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【特集】木徳神糧 Research Memo(5):新流通ルートに太いパイプを有するため米穀事業は成長を維持


■中長期的展望

(1)中期経営計画(数値目標)

会社側は、2014年12月期を初年度とする「中期3ヶ年計画」を発表している。この計画の数値目標は、2015年12月期売上高101,000百万円、営業利益1,100百万円、2016年12月期売上高121,000百万円、営業利益1,200百万円となっている。

既に2015年12月期の営業利益は1,385百万円となり目標利益を達成したとも言える。しかし会社側では2016年12月期については上記のように慎重に見ており、現時点では2016年12月期の売上高を103,000百万円、営業利益を1,130百万円と予想している。しかし、食品事業のリストラが進んでいること、海外事業が順調に拡大し増益が続く可能性が高いことなどから、今後の木徳神糧<2700>の事業展開には注目する必要がありそうだ。

(2)中期経営計画(重要施策)

中期経営計画の目的は定量的な目標の達成だけでなく、定性的に会社の体質が変わっていくことも重要な目標である。同社は中期経営計画を達成するために、各事業の戦略として以下のような「重要施策」を掲げている。キーワードは「変化への迅速対応」「存在意義の発揮」である。

(米穀事業:国内)
◇生産地に近づく体制作り
○仕入れ手法の多様化
・既存銘柄の安定供給とコストダウンを実現するため、複数年・収穫前等の事前契約と期別相対・個別取引を併用する。
・仕入ルートの複線化による機動性を強化する。具体的には、各経連・県本部、各JA、生産法人等からの仕入れを拡大する。
・産地・生産者のニーズに応えられる仕入れを推進する。主食用だけでなく、加工用、米粉用、輸出用、飼料用への供給力の強さを発揮する。

○エリア戦略の進化
・単独農協との提携強化による生産体制を充実する。提携工場の拡大、品質管理の高度化、各地の設備を有効活用を進める。具体例として、JA食糧さがに20%出資(2015年3月)したが、これによって九州エリアの需要拡大に対して迅速な対応が可能となった。他県の精米工場への出資も検討中。
・特色ある地域銘柄の地産地消を促進する。広域卸機能を発揮して、生産者にメリット、取引先に価値を提案する。

○需要変化への積極対応
・新品種開発への参画を積極的に推進することで付加価値を提供する。具体的な例としては、業務・加工用多収品種開発の東北コンソーシアムに参加、「ささ結」コンソーシアムに参加、栃木県「ゆうだい21」の契約栽培を拡大などである。
・ニーズ別に商品開発を展開する。「買う」に加え「贈る/貰う」のニーズに対応するため、手土産用・インバウンド需要・小容量化等を進める。

◇海外トップブランド米の国内販売
国産米だけに止まらず、海外で人気のブランド米を積極的に販売する。例としては、タイのチアメン社「タイ香り米」、米国FRC社の「カルローズ ダイアモンドG」、中国中糧集団の「福臨門 稲花香」など。

(米穀事業:海外)
◇ベトナムを機軸としたグローバル展開
○ジャポニカ米、香り米(長粒種)の量的拡大
既に導入済みである日本式乾燥設備(能力230トン/日)をフル稼働させ、これによる歩留まりと品質の向上で精米数量は2014年の8,000トンから2015年には9,000トン超へ増加した。さらに2016年にはこれを12,000トンに増加させ、販売数量は長粒種の香り米と合わせ年間26,000トンとなり、東南アジア地区をはじめとした世界各国への更なる輸出拡大を図る。

○ジャポニカ米販売の広域化
量的な生産体制が整備されたことから、ベトナムを機軸にアジア、太平洋地域、北米、南米、欧州、南アフリカなどへジャポニカ米販売を展開する。一方でベトナム国内では、最大都市ホーチミンに物流センターを新設しジャポニカ米の販売を強化する。2月にはホーチミンにおにぎりショップ「東京むすび」をオープンし、ベトナム国内にジャポニカ米のおいしさを更に広めていく方針。

また高品質のジャポニカ米を求めるニーズの高まりに対応するため、北部のハノイに駐在員事務所を設置し、「こしひかり」を始めとする銘柄米の試験生産を開始した。これによって量的拡大だけでなく、質的にも南部で生産される中品質米と北部で生産される高品質米の提供が可能になる。

