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【特集】再びの低迷「プラチナ」下げ止まりの時は、米中通商協議など注視 <コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 東海林勇行
―900ドルのフジ目試す展開、ドル高見通しが圧迫要因に―

●プラチナは900ドル前後で下げ止まるか、米中通商協議の行方などを確認

 プラチナ(白金) の現物相場は年初に2017年2月以来の高値1,028ドルを付けたのち、調整局面を迎え、5月に入り、900ドルの節目を試している。株安や米中間の貿易摩擦に対する懸念、米連邦準備理事会(FRB)の利上げ見通しによるドル高が圧迫要因になった。10日に発表された4月の米消費者物価指数(CPI)が事前予想を下回ると、米FRBの利上げ加速観測後退でドル高が一服し、プラチナは下げ一服となった。しかし、15日の米小売売上高やニューヨーク連銀製造業業況指数の発表後、再び900ドルを試した。

 プラチナがこの水準で下げ止まるのかどうか、ドル相場の見通しやプラチナのファンダメンタルズなどで確認する。また、目先は15日から中国の劉鶴副首相が訪米して米中通商協議を再開しており、貿易摩擦を回避できるかどうかも焦点である。

●欧米経済・政治環境の差異でドル高傾向

 5月初めの米連邦公開市場委員会(FOMC)では金利が据え置かれたが、声明文では「インフレは2%に接近した」とされ、6月に今年2回目の利上げが実施されるとの見方が強い。4月の米消費者物価指数(CPI)は前月比0.2%上昇と、3月の0.1%下落から持ち直したが、事前予想の0.3%上昇は下回り、利上げ加速観測が後退した。前年同月比では2.5%上昇。CMEのフェドウォッチによると、米金利先物市場では年3回から4回の利上げが予想されている。15日時点で6月の1.75~2.00%への利上げ確率は95.0%、9月の2.00~2.25%の確率は73.6%、12月の2.25~2.50%の確率は44.8%となった。

 欧州中央銀行(ECB)の緩和終了は当初、今年中が見込まれていたが、来年となる可能性が浮上している。4月のユーロ圏の消費者物価指数速報値は前年同月比1.2%上昇と前月の1.3%上昇から鈍化した。第1四半期のユーロ圏の域内総生産(GDP)改定値は前期比0.4%増、前年同期比2.5%増となり、事前予想と一致したが、前期比の伸び率は過去3四半期の0.7%増から鈍化した。

 また、イタリアでポピュリズム(大衆迎合主義)政党「五つ星運動」と極右「同盟」による連立政権が発足する見通しとなった。政治的空白は解消されるが、ポピュリスト政権が発足すれば国家財政を危険にさらすとの見方が出ている。欧州連合(EU)との対立も懸念されている。欧米の政治・経済環境の差異で金利差が拡大すると、ドル高が進むとみられる。ただし、ブラード米セントルイス地区連銀総裁は14日、年後半から来年初めにかけて長期債利回りが短期債より低くなる「逆イールド」が起きる可能性があるとの見方を示した。米国の景気後退に対する懸念が出ると、利上げが見送られる可能性が出てくる。

 一方、ドル高見通しを受けてプラチナETF(上場投信)から投資資金が流出し、圧迫要因になった。プラチナETF残高は5月15日時点のロンドンで11.13トン(4月末11.21トン)、ニューヨークで16.13トン(同17.31トン)に減少、南アで25.30トン(同25.30トン)と横ばいとなった。プラチナETFに投資資金が戻らなければ上値が抑えられるとみられる。

●米中通商協議再開で貿易摩擦を回避できるかが焦点

 ムニューシン米財務長官が5月3~4日に訪中し、米中通商協議が行われたが、重要点で相違は埋まらず、対話継続で合意するに留まった。ただ、トランプ米大統領と中国の習近平国家主席は8日、電話会談し、貿易摩擦の解決に向けて引き続き努力することで一致した。中国の劉鶴副首相が15日に訪米し、協議を再開しており、貿易摩擦を回避できるかどうかを確認したい。今回は19日までの予定となっている。トランプ大統領は14日、中国の通信機器メーカーZTEについて、「速やかに事業に戻る方策を同社に示すため、習主席と協力している」とツイートし、先行き懸念が後退したが、協議の内容を確認したい。米商務省は、ZTEがイランや北朝鮮に対し通信機器を違法に輸出していたとして、米企業によるZTEへの製品販売を7年間禁止すると発表していた。

●プラチナは需給引き締めも、2018年も供給過剰見通し

 ワールド・プラチナ・インベストメント・カウンシル(WPIC)は14日に発表した「プラチナ・クォータリー」で2018年の供給過剰幅縮小見通しを示した。2018年は5.6トンの供給過剰となり、2017年の9.8トンから過剰幅を縮小すると予想した。南アの生産減少に加え、宝飾需要や工業用需要が増加する見通しである。需給が引き締まることは下支え要因だが、供給過剰が続くことでプラチナの上値は限られるとみられる。900ドル割れで需給引き締めや鉱山会社の生産コストが意識され、安値拾いの買いが入ると予想される一方、1,000ドル台では実需筋が高値での買いを見送るとみられる。需給が改善するまでは900~1,000ドルをコアレンジとした相場が続くことになりそうだ。ただ、目先は米中通商協議が焦点であり、難航すると、買いが見送られ、一段安となる可能性も残る。

 今後の需給改善の材料としては、南アのシバニェ・スティルウォーターが英ロンミンの買収を表明していることや、南アのアングロ・アメリカンがプラチナの需要刺激のため、ベンチャー・キャピタルを立ち上げたことが挙げられる。シバニェ・スティルウォーターは利益の出ない鉱山を閉鎖する方針を示しており、今後3年間でロンミンの1万2,600人がリストラされる見通しである。大量の解雇は南ア当局の議題となっているが、ロンミン幹部は買収が成立しなければ3万3,000人の全従業員の雇用がリスクにさらされると指摘した。英国やEUなど、他の関係機関が買収を承認するかどうかも今後の焦点である。一方、アングロ・アメリカンは欧州や中国で低排出量の自動車でプラチナ需要を刺激するため、燃料電池の技術開発に投資する見通しである。燃料電池の触媒にはプラチナが使用される。

(minkabu PRESS CXアナリスト 東海林勇行)

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