【市況】中村潤一の相場スクランブル 「リバウンド前夜の“底値株”投資作戦」
株経ONLINE 副編集長 中村潤一
地政学リスクは不安心理がひとたび後退しても折に触れて再燃する。その繰り返しでなかなか呪縛の解けない息苦しい相場環境が続きます。しかし、悲観に流されやすい局面にあることは確かですが、北朝鮮問題について先行きは誰も現時点で正確に把握することはできません。相場は起こるかどうかも分からないXデーを織り込みに行くことは現実的に難しく、時の経過に伴い、硬直化した地合いがほぐれていくことを期待したいところです。
●4月第2週に日銀ETF砲連発
今の地政学リスクに対するセーフティーネットを敷いているのが日銀です。日銀のETF買いは月を追って1回あたりの買い入れ額が、少しずつですが増額されています。4月は725億円で、第2週に4日間続けてETF買いを発動、これを含め4月17日まで合計7回、既に5000億円を超えています。
日銀は年間6兆円を買い入れる方針を発表しており、月換算では5000億円ということになりますから、4月はかなり積極的、ほぼ半月で枠を消化してしまった状況です。しかし、この5000億円はあくまで年間購入予定額を均したアベレージであり、売りニーズの強い月にはこれにこだわるわけではなく、あくまで目安に過ぎません。したがって日銀のETF砲はタマ切れということにはならないのですが、通常であれば国内外機関投資家の買い意欲旺盛な4月新年度相場の開幕時にこれだけETF砲を打ち続けるというのは、やはり想定外だったといえるでしょう。
●外国人は第1週現物買い越しも先物売り
一方、相場の帰趨を握る外国人投資家の動きはどうでしょうか。前回の当コラムで、4月は、昨年まで外国人投資家が16年連続で日本株買い越しという鉄板アノマリーに支えられた月であることに触れましたが、第1週については908億円の買い越しでした。
もっとも、これを前向きに捉えることは難しい意味もあります。現物株にはしっかりと買いを入れてきているのですが、その裏側で先物を3024億円売り越しているからです。現物は買っても、先物売りで存分にヘッジを利かせている状況が見て取れ、やはり北朝鮮問題は、外国人投資家の目にも少なからぬ日本のリスクとして映っていることを示しています。ちなみに第1週は、「生・損保」「銀行(都銀、地銀など)」、「信託銀行」の3者とも益出しの売りが優勢で、買い向かっているのは事法、すなわち外国人を除けば企業の自社株買いだけが孤軍奮闘した格好となっています。
現状を俯瞰すれば、「とても株なんて買えない」となるでしょう。しかし、実際はそうでもないのです。
●「騰落レシオは嘘をつかない」
弱気相場は好材料で底を入れるのではなく、悪材料に反応しなくなった時が底です。今の株式市場に必要なのは良い意味での開き直り。北朝鮮を巡る有事リスクは当分の間は燻り続けるわけで、このネガティブ要因を日常として受け止め、共存できる相場になる時を冷静に待つのです。
目先底入れにはそう時間を要することはないと思われます。前日(18日)時点で東証1部の騰落レシオは70.9%、日経225ベースでは66.9%と売られ過ぎの下限といってもよい水準です。相場におけるトレンドというのは重要で、いったん向きが変われば、変わった方向に慣性の法則が働きます。特に騰落レシオの場合、買われ過ぎと売られ過ぎのゾーンを振り子のように往来しており、振幅は常に大きい。相場が上下を問わず一方向に傾くと、それを肯定する後講釈に納得してしまうのが人間の心、しかし実際には必ずその反動局面が訪れます。個人的には、駆け出しの記者の頃に先輩記者から教示された「騰落レシオは嘘をつかない」という言葉はまさに金言であったと、いつも思い起こすのです。
今回も行き過ぎた振り子が戻る時間帯が近づいている、ということを頭の片隅に置いておくべきでしょう。
●18年3月期企業業績はポジティブ
朝鮮半島の軍事的緊張が平行線をたどるとして、ここから頼みの綱となるのは日米の企業業績です。米国企業の1-3月期決算発表が進行中ですが、総じて強い数字が並びます。ただ期待のハードルが高い分、株価面では必ずしもポジティブに働かないのがつらいところです。その象徴がトランプ政権とも関わり合いの深いゴールドマン・サックスの四半期決算。最終利益が前年同期比でほぼ倍増したものの、市場予想に届かないということで、一時5%安を超える売りの洗礼を浴びるところに現在の地合いの厳しさが反映されています。
