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【市況】「武者陵司×南川明 2018年を読む!(南川氏講演 前編)」

武者陵司(株式会社武者リサーチ 代表)

―マクロとミクロ・技術邂逅の年、日経平均4万円への道―

本稿では、2017年11月27日に開催された武者陵司・南川明氏のコラボセミナー「2018年を読む ~ マクロとミクロ・技術邂逅の年」の講演内容をご紹介します。

◆ 「はじめに」◆
 武者陵司(株式会社武者リサーチ 代表)

 2018年はハイテク産業が注目される年になる。30年以上もエレクトロニクス産業のリサーチを追及してきたアナリスト南川明氏(IHSグローバル株式会社 調査部ディレクタ)が技術・ミクロの観点から、そして武者が経済・マクロの観点から産業を概観し、いま起きているハイテク分野の転換を議論していきたい。日本でミクロ・技術の発展がマクロに決定的な浮揚力を与え始めている、と考えられるからである。そうした変化は過去30年ぶりのことである。

 人類にとっての価値創造の源泉は技術の発展であり、それを基盤として数々の経済体制が現れては消えた。そして、それぞれの時代の価値を創造する手段が特別に重要な資源になってきた。人類にとって宝となる貴重な資源は、石器時代の石から始まり、農業時代の土地、工業時代の資本と転変した。その技術はいまや情報ネットの時代へと新次元に入りつつあるように見える。

 それでは新時代のカギとなる富を作り出す源泉となる資源はネットか、知恵なのか、あるいは今まで通りの資本なのか、未知の時代に入っている。

 技術の発展は生産力を高め、人々を養う。石に一番価値があった石器時代は日本人の人口は約20万人前後であった。弥生時代以降、農業が発達し、土地が富を創造する手段となり、人口は数百万人に増えた。江戸時代には3千万人に到達した。工業の時代は資本が価値を作り出す源泉となり、そして人口は3千万人から今は1億2千万人になった。この先、大きな転換点が訪れていると考えるが、それには技術が鍵となる。

 技術の発展が価値創造の在り方を根本的に変化させ、経済の仕組みを変え、企業のビジネスモデルと人々のライフスタイルを進化させていく。いまそうした歴史認識に基づいて、技術と経済を見ていく視点が必須である。

 技術の潮流を考えた上で、それがそれぞれの国にどのような経済・市場をもたらすかを議論していきたい。


◆ 「2018年の技術動向とミクロ」 (1)◆
 南川 明(IHSグローバル株式会社 IHS Technology 調査部ディレクタ)

●技術の大きな変化

 これまではPCやスマートフォン(スマホ)が世界のエレクトロニクスを牽引してきたが、近年それらの市場が伸びず、場合によってはマイナス成長となっている。しかし、車や産業機器の分野でエレクトロニクスは発展している。牽引役が変わってきたのである。

 半導体産業では技術開発に大きな変化が起こっている。電子機器の中に使われている半導体が進化することによってパソコンの性能は上がり、スマホが小さくなり高機能になった。そして、テレビは薄くなり画質は向上した。その技術の最大の課題は微細化だった。しかし、小さく作ることは物理的な限界にきた。約10年で微細化は止まるであろう。代わりに三次元に縦に積んでいくことや省電力技術を開発する動きが進んでいる。

 中国の台頭は注視していかなければならない。中国は資本力があるため、世界中から優秀な人間・技術を集めて、30年後は全て自分たちのものにしようという野望を持っている。

 その中、日本はどう生き残っていくのかを検証する。

●エレクトロニクス産業の歴史

 第一の波では、1990年代に個人がパソコンを持つようになり、エレクトロニクス産業が躍進した。第二の波は、2000年代にスマホやタブレットが普及した。いまや世界73億人のうち、約70億人がスマホを持っている計算になる。15年くらいの間に一気に世界中に広まったのだ。しかし、これら製品の伸びは止まってしまった。

