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【特集】山岡和雅が斬る2019年「為替相場の大胆予想」 <新春特別企画 第1弾>

山岡和雅(minkabu PRESS 外国為替担当編集長)

山岡和雅(minkabu PRESS 外国為替担当編集長)

 トランプ大統領に振り回された感のある2018年が終わり、2019年はどんな相場となるのであろうか。今年の相場を大きく左右すると思われる二つのキーワードを挙げて展望していきたい。

◆2019年のキーワード(1)「トランプ大統領」

 一つ目のキーワードは、昨年と同様に「トランプ大統領」である。

 昨年2018年はトランプ大統領をキーとしたさまざまな情勢に、相場が振り回される展開となった。

 特に大きな影響を与えたのが、米中の通商摩擦問題である。トランプ大統領は、中国による知的財産侵害を理由として3度にわたる対中制裁を実行。計2500億ドル相当の中国製品を対象とした関税が課される事態となった。中国からの対抗関税もあり、両国間で深刻な通商摩擦問題が生じた。GDPランキングで世界第1位と第2位の不毛な争いは、両国間だけでなく、世界経済全体を直撃。特に新興国・資源国は中国向け輸出が自国経済に重要な位置を占めているケースが多いだけに、それぞれの国の景気鈍化懸念と、それによる通貨安が進行した。

 上下両院での可決と大統領の署名が必要な連邦予算の不成立により、年末に2018年中で3度目となる政府機関の一部閉鎖が起きるなど、大統領と議会との関係も微妙なものに。大統領と議会多数派が異なるケースが多々ある米国では、政府機関の閉鎖自体はそれなりの頻度で起こり、オバマ政権下でも2013年に16日間の閉鎖を経験している。ただ、1年間に3度の閉鎖はカーター大統領下での1977年以来41年ぶりの異常事態。米経済へ与えるダメージも大きく、相場を混乱させる材料となった。年末に辞任を表明したマティス国防相をはじめとする、主要な閣僚やスタッフの更迭・辞任なども市場心理に悪影響を与えた。

 2019年もトランプ大統領のお騒がせが収まるとは考えにくい。今年も大統領の一挙手一投足に市場が注目する展開が続くとみられる。

 米中の通商摩擦問題では昨年の米中首脳会談で猶予された追加制裁の凍結期限が3月1日に迫っている。合意すべき問題は中国による外国企業からの技術移転の強要や知的財産権の保護を中心に、非関税障壁、サイバー攻撃に関する問題など多岐にわたっている。米国側の担当者は現実派のムニューシン財務長官から、対中強硬派のライトハイザー米通商代表部(USTR)代表に変更されており、厳しい交渉が見込まれている。

 トランプ大統領が満足するような合意に至る可能性はそれほど高いものではなく、貿易戦争第2弾に向けて、期限が迫るにつれて市場の緊張感が高まっていく可能性が高い。

 こうした状況は円の全面高と ドル円を除くドル高、深刻な新興国・資源国通貨安を招く可能性がある。リーマンショック以降停滞した先進国経済に対して、好調な経済成長を続けてきた中国に対する新興国・資源国の依存度はかなり高まっており、米中通商摩擦問題の継続による中国の景気鈍化は厳しい状況を呼ぶとみられる。これまでの好景気の余力で踏みとどまっている豪州などの景気鈍化が広がると、オセアニア通貨・新興国通貨からの資金逃避が起こり、ドルや円にその資金が流れ込む。昨年はドル高・円高の流れで、ドル円でのドル安・円高圧力が弱められた感があるが、今年見込まれる米国の利上げペース鈍化や米株安の動きがドル売りを誘うと、円は独歩高となる。ドル円にとっては厳しい一年となる可能性が高そうだ。
 
