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【特集】原油相場“浮揚力”の正体、現実化する供給不安の果て <コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司

―需要見通しに下方修正リスクもイラン経済制裁、減産継続など上昇要因目白押し―

●サウジは原油高維持へ明確なメッセージ発する

 トランプ米大統領は貿易戦争を開始した。貿易摩擦の解消に向けて米中は協議を始めているものの、中国を主敵と定めた戦いが実際に始まったことで主要国の楽観的な景気見通しは曇っている。敵対的な関税によってモノの流れが阻害されると、これまでのような主要国の経済成長が続くとは思えない。米経済は金融政策の正常化に伴う金利上昇を乗り越えようとしており、自律的な景気拡大局面の入り口にあるが、余計な障害が立ちはだかることになった。国際エネルギー機関(IEA)は2018年の石油需要見通しを前年比150万バレル増と想定しているものの、この想定は下方修正リスクにさらされている。

 ただ、需要の下方修正リスク以上に供給リスクが意識されていることから、 原油相場は浮揚力を失っていない。今年最大級のテーマの一つであるベネズエラの供給不安が現実となっているほか、イランに対して米国が経済制裁を再開するのはおそらく時間の問題である。サウジアラビアは石油輸出国機構(OPEC)とロシアなどが行っている協調減産を来年以降も延長することを示唆した。

 サウジアラビアの意思表示は極端に素早く、明確だった。タカ派的なトランプ政権の行動によって景気見通しが曇り、原油相場を押し上げてきた石油需要の拡大見通しが不透明感にさらされたことから、供給を絞ることによって原油高を実現するというメッセージを発している。

 国営石油会社サウジ・アラムコの新規株式公開(IPO)にあたって、サウジとしては原油高を是が非でも維持する必要があり、協調減産の再延長という選択肢に辿り着いたようだ。次期国王のサルマン皇太子が今回の意思表示の背景にいるのか定かではないが、行動力とともに豪胆な発想には脱帽するほかない。OPECを中心とした産油国は需給の均衡化を目指し、原油価格の安定化を実現すると繰り返してきたが、サウジは供給不足も辞さない構えを見せている。

●浮かび上がるイラン・ベネズエラ供給リスク

 ベネズエラの原油生産量は減少を続けている。OPEC月報によると、2月に日量154.8万バレルまで減少した。ベネズエラは経済危機の真っ只中にあり、国営石油会社(PDVSA)では設備投資が不足していることから、減産に歯止めがかからない。独裁的なマドゥロ政権は苦肉の策を続けているものの、奇跡が起こらない限りはハイパーインフレを克服できないだろう。トランプ政権はベネズエラに対して石油産業に焦点を当てた追加制裁を検討しているが、あえて行動に移さなくても独裁者は居場所を失うのではないか。

 ただ、ベネズエラが統制を失って完全な無法地帯になると原油の供給が逼迫し、エネルギー価格は急騰する。ベネズエラは無秩序な原油高をもたらすリスクをはらんでおり、国際社会にとって同国の経済危機は他人事ではない。

 米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)に就任するジョン・ボルトン氏はある意味でかなりの有名人である。極右であり、各国が身構える人物と言って差し支えない。トランプ米大統領は5月にイランに対する制裁再開を見送るかどうか判断するが、超タカ派のボルトン氏が政権に加わることで、イラン核合意が崩壊する可能性は一段と高まったといえる。

 米国の制裁がまた始まると、イランの原油生産量が落ち込むと思われるほか、イランが核開発を再開し中東の緊迫感は格段に高まる。イラン核合意に関与している欧州各国はイランを譲歩させて修正案を取りまとめたうえで、トランプ政権を納得させなければならず、核合意破綻を回避するためのハードルは高い。

 ベネズエラやイランの供給リスクによって、原油価格はさらに高値を目指す可能性が高い。このリスクを承知でサウジアラビアは供給を絞り続けることを示唆しており、原油価格の上昇局面はまだ序の口と言えそうだ。
 
(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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