【市況】「武者陵司×南川明 2018年を読む!(武者氏講演 前編)」
武者陵司(株式会社武者リサーチ 代表)
―マクロとミクロ・技術邂逅の年、日経平均4万円への道―
本稿では、2017年11月27日に開催された武者陵司氏・南川明氏のコラボセミナー「2018年を読む ~ マクロとミクロ・技術邂逅の年」の講演内容をご紹介します。
※「武者陵司×南川明 2018年を読む!(南川氏講演 後編)」から続く
◆ 「2018年の世界経済と市場のフレームワーク」(1)◆
武者陵司(株式会社武者リサーチ 代表)
●2020年に日経平均4万円へ
2018年はとてつもなく良い年になると見ている。それはなぜか。
まず、世界同時好況が世界的な株高をもたらしている。その中、日本の株価の水準訂正が大きく起ころうとしている。結論的には、日経平均株価は4万円を超えてくると見ている。オリンピックの2020年にはそれくらいになる可能性が十分にある。その通過点として、2018年から2019年初頭にかけて日経平均は3万円台になるのではないか。
現在、株式時価総額は600兆円だが、それが1200兆円となれば国民1人あたりの財産が500万円ほど増える。GDPと同じ位の富が増える。順調な世界経済と、値上がりする株価が日本の実体経済にフィードバックするという好循環がおそらく来年、再来年と大きく起こると確信している。
その根拠を3点に絞って説明していく。第一は現在の世界景気同時拡大と世界的株高がいつまで続くのかに関して述べていく。第二は、いま起こっている産業革命が経済や市場にどのような影響を及ぼすか。そしてそれをどう投資・ビジネス戦略に繋げるか。第三は日本の経済や株式相場は大きな歴史的上昇局面に入ったことを述べていく。
●逆転の条件見えぬ米国の長短金利
第一に、今の世界景気拡大は最低でも2年は続くであろう。米国ダウ工業株30種平均の120年間の推移を見ると、1896年には40ドル、今は2万3000ドル、わずか100年余りで株価が600倍近くも上昇したというこの上昇をもたらした最も重要な推進力は技術である。100年前は電気も無かった、自動車も無かった。今は何でもあり、技術が大きく変わってきた。つまり、最も重要な経済、人の生活と市場発展の推進力は技術である。そして、技術の発展は一段と加速力をもって続いている。日本においても同様であり、世界経済、米国経済、日本経済の長期展望は明るい、という基本線を認識したい。
そのうえで今の上向きの経済循環がいつまで続くかを考えたい。2015年からスタートした世界的なモノの動きがここ1、2年で加速している。この好景気がどのくらい続くのか。それはアメリカのイールドカーブを見れば読み取れる。アメリカの経済が次にリセッションに入る時まで、この好景気が続くと考えている。アメリカがリセッションに入った時が次なる世界的な株価下落と経済停滞の転換点である。
アメリカが戦後リセッションに入るタイミングというのは、長期金利と短期金利が逆転したときのみである。長期金利というのは銀行の貸し出すリターン、短期金利というのは銀行が調達するコストである。長短金利が逆転すると銀行が逆ザヤになり、歴史的にはその半年から1年後にはリセッションが起きる。なぜ人々がFRBの金融政策、利上げ、テーパリングに関心を持つのかというと、それはひとえにこの長短金利の逆転がいつ起こるかを見極めるためである。
という観点で今のアメリカを見れば、長短金利が逆転する条件はほとんど地平上に現れていないと言える。長短金利が逆転する最大の要因はインフレの加速だが、その可能性はほとんどない。つまり、利上げによる金融引き締めの必要がないということは、いつまで経っても長短金利は逆転しない。必ずいつかはまたリセッションになるが、政策の間違いさえ無ければアメリカの景気拡大は2年だけでなく、あと5年くらい続く可能性もある。
長短金利が逆転する場合、その要因はアメリカの中央銀行の読み違いである。物価が上がらないと安心していたら突然物価が上昇し、慌てて利上げを行うということである。ただ、グローバルに見て物価上昇が抑制されている。アメリカはいま現在予防的な金融引き締めを行い、長短金利の逆転を避けるため目先的には必要ないのに短期金利を5回も上げて景気の延命を図っている。トランプ政権が税制改革やインフラ投資を促進した場合、アメリカ経済は加熱し、長短金利の逆転が早まる可能性はある。もし、トランプ政権の財政拡大が不発に終われば、長短金利の逆転の恐れは遠のいて株式市場には悪材料にはならないので良い要因かもしれない。
アメリカの長短金利逆転の他に、懸念材料があるとすれば中国であるが、経済成長の維持に重点を置く政策展開を考えると、今後もリスクテイクは推進していいと思う。
●ネットでのプレゼンスと主役の交代