 もっとも、トランプ大統領をめぐる情勢については楽観論もある。昨年11月の中間選挙の結果、1月からの新議会では下院で民主党が多数派となり、共和党が多数派を維持した上院とのねじれ議会が誕生した。これにより大統領はこれまでのような強引な政策はとりにくくなる。例として挙げれば、中間選挙の選挙運動の中で大統領が示した中間層への減税策などが議会を通る可能性は相当低いものとなっている。大統領と議会の対立構造が激化すること自体は相場の波乱要因であるが、今回下院で勝利した米民主党としても、2020年の大統領選に向けたアピールは必要。民主党としては下院で過半数を握ったことで、単なる反トランプだけではなく、米景気浮揚に向けた前向きな政策姿勢を示す必要が生じる。アピール度が高いインフラ整備などで両者の協力関係が見られると、好調な米景気への期待感が強まり、円高以上にドル高が強まる可能性もある。

◆2019年のキーワード(2)「ブレグジット」

 もう一つのキーワードは、3月29日がEUとの交渉期限となっている英国のEU離脱問題、いわゆる「ブレグジット」である。

 2016年6月の国民投票でまさかと思われた賛成多数で決定したブレグジット。それから約2年半が経って、英国内はまだまとまりを見せていない。昨年11月にメイ英首相はEU離脱協定を閣議決定し、EU首脳会合で合意を得たものの、同協定案が成立するために必要な英国議会通過の目途が立っていない。

 本来は昨年12月11日に議会採決の予定となっていたが、否決見込みが濃厚となって、首相は採決を今月14日の週に延期した。もっとも、アイルランドと英領北アイルランドの国境問題を受けて、これまで閣外協力してきたDUP(北アイルランド民主統一党)が協定案に反対の姿勢を強めており、この時点で与党保守党は過半数を割り込んでいる。さらに、与党内からも反対者が多数出ている状態で、このままでの可決の見込みは絶望的となっている。

 メイ首相は英国内での支持を取り付けるためにも、EU側にもう一段の譲歩を要請している。しかし、フランスの暴動、イタリアの予算問題などでEU内が揺れる中で、英国に有利な離脱を認めると、追随する国が多数出てEUそのものの崩壊につながる可能性があるだけに、EU側がさらなる譲歩を見せる可能性は低い。期日を目前にして完全に手詰まりとなった感があり、ブレグジット決定時点ではまさかといわれていた「合意なきEU離脱」の可能性が日々高まっている状況である。

 このまま合意なきEU離脱が決まった場合、英国は相当大きなダメージを受けるとみられる。英中銀は昨年11月28日に合意なきEU離脱に至った場合の英国の影響について報告書を提出した。それによると、 ポンドは急速に25%の価値を棄損、英国のGDPは8%の縮小を見せる可能性が指摘された。失業率は今よりも3%以上高い7.5%まで悪化、住宅価格は約3割の低下、商業不動産価格に至っては48%下落と約半減する見込みとなっている。

 もちろん、この報告書は最悪の事態を想定したものであり、そのままの影響が生じるというものではないが、かなり衝撃的な数字で、歴史的な景気後退が見られる可能性がある。

 12月後半時点で140円近辺にいるポンド円が、25%の下げを実際に記録すると105円になる。ある意味パニックともいえる値動きとなるが、絵空事ではなく、十分に想定される事態ということを意識しておきたい。

 もちろんユーロ圏経済も大きなダメージを受ける見込み。EU加盟国すべてとの関係が悪化する英国に比べると、英国一国に対する影響ということで、加盟国それぞれのショックは小さいものの、ドイツ、オランダ、ベルギーなどユーロ圏経済をけん引する比較的好調な経済状況にある国の対英輸出は比較的大きいだけに、ユーロ相場への影響はかなりのものとなりそうだ。

 こうした二つのキーワードから、2019年はかなりリスクの高い展開が予想される。四大通貨、ドル、 ユーロ、円、ポンドをみた場合、円高、ドル円除くドル高、ポンドを除くユーロ安、ポンド安の展開が見込まれる。

 もっとも、トランプ大統領の動向に楽観論が見られるように、いろいろとうまくいく可能性は十分にある。ブレグジットにしても、悲惨な状況が見えているだけにぎりぎりまで調整が続けられるであろう。

 そもそも二つのキーワードに代表される政治的なリスク要因がなければ、世界経済は米国主導で比較的堅調な状況。3月に集中する米中合意期限、ブレグジット合意期限をうまくクリアし、先行き不透明感が晴れた場合は、一転して外貨高・円安の流れが強まると期待している。  (2018年12月26日 記)


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