【特集】徹底検証“北朝鮮リスク”―「暴落」か「底打ち」か、Xデーを探る <株探トップ特集>
石川製 <日足> 「株探」多機能チャートより
世界の金融市場が北朝鮮リスクに揺れている。北朝鮮の核・ミサイル開発を巡り、米国との間の威嚇合戦はエスカレート。北朝鮮が弾道ミサイルを米グアム沖に撃ち込む計画を発表したことから、先週末の世界の金融市場では株価が急落し、円高・ドル安が進むなどリスクオフ状態となった。市場には「先行きが見通せない」との声が上がる一方、「両国の軍事衝突はあり得ない」との見方も少なくない。緊張高まる北朝鮮リスクのシナリオを探った。
●エスカレートする米朝の威嚇合戦、危機レベル一段と上る
米国と北朝鮮の確執が新たなステージに突入している。大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を進める北朝鮮に対し、米トランプ大統領は8日、「世界がみたこともないような炎と怒りに直面するだろう」と威嚇。これに対して北朝鮮は翌9日「グアムを包囲射撃する作戦計画を慎重に検討する」と一段の挑発で応じた。
今年4月にかけ高まった北朝鮮リスクが再台頭した格好だが、「グアムという具体的な地名を挙げたことで、危機のレベルは春に比べても一段と上がったのではないか」と外為どっとコム総研の神田卓也調査部長はいう。また、今春は北朝鮮のICBMの技術レベルは疑問視されていたが、一連の打ち上げ実験の成功を経て実戦配備が危惧される状況となったことも緊迫度を高める要因となっている。
●株式市場は防衛関連株が乱舞、先行きには強弱感対立
この北朝鮮リスクを受け10日のNYダウは前日比204ドル安と急落。為替相場では一時1ドル=108円後半にドル安・円高が進行した。一方、東京株式市場では、石川製作所 <6208> 、豊和工業 <6203> 、細谷火工 <4274> [JQ]、日本アビオニクス <6946> [東証2]といった防衛関連株が乱舞する状態にある。また、米国市場ではロッキード・マーチン、レイセオンといった軍需関連株が上昇基調を強めている。
市場では、「収束に向かっていくための終着点がみえない」と先行きを危惧する声が多い。とは言え、「両国の武力衝突は想定していない。直近の株価下落もNYダウが急伸していたことの反動安の面もあるだろう」(いちよしアセットマネジメントの秋野充成執行役員)という見方は少なくない。日本アジア証券の清水三津雄ストラテジストも「実際の戦争になることは考えにくく、徐々にリスクオフ状態はフェードアウトしていくだろう」とみている。
●米韓軍事演習にも注目、中国の出方が焦点に
そんななか市場の関心を集めるのが、北朝鮮がグアムを弾道ミサイルで狙う可能性があるとされるXデーだ。具体的には、15日の祖国解放記念日、25日の先軍節、9月9日の建国記念日、10月10日の朝鮮労働党創設記念日などが挙げられている。
さらに、上田ハーローの山内俊哉執行役員は「今月21日から予定されている米韓軍事演習も注目される」という。米韓軍事演習に反対する北朝鮮は、ICBMではない通常型の弾道ミサイルを発射する可能性も同氏は指摘する。加えて「やはり中国の出方がカギを握るだろう」と山内氏はいう。中国が仲介をとり北朝鮮に対してミサイル開発の凍結に持ち込むことができるかなどが焦点となる。
●メーンシナリオは「現状維持」、武力衝突なら円高後に一転円安も
以下、現時点で想定される3つのシナリオと、その際、予想される金融市場動向を挙げてみたい。
(1) 現状維持シナリオ
結局、大きな動きはなくこれまで通りの米国と北朝鮮の睨み合いが続く。「寝汗をかくような状況」(神田氏)は続くが、4月と同様にリスクオフ姿勢は徐々に後退する。秋口にかけ日経平均株価は2万円回復、為替は1ドル=114円意識の展開に。
(2) 状況好転シナリオ
北朝鮮が、中国の仲介でICBMや核開発を中止する。リスクオンで日経平均は2万円から15年高値(2万868円)更新を視野に入れ、為替も大幅なドル高・円安に。
(3) 米・北朝鮮衝突シナリオ
為替は当初円高進行となる可能性はあるが「日本にミサイルが着弾するような事態になれば一転円安が進むことも」(山内氏)ありえる。その際、日経平均は急落する。一方、NYダウは「いったんは下落も“遠い国の戦争は買い”で上昇する可能性もある」(清水氏)という。リスクオフで米長期金利は低下か。ユーロは買われ、安全資産の金は上昇基調を強める。
市場では、(1)のシナリオの可能性は85~90%前後との見方があり、残りを(2)と(3)が占めるとみている。ただ、「(2)の可能性は(3)より低いだろう」(神田氏)との声は多く、この点こそが市場がリスク懸念を払拭し切れない要因となっている。
株探ニュース