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【特集】避け得ぬOPEC減産、米国との板挟みで試練に立つサウジ <コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司

―過剰在庫の回避に向けて“強調なき”減産か―

●トランプ大統領の意向無視できぬサウジ

 今週6日、石油輸出国機構(OPEC)総会が行われる(本稿執筆は5日現在)。焦点は減産の有無である。米国がイランに対する石油制裁を一時緩和したことで、イランの減産を穴埋めしてきたサウジアラビアやロシアなど主要な産油国の生産量が過剰となっているほか、米国のシェールオイル生産が驚くべきペースで拡大していることが減産を促す。世界的な景気減速による石油需要の下振れ懸念も減産を検討する背景。米中貿易戦争の拡大によって、中国と経済的なつながりの強いドイツが失速し、財政懸念でイタリア景気も弱含んでいることから、ユーロ圏を中心として世界経済は曇っている。米国に追い詰められている中国の石油需要下振れも警戒しなければならない。

 本来であれば、これだけ背景が整っていると減産ありきで協議が進む。焦点は規模だけである。これまでの報道によると、日量100~140万バレルの減産が検討されている。ただ、トランプ米大統領がOPECに減産を見送るよう要請しており、舵取り役であるサウジアラビアが減産合意をまとめ上げることができるのか不透明である。サウジは同国に批判的だったジャーナリストのカショギ氏を殺害したことを認めており、そのなかで国際的にサウジを擁護している米国の意向を無視することは難しい。

 10月初めの高値圏からブレント原油やニューヨーク原油は20ドル以上暴落した。主要な産油国にとって原油安は歳入を大きく減らす。米国やロシアなど、経済が幅広い産業のうえに成り立っている産油国なら大問題にはならない。だが、サウジやイラン、イラク、クウェートなどはこの原油安を放置できない。財政が破綻しているベネズエラのマドゥロ政権にとって原油安は死活問題であるが、トランプ米大統領に睨まれている以上、 原油価格を強く押し上げるような合意は差し障りがある。

●体制移行の“端境期”を逆手にとる公算も

 石油生産輸出カルテル禁止(NOPEC)法案も交えつつ、OPECは米国に追い込まれている。身を切るのであれば、減産見送りは選択肢の一つである。来年5月、米国のイランに対する石油制裁の猶予期間が終了し、この期間内で取引国はイランからの原油購入をゼロにするよう求められている。イラン産原油が市場からほぼ消え、供給ひっ迫感が相場をいずれ回復させる可能性が高い。米国の反感を買いたくないのであれば、現行の生産水準を維持するのも妥当である。米中首脳会談で世界的な景気減速懸念はやや後退しており、OPECが減産せずとも原油価格は下げ止まっている。

 とはいえ、減産見送りとなった場合、原油安は避けられないだろう。相場を十分に安定させるためには減産を合意しなければならない。OPECにとって、サウジがトランプ米大統領の言いなりとなり、石油カルテルの行動が左右されているという認識を広げてはならない。サウジやロシアなどOPECプラスによる一時的な協調体制は年内で終了し、長期的な枠組みへ生まれ変わるところであり、体制の変わり目であることを利用してひっそりと減産を行う可能性は十分にありそうだ。

 前回6月のOPEC総会では、協調減産の遵守率を100%まで低下させるよう増産することで合意に至り、名目上で日量100万バレル程度の増産となったが、合意内容は非常にわかりにくかった。見る側を煙に巻こうとする意図もあったのではないか。当時、トランプ米大統領が原油高抑制のための増産を要請しており、OPECとしては生産量の拡大を前面に打ち出したくなかったのだと思われる。

 今回は、時限的な協調減産が終了することを煙幕のように活用し、減産を強調しない減産となるのではないか。声明文を読んで面食らう可能性は十分にありそうだ。ただ、世界的な石油在庫が過剰にならないような措置が合意には組み込まれるだろう。減産規模ばかりに目を奪われていると、前回のように戸惑うことになるかもしれない。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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