日本でも今月下旬から17年3月期通期の決算発表が本格化してきます。全体で売上高、経常利益とも前の期の実績を下回りそうですが、従前の見込みよりは若干上振れるとの見方が強い。もっとも、マーケットの視線は18年3月期予想に向いています。18年3月期については経常利益段階で10-15%程度の2ケタ増益がコンセンサスとなっているようです。直近のドル円相場における円高基調を織り込んでおらず、2ケタの利益成長シナリオについては流動的な印象ですが、ここから円高が加速する根拠にも乏しいと思います。トランプ米大統領が何と言おうと、少なくともファンダメンタルズから“ドルは強い”。そして、円はイレギュラーで“今はドルより強い”のであって、修正のタイミングが遅かれ早かれ来ると考えます。
全体相場は18年3月期の増益を織り込む以前に、北朝鮮問題やトランプ政策の実現性に対する懐疑的な見方、あるいは欧州の政治リスクなどに目が向いてしまいました。足もとはネガティブ・モード全開であるだけに、いったん企業業績に視点が戻れば、相場は元来のファンダメンタルズに即した形で自律神経を回復させる公算が大きいとみています。
●超バリュー株の底値拾いに好機
物色対象として注目したいのは、テーマとしては引き続き設備投資関連で、機械株は注目です。中国での需要回復が顕著で、ファナック <6954> をはじめ機械メーカー各社が生産・販売体制を見直す動きにあることが報じられています。また、前回取り上げた繊維機械のトップメーカーである津田駒工業 <6217> は第1四半期決算が悪かったにもかかわらず、株価は底入れ急反転の兆しをみせました。受注自体は改善色をみせているほか、炭素繊維関連でもあり、今後の収益拡大の方向性を株価が織り込み始めた可能性があります。
しかし、今このタイミングを生かすのであれば、もっと深く売り込まれた銘柄の底値買いにチャンスを見いだしたいところです。特に19日の相場でも垣間見られた割安株を拾う動きを参考に、超バリュー株で一方的に売り込まれた銘柄に着目するのが得策でしょう。
4月12日掲載の株探トップ特集「究極の逆張り候補10銘柄」は、最近の厳しい相場環境にあって想定以上に読者の強い支持を集めました。おそらく、“株は安い時に拾って高い時に売る”という基本戦略について、本能的に賛同する読者が多いからであろうと推察しています。したがって今回、これと同じ切り口でRSIを使って銘柄を再スクリーニングしてみました。
●藤倉ゴム、アーレスティ、オハラなど注目場面に
例えば、藤倉ゴム工業 <5121> もPBRは0.6倍台。17年3月期は経常26%増益予想で18年3月期も増益が有望。半導体関連の一角でもあります。株価も昨年10月にマグネシウム電池関連としてマドを開けて買われるなど瞬発力は抜群で要マークでしょう。
アルミダイカストの大手メーカーで、北米生産拠点の改善が進み高水準の需要取り込みが期待されるアーレスティ <5852> は1株純資産が約2400円あります。時価PBRは会社解散価値の半値以下の0.4倍台です。PERも6倍前後に過ぎず、18年3月期も経常2ケタ増益基調が指摘されているだけに、ここは拾っておきたい銘柄です。
光学ガラスの大手老舗メーカーのオハラ <5218> は有機EL製造装置向け需要が業績面に追い風。同社が手掛ける高透過率を実現した「ナノセラム」にも成長期待が大きく、スマートフォン向け以外の需要開拓が進むとみられています。今期業績急回復、PBRは0.6倍前後で、今年2月27日には1438円の高値をつけています。
このほか、オールドファンにはお馴染みの往年の仕手系材料株だったルック <8029> は、有配企業にもかかわらず何とPBR0.3倍台と格安。また、タンク専業大手で次世代エネルギーの水素タンク開発にも注力する構えにあるトーヨーカネツ <6369> は配当利回り3.7%の高さでPBRは0.7倍台にとどまっています。
(4月19日記、隔週水曜日掲載)
株探ニュース