしますが、これと消費そのものの抑制方針を両立させる可能性があるのです。

 2月17日午前8時50分に昨年10-12月期のGDP速報が発表されます。この統計数値に対する関心が高まることになりそうです。また、月次で発表される小売売上統計、鉱工業生産指数への注目も高まるでしょう。

 2020年は東京五輪が予定されており、インバウンド消費の増加が期待されていますが、日本国民の消費全体が冷え込むことになると日本経済全体を支えることは難しいかも知れません。

 地政学リスク浮上で金利、 為替、株価が大きく反応することが確認されました。急激な金利低下、円高、株安の反応が生じましたが、武力衝突可能性が後退すると、すぐに元の水準に回帰しました。このことは、地政学リスクの変化によって金融市場変動の基本方向が変わってしまう可能性があることを示しています。

 2020年の金融変動を読み解く重要な基軸の一つが地政学リスク動静であることを銘記する必要があります。

(2020年1月10日 記/次回は1月25日配信予定)

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