 いま伸びている分野はロボットや健康医療関係、産業機器、農業関係であり、これらの分野ではますますエレクトロニクスが必要になる。さらにIoT(Internet of Things=モノのインターネット)、全てのモノがインターネットに繋がっていく時代が到来する。それを支えていく5Gという通信インフラも発展していく。2020年頃に今の第4世代の通信インフラ4Gから次世代の5Gになる。

 注目点は、これまでの製品は個人や企業が持つものが多かったが、これから発展していく機器は個人・企業レベルではなく、もっと大規模な社会のインフラで必要となる。個人が買うものでなく、国や大企業が買うものになる。つまり、消費の動向が変わる。

 政府が買うということは国の政策であり、農業に力を入れるなら、IoTを使って農業機器をスマートにし、無人作業を開発していく。例えば農業のロボット、IoTを使った工作機械、無人トラクター、無人ドローンで農地に肥料や水を撒く技術等を開発する。これら国ベースのものは政府の規制緩和や優遇措置を伴ってくる。例えば、中国では政策として電気自動車に舵を切った。個人でなく、国の動きを見て企業は先を予測していくようになる。

 細かいことには触れないが、電子機器の大きな流れをお話しする。電子機器にはいろいろある。パソコン、データセンター、通信の基地局、スマホ、家電製品、ナビゲーションといった車関係、ロボット(医療機器用)など。コンピュータ産業は伸びなくなり、スマホはそろそろ頭打ち、テレビに関しては過去は大きく成長したが、今は伸びが小さくなっている。

 では、何が伸びるか。まだインターネットに繋がっていない分野が今後伸びてくる。例えば、車、産業機器、さらにIoTの主戦場になるのはオートメーション、ロボット、医療機器、電力設備、軍需関係。逆にコンピュータやスマホはインターネットに既に繋がっているため市場としては伸びない。

 まだインターネットに繋がっていない分野は今後どんどん繋がっていき、ビッグデータを活用し分析し、それぞれの分野でもっとスマートな事業に向かっていく。例えば医療ではセンサーを手首につけて血流や血糖値を観察することができるようになる。これは保険と連携することになる。今の日本の医療は病気になってから治療している。日本の医療費は年間40兆円ほどかかっているが、15兆円ほど不足しており、税金で補填している。日本の健康保険システムは崩壊し、他の先進国もまた崩壊している。

 これからはIoT技術でセンサーを体に付け、スマホで管理し、ビッグデータを分析し、大きな変化があったときには、患者に対し病院へ行くように連絡がくるようになる。これで糖尿病患者、心臓発作や脳梗塞で倒れる人が激減する。予防ができるようになり、健康に長く生きられるようになる。現在、この仕組みのためのシステムを日本政府、保険業界はエレクトロニクスメーカーと話し合って開発している。アメリカでも進んでおり、2020年前に導入するであろう。

 これがIoTの活用例の一つである。しかし、まだIoTの効果は世の中であまり表面化しておらず、あと2、3年の時を経てIoTの効果は世界中で表に上がってくる。

●EV自動車、普及に立ちはだかる電力不足の壁に

 日本のマスコミはあと10年、15年すれば、自動車の20-30%は電気自動車になると騒いでいるが、これは絶対有り得ない。2029年でも電気自動車の生産率は全体のせいぜい10%程度と見ている。理由は電力が足りないからである。

 一般家庭が例えば日産自動車 <7201> のリーフを充電すると10時間かかる。つまり、例えば2030年頃に日本の自動車の半分である4000万台がEVにシフトしたと仮定すると、今の総電力のおよそ15%をEV車の充電に使う計算になる。この15%は日本の原子力発電所3基分に相当する量であり(世界規模で考えると30~40基)、あと十数年でこの電力を補うプラントが構築されるとは考えにくい。これも普通充電で昼夜をとわず平均的に消費した場合を想定しており、もし夜間にこの充電を一斉に行うとなるとおおよそ倍の電力が必要になる。また、急速充電をする割合が増え、仮に1/10の1時間で充足充電するなら10倍の電力供給能力が必要になる。つまり、日本で必要な原発は10倍の30基になってしまう。

