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【特集】裏切られた期待、ソフトバンクIPO“暴落スタートの深層”<株探トップ特集>

公開価格比14.5%安の終値――。市場の注目を一身に集めたソフトバンクの超大型IPOは期待を裏切るものとなった。“暴落スタート”の深層を探る。

―投げられた賽、「公開価格1500円」への遠い道のり―

 19日、ソフトバンク <9434> が遂に東証1部に上場した。しかし、残念ながら前途洋々の船出とはならなかった。日本が誇るコングロマリット、孫正義氏率いるソフトバンクグループ <9984> の通信子会社として国内過去最大規模、大手証券はじめ証券各社も全力傾注の構えで、本来であれば文字通り鳴り物入りのIPOといってもよかった。時価総額にして6兆円超、東証1部上場銘柄の中で日本郵政 <6178> を上回り、上位10傑にランクイン。これによりソフトバンクグループは約2兆6000億円を調達したことになるが、まずは公開価格1500円に対しプラスを確保できるのか、仮にできたとしてどのくらいのプレミアムがついて初値形成されるかにマーケットの視線が集中していた。

 しかし、寄り前の気配値の段階で期待は失望に変わった。注目の初値は公開価格を37円下回る1463円、率にして公開価格比2.5%安で寄り付いた。ここまでは許容範囲、問題は寄った後だ。急速に売り優勢に傾き、初値形成後のわずか5分後には1344円まで水準を切り下げた。その後は押し目買いが流入しいったん戻り足に転じたが、マーケットに蔓延した弱気ムードを払拭するには至らず、後場売り直され、終盤になって1300円ラインも割り込んだ。結局大引けは1282円とこの日の安値で着地、公開価格比14.5%安という惨憺たる体たらくとなった。

●通信障害、ファーウェイ問題、そして米中摩擦の余波

 事前のコンセンサスとして苦戦が予想されていたのは確かだ。まず、米中摩擦の余波で世界景気減速懸念がくすぶるなど相場環境が悪く、投資家のセンチメントが低調だったことが一つ。そしてソフトバンク自体も、上場カウントダウンの段階に入ってから大規模な通信障害が起こったことや、同社と蜜月関係にあった中国通信機器最大手ファーウェイの製品が既存の通信網から排除される方向となったことなど、投資家の心証を悪くする出来事が相次いだ。ただし、これらを考慮しても出足は想定以上に厳しかったといえる。

 市場関係者の声もさまざまであったが、強気を唱える声は皆無に近い。そうしたなか、19日の寄り直前の板が話題となった。「1463円に1000万株単位で10本超、1億株以上の“寄り付き限定の指値買い注文”が這わされていた」(国内ネット証券アナリスト)という。これが成り行きの売りを捉え、気配値で推移する間もなく取引開始直後に値がついた理由だ。「個人投資家に無理をして買わせた免罪符のようにも見えた」(同)というが、実際は主幹事証券へのオーバーアロットメント(追加売り出し)に伴う“シンジケートカバー取引”という手法であった公算が大きい。いずれにせよ寄り付き限定であったことで、その後の成り行き売り注文を支えられる道理はなく、結果的にハシゴを外されるような形で同社株は漸次水準を切り下げる形となった。

●個人投資家と機関投資家の視点に相違

 公開価格が正式決定する前の12月初旬辺り、市場関係者の指摘では「個人投資家と機関投資家で評価が割れている」という声が少なくなかった。「個人は初めて株取引をやる人も含め、(ソフトバンクの)5%という年間配当利回りに魅力を感じる人が多い。ただ、機関投資家の立場では配当性向85%という看板に逆に危うさを感じているようだ」(国内中堅証券アナリスト)とする意見だ。

 そしてフタを開けてみれば、ソフトバンクの配当利回りを頼りに公募で買った個人投資家は初日で、年間配当分を大幅に上回るキャピタルロスを被ったことになる。配当性向85%というのは、株主重視の姿勢を前面に押し出しているように見えて、ともすれば企業としての成長余力を自ら否定していることにもなりかねない。今後を見据えた場合、携帯電話の値下げ圧力が先行き収益の足かせとなることは明白だ。その際、「コングロマリットの親会社ソフトバンクGであればともかく、通信事業部門に特化したソフトバンクの利益は減少に転じる可能性は否定できない。もし15%を超える減益となった場合、配当性向85%を標榜している以上、今の配当はタコ配当となる。つまり、減配を念頭に置く必要が出てくる」というのが機関投資家の視点だ。上場初日の値動きを見る限り、このプロ筋の厳しい目線が正しかったことになる。

 「個人投資家は高配当利回りを拠りどころに公募に申し込んだとはいえ、大口投資家は初日で売り抜けることを前提としていた向きも多い」(国内中堅証券営業体)という。つまりロットを利かせた分、上昇率は小さくても金額ベースでは大きな利益となる。そうした思惑を持った投資家の当てが外れ、損失覚悟で見切り売りを出したことが、結果的に雪崩的な下げ圧力につながったと思われる。しかし、個人投資家の狼狽売りだけでは、こうはならないという見方もある。ファンド筋の動静に詳しい某ストラテジストは「貸株を調達した海外投資家が売りを仕掛けた形跡がある。また、公募の売れ残りを抱えた証券会社が保有株の損失拡大を回避する目的で投げ売りを出した可能性は否定できない」という。

●パッシブ運用と日銀ETF買い、親会社絡みの連携も

 ただしこの先、光明が見えないわけではない。まず、株式需給面から来年1月末にはTOPIX組み入れが見込まれており、これに伴うパッシブ運用のファンド系資金の買いが流入する。また、中期的にみて日銀のETF買い対象として下値抵抗力も発揮しやすい。更に、株価材料面では「親会社がビジョン・ファンドも含め成長企業への投資や、トヨタ自動車 <7203> など他業種の代表的企業との連携を深めており、次世代通信規格5G絡みで同社が同じレールに乗る可能性がある」(外資系証券ストラテジスト)という指摘もある。つまり、既存の通信事業以外に成長の選択肢がNTTドコモ <9437> やKDDI <9433> より多いという見方だ。

 国内準大手証券の調査部長は「ほぼ全員が1500円の公開価格で割り当てられており、公開価格以下で売れば損失が確定する。1300円前後で売って、儲かる人はいないわけで、それなら配当を頼りに長期保有しようというニーズが生まれる。それだけに、(初日に売ろうと決めていた人は除き)売り物は減ってくるはず」とする。一方、戻りメドについては、「公開価格の1500円が接近すると戻り待ちの売りも想定されることから、短期間に反転急上昇することも考えにくい。(目先的には切り返しに転じ)1300円から1450円のゾーンを中心としたレンジでの推移が想定される」(中堅証券投資情報担当部長)という意見があった。

 戻り売り圧力を考慮すれば、上値は重いという状況は否定しようがないが、「例えば公開価格がもし1300円であったなら売れ残りなど考えられず、人気が集中したはず」(前出の国内中堅証券アナリスト)というのももっともな話。配当利回り5.8%以上の時価水準は冷静に見て“歳末大バーゲンセール”の状態に放置されているといえなくもない。

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