第二に、特に触れたい大きなポイントは、現在進行している産業革命をどう考えるかである。その技術的推進力は半導体の微細化(ムーアの法則)、通信の高速・大容量化である。2年で2.5倍、5年で10倍、10年で100倍の高速な技術の発達である。それとコスト削減も進んでいる。例えばスマートフォン、確実に毎年大きな発達を遂げている。これは言うまでもなく、技術の発展がもたらしたものである。このような時代を我々はどう評価すれば良いか。
第一の変化は人間関係に現れている。かつての人類の人間関係は、封建時代でも資本制の企業社会になっても全部ピラミッド型であった。今から30年ほど前、企業内においては社員がインターネットで繋がり、組織がフラット化した。いわゆる中抜き、中間管理職がいらなくなった。そして、いま組織のない時代になった。
すべての個人はスマホなどインターネット端末を保有し、社会とつながっているが、両者をつなぐ組織がない。人々は必要に応じてネット上でジョイントベンチャー、チームを組み、仕事や遊びなどをし必要性が終わったら解散する。これを可能にしたものがクラウドを通じて全ての人間が繋がるインターネット、組織ではなくネットが全てを制する。例えばアメリカ、現在は人口の35%がフリーランサーである。こうした時代に何が一番大事になるかというと、ネットにおけるプレゼンスが圧倒的に重要になると考えている。
産業革命がもたらした第二の変化はビジネスの主役の交代である。世界の株式市場の時価総額のトップ10は、10年前はほとんど石油会社や製造業、銀行などのオールドブルーチップであったが、いまやほとんど全てがインターネットプラットフォームとなっている。今では土地や資本よりインターネットが経済資源としてより重要になっているかもしれない。
産業革命がもたらした第三の変化、それは経済の常識が変わったこと、つまりは利潤率の上昇と利子率の低下、両者の乖離拡大である。これは従来の経済学やマーケットの常識からかけ離れている。本来なら利潤が上がるときは景気が良い、つまり資金需要が高いのであるから利子率が上がっても良い。しかし、利子率の低下が10年以上に渡って続いている。好況下の利子率低下は教科書にはあり得ないことだが、長期にわたって定着している。
多くのエコノミストは、金利の長期に渡る低下は資本主義の脆弱を表している、と述べてきたが、ここ10年間の推移を見る限りこれは大きく的外れした議論である。リーマンショック以降のこの10年間、金利は下がり続けた一方で企業の利益は上がり続けたのである。したがって、この利子率の低下をもって悲観論にくみしリスク回避をしたら、投資においては大変な間違いであったと言える。
では、この先どうなるのか。これだけ儲かって、金利が低いのだから安いコストで借金をし、投資をしたらリターンは大きいから、今こそレバレッジを張ったリスクを取るべきなのか。リーマンショック以降はそれが正しかったのであるが、これからどうなのか。ここは全ての経営者や投資家が自ら判断しなければいけない。その選択によって将来のビジネスや投資の結果は、天地が逆転する。
●産業革命が利子率低下をもたらした
この判断を誤らずになすためには、まずなぜこれほど経済の常識とはかけ離れたことが定着したのか、を知る必要がある。武者リサーチはそれは産業革命によってもたらされたと考えている。産業革命は労働と資本の生産性を著しく高めた。少ない人間で商売ができ、少ない資本で商売ができる、つまり設備やシステムの値段が急速に安くなる。企業は金も人も節約でき、超過利潤を享受できる、という経営環境、これは他の時代にはない歴史的環境であると言える。
本来なら高利潤の分野には多くの企業が参入し競争が激化するので、高利潤は持続しない、つまり企業利潤率は低下していくはず、というのが経済学の常識である。しかし、利潤率が10年以上も上昇傾向にある。これだけ企業が儲かっているのであれば、借金をして投資を増加すれば良い話であるが、ではなぜ金利は下がり続けているのか。企業は儲かるが、金は要らない、設備価格の急低下により例えば減価償却を100億円実施しても、再投資に必要な金は20億円であり、80億円余る。今空前の収益をあげているGoogle、Apple、Facebookはほとんど投資する必要ない業態である。人材の投入もいらない。稼いだお金が宙に浮く、遊んでいるのである。この循環によって著しい資金余剰と貯蓄余剰が生まれ、利子率を下げていると言える。日本に特に顕著な現象であるが、世界的な現象でもある。
この状況をどう考えるかだが、考え方によっては非常に危険な状態であると言える。資本が滞留し、利子率が下がっているということは、企業が稼いだお金が遊んでいるということである。お金が遊んでいることは資本主義の自己否定である。まさしくいま起こっていることは、企業の超過利潤が滞留し、低金利をもたらしているということである。
では、どうすればいいのか。政府の介入である。政府が余剰資本を使って需要を作り上げる。財政、金融、あるいは所得政策によって余剰資本が実態経済に還流する手立てを作り上げないと、経済は直ちに停滞する。政府による需要創造のイニシアチブがしっかり働いているかどうかが決定的に大事になる。これが機能していない時には、企業がいくら儲かっていても直ちに株価が下がる。
