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【特集】崩落の予兆か――病んだ市場、視界不良の銀行株 <株探トップ特集>

三菱UFJ <日足> 「株探」多機能チャートより

―ドイツ銀問題・戻らない長期金利、内憂外患の東京市場―

 東京株式市場の雲行きがにわかに怪しくなってきた。9月20~21日に日米同時日程で開催された金融政策会合は年末相場の行方を占う最重要ポイントでもあった。その結果は周知のように、日銀の金融政策決定会合で「総括的検証」の発表とともに「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」という新たなスキームを決定、ETFの買い入れ手法の変更とあわせ、これが好感されるかたちで株価上昇の踏み台となった。一方、これに半日遅れての連邦公開市場委員会(FOMC)では事前の想定通り利上げが見送られ、NYダウは上昇、年末に向けた日米株高の構図が描かれたかにも見えた。

●ドイツ銀急落でグローバルポートフォリオ修正

 しかし、大方の期待を裏切り日本株は波に乗れない状況が続いている。28日の東京市場で日経平均株価は反落し1万6500円台を再び割り込んできた。日米金利差拡大思惑の後退による円高警戒感はあるものの、それ以上に今の冴えない相場展開を象徴するのがメガバンクをはじめとする銀行セクターの軟調な株価である。前日は、米司法省から巨額の和解金支払いを求められているドイツ銀行の株価急落の余波が東京市場にも及び、金融株全般が売りの洗礼を浴びた。

 東洋証券ストラテジストの大塚竜太氏は「銀行株の前日の下げについては、海外機関投資家の売りとみられる。ドイツ銀行問題で世界的に金融株が売られ、相対的にウエートの高い邦銀の株式をグローバルポートフォリオから落とす動きが観測される。(その後、ドイツ銀の株価は下げ止まったが)きょうもその流れが続いているのではないか」と指摘する。

 しかし、銀行株の下げはそうした海外マーケット発のネガティブ材料にとどまるものではないことは、大塚氏も含め市場関係者が多かれ少なかれ感じていることである。28日は業種別の値下がり率ワースト4に証券、保険、銀行、ノンバンクの4業種が並んだことは、今の東京市場を取り巻く“内憂外患”の投資環境を暗示している。

●黒田日銀総裁の視線の先は“為替”

 特にメガバンクと地銀で構成される銀行セクターの見切り売りが激しい。メガバンクでは三菱UFJフィナンシャル・グループ <8306> 、三井住友フィナンシャルグループ <8316> 、みずほフィナンシャルグループ <8411> が揃って4日続落となり、3銘柄とも25日移動平均線を下に抜け、テクニカル的にも弱気優勢を支持している。日銀の政策スタンスが、銀行セクターにとって相変わらずフレンドリーではないという認識が株価動向に反映されている。

 松井証券シニアマーケットアナリストの窪田朋一郎氏は「黒田日銀総裁は銀行の収益というよりは、為替の動向をみている。マイナス金利の深掘りに肯定的なのはそうした意図が見える」という。物価上昇率2%の達成は、アベノミクスが第一義とする“デフレ脱却”とイコールで結ばれる。その物価上昇率2%目標の、足かせとなり得るこれ以上の円高の芽を摘むために、黒田総裁は銀行サイドからマイナス金利政策への風当たりが強まろうとも、その方向性は変えないという見方だ。

 例えば地銀株は、海外で需要を開拓できるメガバンクと違いローカルに特化していることで、マイナス金利深掘りによる影響がより大きく、さらに事態は深刻ともいえる。市場関係者の間では冗談交じりに「優勝劣敗で再編を加速させる狙いがあるのでは」という穿った声も聞かれる。

●疑心暗鬼もたらす長期金利の動向

 新たに「イールドカーブ・コントロール」を導入し、長短金利差で利ザヤを取りやすくすることで銀行や保険会社にはポジティブな政策との印象を与えたが、それもつかの間「日銀の発表とは裏腹に長期金利はゼロ%を目指す方向になく、投資家は疑心暗鬼に陥っている」(窪田氏)という。また市場では、仮に10年債のゼロ%誘導がほぼ完遂できたとしても、長短利ザヤが収益貢献する部分は思ったより小さいという理解が広がっている。

 21日の決定会合で日銀はETFの買い入れ手法の変更についても言及、これまで個別株の株価形成を歪めるとして不評だった日経平均型の比重を低める一方、TOPIX型を70%前後まで高める方向が想定されている。これは時価総額上位の銀行株の押し上げ要因としてポジティブに作用することはいうまでもない。ただ、窪田氏は「ETF買いでTOPIX型の比重を高めることが銀行の株価に有利に働くことは確かだが、直近の値動きを見る限りマーケットは、それよりも(マイナス金利政策の推進に伴う)銀行収益へのダメージのほうが大きいとみているフシがある」と指摘する。

●マイナス金利見直しはECBの限界論頼み

 第一生命経済研究所主任エコノミストの桂畑誠治氏は「日銀の黒田総裁の直近のコメントを聞く限り、マイナス金利幅の拡大は量から質への転換を強調するからには、避けて通れないとの印象を受ける。しかし、方向性は明らかになっても具体的な政策手法が見えない段階ではこのネガティブ要因を株価に織り込むことも難しい」という見解を示す。また、日銀のスタンスに当面変化が出ることはないと前置きしたうえで、「マイナス金利政策で先行する欧州中央銀行(ECB)の内部で限界論が浮上してくる可能性があり、その場合は日銀も政策遂行に躊躇するケースが考えられる」としている。この場合、時間軸的には2017年以降ということになりそうである。

 また黒田総裁は、国債買い入れ枠の年80兆円について、既に“おおむね”という副詞をつけることにより、未達でも構わないという予防線を張っている。

 これについて桂畑氏は「10年物国債の買い入れを減らして誘導目標0%にする一方、必ずしもその減額分を短期国債に振り向けるという意思はないということを示唆したもの。結果としてテーパリングになるが、それを政策の方向性として悟られないように腐心している様子がうかがえる」という。決定会合後に緩和的な色彩の強い内容だったと、ひとたび株式市場は判断したわけだが、日を追って実際のベクトルは逆で緩和縮小であるという思惑が浸透し始めている。これはデフレ脱却に影を落とし、銀行株というよりは全体マーケットにとって歓迎せざる下落の舞台を演出することにもなる。

●高配当利回り放置は崩落を暗示?

 現在、その是非はともかくマイナス金利政策が当たり前のように俎上に載るなかで、銀行株の先行きに悲観的な暗示は、皮肉にもその配当利回りの高さに表れている。28日現在で三菱UFJが3.5%台、三井住友、みずほについては4.4%前後と非常に高い。それでも買いが売りに凌駕されている現状が意味することは、ここから株価はさらに4~5%は下がるであろうとみている投資家が多いということでもある。

 本来であれば、TOPIX型のウエートを高めた日銀のETF買いが銀行株の強力な味方となり、下値不安の乏しいなかでインカムゲイン(配当金)を取りに行く動きがもっと強まっていいはずだ。「現在の環境で銀行が買われないこと自体、市場が病んでいる証拠。今はまだ買い場ではないと顧客には伝えている」と国内証券のベテラン営業マンは言う。果たしてこれは崩落の予兆なのか。ここは思案のしどころである。

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