【特集】再び1300ドル割れ「金」の見通し、米朝首脳会談・伊政局など影響 <コモディティ特集>
minkabu PRESS CXアナリスト 東海林勇行
●金はドル高が圧迫要因、米朝首脳会談の行方も焦点
金は米長期金利上昇によるドル高を受けて1,300ドルの節目を割り込み、今月21日に2017年12月以来の安値1,281.90ドルを付けた。しかし、23日に公表された米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録で利上げ加速観測が後退したことや米朝首脳会談中止の発表を受けて急反発し、1,300ドル台を回復した。米10年債利回りは3.128%と2011年7月以来の高水準となったのち、米FOMC議事録などを受けて3%を割り込んだ。ただ、米連邦準備理事会(FRB)の年4回の利上げ観測は後退したが、6月と9月の利上げ予想は強く、ドル高に振れやすい。また、イタリアやスペインの政治不安が高まり、ユーロが軟調に推移していることもドル高要因である。
一方、トランプ米大統領が米朝首脳会談中止を発表したが、北朝鮮が再考を求め、南北首脳会談を再開した。米大統領は、政府担当者が北朝鮮側と事前協議を行うため北朝鮮入りしたことを明らかにし、再び会談に向けて動き出した。先行きに対する楽観的な見方が強まると、投資需要の減少などで金が一段安となる可能性もある。ここでは当面の金を取り巻く材料を確認する。
●金ETFから投資資金が流出
金は4月、株安に対する懸念を受けてETF(上場投信)にヘッジ買いが入っていたが、5月に入ると投資資金が流出した。米国債の利回り上昇によるドル高が圧迫要因になった。また、好調な米経済指標や原油高を受けてFRBの利上げ観測が高まった。年4回の利上げ観測は後退したが、6月と9月の利上げが見込まれており、ドルの押し目が買われると、金ETFからの投資資金流出が続くとみられる。
金ETFに投資資金が戻るには米朝首脳会談が決裂し、軍事攻撃の可能性が高まる場合や、イタリアやスペインの政治不安が欧州連合(EU)の混乱を招くなどの材料が必要になろう。イタリアに関しては、マッタレッラ大統領が27日、ユーロ懐疑派エコノミストであるパオロ・サボーナ氏の経済相起用を拒否し、再選挙の可能性が出ている。EUに懐疑的な二つの政党による連立政権の誕生が断念され、ドル高要因であるユーロ安が一服すれば目先の金の下支え要因となるが、政治不安が残ることはユーロ売り要因である。
●米朝首脳会談で北朝鮮の完全非核化なら圧迫要因
米朝首脳会談に向け、「段階的非核化」を主張する北朝鮮が米国に再考の可能性を示し、揺さぶりをかけた。しかし、逆にトランプ米大統領が中止を発表するという、北朝鮮にとって予想外の行動に出た。
2度目の中朝首脳会談から北朝鮮の態度が変化したとされ、難航する米中通商協議などを背景に中国が北朝鮮を利用したとの見方も出ている。北朝鮮の思惑も一致し、態度が硬化したが、今回の騒動の末、会談に向けて再び動き出したことは、米大統領が要求する「朝鮮半島の完全な非核化」に北朝鮮が応じなければならない状況になりつつあるということである。
米大統領は会談中止を発表したのち、軍事オプションに言及しており、応じなければ北朝鮮にとって最悪の結果になりそうだ。ただ、北朝鮮が応じれば、体制保証と経済的援助が確約され、悪い話ではない。北朝鮮の完全非核化が実現すれば北朝鮮に絡んだ地政学的リスクがなくなり、金の上値を抑える要因になるとみられる。
●米中通商協議に対する不透明感は金の下支え要因
米中通商協議で、ムニューシン米財務長官は、米中貿易戦争をいったん「保留」にする、と述べたことを受けて先行き懸念が後退した。しかし、中国側は米国の大幅赤字になっている貿易不均衡是正に向けて米国製品の輸入増を約束したが、数値目標設定には慎重な姿勢を示した。トランプ米大統領は、現在の路線は「実現が難し過ぎ」、いかなる取り決めにも「異なる構造」が必要となる可能性があるとし、先行き不透明感が残っている。
一方、米政府は中国通信機器大手の中興通訊(ZTE)の事業存続に向け合意に達した。合意の下、ZTEは多額の制裁金支払いに加え、経営陣の刷新と社内に米国の監視担当者を置くことが義務付けられる。米商務省はその後、ZTEに米国企業からの製品購入を禁じた措置を解除するという。ロス米商務長官は6月2~4日に中国を訪れ、米中両政府が3度目の通商協議をする見通しとなった。今回の協議では輸入拡大の具体策を詰める。
米商務省は、乗用車やトラックなどの車両や関連部品の輸入が国内の自動車産業を侵害し、安全保障を脅かしたかどうか通商拡大法232条に基づき調査を開始すると発表した。トランプ米政権は新たな自動車輸入関税を検討しており、最大25%の追加関税を課すとしている。「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ米大統領の保護主義的な政策が続くと、金は引き続きヘッジとしてポートフォリオの一部に組み込まれる要因になる。
(minkabu PRESS CXアナリスト 東海林勇行)
株探ニュース