正しく日本の安倍政権はこれを推し進めたのであり、対照的に民主党政権下(2009年9月から2012年12月まで)では世界経済環境はリーマンショックからの鋭角回復過程にあったにも関わらず、円の独歩高と景気の悪化を招き日本株は一人負けを喫した。トランプ政権も同じく、財政・金融政策を用いることによって余剰貯蓄を需要創造に繋げるという明確な政策のチャネルを持っている。したがって、トランプが大統領になると株価は25%も上昇したという現象が起こったのである。
●続くドル高、見えてきた米経常収支黒字化
もう一つ、この産業革命がもたらすかと思われる第四の要素は、中長期的なドル高ではないだろうか。その根拠はアメリカ企業の海外における企業の利益留保の急拡大である。アメリカ企業の海外留保は2015年に2.5兆ドル、今は約3兆ドルレベルに達していると推測される。この膨大な海外の余剰を国内に還流させるというのがトランプ政権の税制改革の柱であり、マーケットもそれを期待しているのである。
この海外留保は10数年前にほとんどゼロであった。これがなぜこんなに伸びたのか。そのプレイヤーは主にマイクロソフトやアップルやグーグルのようなアメリカのハイテク企業。新たに台頭したアメリカのビジネスの主役達がグローバルに稼いでいるということである。これら企業はなにも輸出しておらず、全て海外に子会社を設立し、そこで膨大な収益をあげる。
ドル円レートはどうなるのか。それは一義的にアメリカの借金の増減、つまり経常収支と大きく結びついている。アメリカが借金をすればドル供給が増加してドルは安くなり、逆に借金をしなければドル高になるのである。経常赤字最悪の時は2006年の8000億ドル、対GDP5.7%。最近は4000億ドル台、対GDP2.6%まで減った。このアメリカの経常収支が、あと10年くらいで黒字化する可能性があるのではないかと見ている。アメリカの赤字がなくなるのではないかとなるとドル不足になる。
いまやアメリカ企業は海外で稼ぐ仕組みを持っている。中国を除けば世界中が(オープンな)インターネットを使い、スマホで繋がればマイクロソフト、アップル、グーグルのような企業が儲かる。アメリカの経常収支を構成する一つの重要な要素である「サービス+1次所得収支」(アメリカ企業が海外で稼いだ収益)は、ここ10年くらい年率12%で上昇している。あと10年で4000億ドル以上さらに上乗せされ、貿易赤字を上回ることによって経常収支が黒字になる、ということが起ころうとしている。
もう一つの経常収支を決定する要素は貿易収支である。この貿易収支はかつて大幅な赤字であり、いまだにトランプ政権はこれを問題にしているが、アメリカの貿易赤字は緩やかに減っている。そして、おそらくアメリカはこの先さらに貿易赤字を減らしていくと考えている。なぜか。それはこれ以上輸入するものがないからである。1980年代、アメリカ経済はほぼ自給自足だったが、今は8割、9割の物資を輸入している。貿易収支はこれ以上悪くならない一方で、「サービス+1次所得」の黒字化が進めば、経常収支の赤字が劇的に減るのは明らかである。そして、ドルが強くなる。産業革命が市場に引き起こしている現象の大きな要素だと考える。
このようなドル高はどのような影響を持つのか。世界4極のGDPの推移を見ると、2009年に日中逆転、2016年中国ユーロ圏逆転、このままいくと2026年に米中逆転が起きる。となると、いずれ中国が世界を制覇するのか。建国100年の2049年までには米中のプレゼンスは逆転すると中国は確信しているようであるが、果たしてそれは現実に起きるのだろうか。われわれは起きないと考える。仮にドルの価値が倍に上がれば、米中の経済規模は2026年時でも倍の差がつく。
そして、中国の過大な成長率はアメリカの中国に対する大きな関与で成り立っている。アメリカが是正しようとしているアメリカの対中貿易赤字は全体の半分に相当する3470億ドルである。また、アメリカの対中経常赤字は過去10年間、ほぼ米国GDPの2%で推移してきた。つまり、アメリカが1年間稼いだ所得の2%が中国に移転され続けてきたのである。昔の日米貿易摩擦当時とは比較にならないほどの潜在的摩擦の種である。アメリカは世界覇権のステイタスに脅威となる中国の台頭を許さないであろう。米中貿易戦争はもう既に始まっている。このように考えると、ドル高は地政学的にもアメリカに対して大きな意義を持っている、といえる。
※「武者陵司×南川明 2018年を読む!(武者氏講演 後編)」に続く
・「武者陵司×南川明 2018年を読む!(南川氏講演)」
前編はこちら
後編はこちら
・「武者陵司×南川明 2018年を読む!(Q&Aセッション)」
前編はこちら
後編はこちら
(2018年1月11日記 武者リサーチ「投資ストラテジーの焦点 303号」を編集・転載)
株探ニュース