◇日本米輸出市場の開拓
○安全・安心で高品質の国産米輸出の拡大に注力
・販売先は東南アジア、太平洋地域、北米へ
・年間輸出量:平成25年産米500トン、平成26年産米900トンであったが、平成27年産米は1,100トンを目標にしており、さらに中期的には3,000トンを目指す。

(食品事業:機能性食品)
◇たんぱく質調整米「真粒米」の拡充
○国内における取組
・新規に1キロ小容量商品を開発し、2015年3月から販売開始。
・真粒米シリーズ「純米もち」を開発、同10月に発売開始した。
・既存のたんぱく質調整食品を販売するとともに「真粒米」シリーズの拡充に注力。

○海外における展開
・台湾グリーンバイオパークに「台湾木徳生技」を設立、真粒米の製造プラント第1期工事(月産50トン)を昨年着工、2016年3月竣工、同4月に稼動開始予定。
・この工場を中心として、中国大陸、東南アジアへ真粒米事業を展開する。

(飼料事業)
◇事業環境の変化に迅速対応
○販売エリアは北海道、中京、関西、九州の開拓を継続
・グループ全体で連携し、輸入飼料を強化。

◇飼料用米販売の拡大
○米穀事業の仕入力を活用し販売数量を急拡大させる
・グループの仕入力を活用し、販売数量を大幅に拡大させる。
・グループでの飼料用米販売量は2014年1,900トン、2015年3,200トンであったが、2016年には8,000トンを計画しており、中期的には10,000トンを目指す。

◇循環型ビジネスの推進
○日本で年間1,700万トンとされる食品廃棄物の有効利用
・具体的には工場からの食品残渣物や精米副産物の脱脂糠を飼料原料として再利用する。

(食品事業・食品子会社)
◇鶏肉子会社の黒字継続
○加工分野の強化
・グループ会社との協業で商品の開発と販売を加速させる。
・現在手作業で行っている工程を機械化し、生産効率の向上を追求する。

○エリア戦略の展開
・茨城における営業活動の強化で地産地消を促進し、「つくば鶏」ブランドの浸透を強化していく。

○製販費用の削減
・本社機能の移転や営業体制の見直しを行うことで製販コストを削減する。
・飼育・加工部門と営業部門との連携を強化し在庫や販売のロスを削減する。

(3)農業政策の変化と同社の存在意義

国内の米穀消費そのものは低下が続いており、その点から同社にとっての市場そのものの拡大は期待できない。しかし米穀の流通においては、コンビニエンスストアなど新たなルートが広がっており、また外食チェーンや惣菜、弁当などの所謂「中食市場」は拡大傾向にある。同社はこのような新流通ルート(量販店、コンビニエンスストア、外食チェーン等)に対して太いパイプを有していることから、米穀市場全体は伸び悩んでも同社の米穀事業が成長する可能性は高い。

さらに中長期の視点から同社にとっての追い風は、農業政策における自民党政権の変化だ。既に自民党はJA全中(全国農業協同組合中央会)に対して「自律的に新たな組織に移行すること」を提言、JA全農(全国農業協同組合連合会)に対しては「株式会社化」を提言し、このような農協改革は大筋で決着したが、米穀市場が今までの全中・全農の集中・支配体制から自由市場の方向に向かっていくことは確かであり、同社のように信用力、資金力、精米能力、全国レベルでの販売網を有している大手卸業者にとってプラスとなるのは間違いないだろう。米穀市場の自由度の高まりとともに、同社の存在意義は一段と高まっていくと予想される。

もう1つの重要な変化は、今後TPPで議論されていくであろう海外との米穀取引の自由化だ。既にTPP交渉は調印され米穀を含めた日本の農業市場は大きく変わる可能性が大きい。国内米穀市場及び同社にどのような影響が出てくるかはまだ不透明であるが、少なくとも現状より後退することは考えにくい。輸出及び輸入だけでなく3国間貿易も含めて少しでも米穀市場の自由度が増せば、大手米卸としての同社にとっては事業拡大のチャンスと思われる。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 寺島 昇)

《HN》

 提供:フィスコ

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