 電力の観点から述べると、EVの販売台数をあと15年で2割、3割にするのは理論的に無理だ。自動車メーカーは宣伝効果としてEVを全面的に押しているのである。

 EVに大きくシフトする政策を打ち出している中国では予定通り進むかもしれない。理由は、EV車両の方が部品点数が少なく、簡単に作れるからだ。中国がガソリン車の優秀なエンジン、トランスミッション、ハイブリッドなどの複雑なパーツを作れるようになるには20年、30年かかる。中国の車メーカーはEVでゲームチェンジする必要がある。国の政策でもあるので実行するであろう。これからどんどん原子力発電所を作って、電力不足問題は中国国内で解決するつもりだろう。

 IoTでさまざまなモノがインターネットに繋がり、よりスマートな社会、医療、工場といったものができると言われている。しかし、IoTはなぜそんなに重要視されるのか。これをもう一回しっかり議論する。

 まず、世界には3つの大きなトレンドがある。それは人口増加、高齢化、都市集中化である。それらが引き起こすさまざまな問題には、環境汚染、医療不足、交通渋滞、資源の不足などがあり、これらを解決するのがIoTの技術なのだ。

 国連が発表している数字では、1950年頃、たった65年前の世界の人口は25億人だった。今は73億人、3倍になった。日本だけでなく、他国でも高齢化は進んでいる。医療を治療から予防へと変えていかなければならない。都市集中化の進展は、交通渋滞を引き起こし、環境破壊につながるため、もっとスマートな社会に変えていかなければならない。

 人口が増え、豊かな生活をするために多くの人が電子機器を使うようになれば、電気、エネルギーの需要は上がっていく一方となる。著しく需要が上がったのは最近で、中国とアジアの国々においてである。世界の電力供給能力は需要の15%くらい上にある。2025年頃から需要が急増し、世界中で停電が頻発する可能性がある。原発問題やCO2問題により発電所を作って発電供給能力を上げていくことは難しく、電力の需要を抑えていかなければならない。電気自動車の普及に電力供給は追いついていけない状態なのだ。

 したがって、これからは特に電力に注視しなければならない。エレクトロニクスの技術は性能を上げることによって電力消費をどんどん上げてきた。IBMのWatsonに代表されるスーパーコンピュータなど、これらは稼働させるのに原発3分の1くらいの大きな電力が必要になる。このままの推移だと2025年には需要に電力供給が追いつかなくなってしまう。そこで、IoTを使い、省電力を目指す技術を開発しなければいけないのである。

 エネルギーに関する政策、CO2削減の政策など、国の政策を見れば先を読むことができる。各国の省エネ目標はすでに公表されており、それを達成するための政策が打ち出されている。多くの国がIoTを活用してエネルギー削減、資源節約、さまざまな産業の効率化を進めようとしている。これまでの電子機器と違うのは政策を伴った電力消費が期待されることだ。

 世界の電力の55%はモーターに消費されている。そのうち、モーターの力を自動で制御するインバーターが備わっている産業機器はおよそ2割程度である。インバーターがないものはオンかオフだけになる。つけたらずっとつけたままになる。これを改善するだけでも30%以上も消費電力を下げることができる。国際電気標準会議IECではモーターの効率の規制を作っており、各国はその規制を取り入れ始めている。モーターにインバーターをつける規制ができるかもしれない。今後は予測をするうえで国の政策を見ることが重要となる。

※「武者陵司×南川明 2018年を読む!(南川氏講演 後編)」に続く


・「武者陵司×南川明 2018年を読む!(武者氏講演)」
  前編はこちら
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・「武者陵司×南川明 2018年を読む!(Q&Aセッション)」
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(2018年1月11日記 武者リサーチ「投資ストラテジーの焦点 303号」を編集・転載)

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