マーケット&北陸経済動向(9/1)【今村証券アナリストレポート】
8月も世界で株高が進んだ。米国ではダウ工業株30種平均など主要3指数が最高値を更新したほか、英FTSE100種総合株価指数や台湾加権指数も最高値を更新した。中国では上海総合指数が10年ぶりの高値水準にある。参議院選挙などが重荷となり出遅れ感のあった日本株も参院選後に上昇基調を強め、日経平均株価や東証株価指数(TOPIX)が最高値を更新した。世界の株式市場はトランプ米大統領が関税政策を発表した4月の急落時に比べて概ね1割~3割上昇している。

株価上昇を支えるのは堅調な世界経済と企業業績だ。米関税政策によって世界経済が急減速するとの見方は、米政権が日本や欧州など各国・地域と貿易協定を締結する中で後退している。国際通貨基金(IMF)が7月に公表した経済見通しで、2025年の世界経済の成長率見通しは4月時点の見通しから0.2ポイント上方修正された。足元の4~6月期の経済成長率は、日本が実質で前期比年率1%成長と5四半期連続でプラス成長となったほか、米国の成長率も前期比年率で3%増加した。世界の企業の業績も好調で、4~6月期の純利益は前年同期比7%増益となり、7~9月期については2桁増益が見込まれている。人工知能(AI)関連がけん引役だ。

米連邦準備理事会(FRB)による利下げ観測も株高を支える。米関税政策によってインフレが再燃するとの懸念はあるものの、パウエルFRB議長が経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」で、雇用の下振れリスクの高まりを示し「見通しとリスクのバランスの変化は政策の調整を正当化し得る」と述べたことが市場の利下げ観測を強めた。市場では9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)でFRBが利下げを再開するとの見方が大勢だ。トランプ米大統領がFRBに利下げを迫り、2026年に任期を迎えるパウエルFRB議長の後任人事について言及する中で、10月と12月のFOMCでの利下げ予想も高まっている。
一方、急速な株高で株式市場には高値警戒感が強い。東証プライム市場の値上がり銘柄数を値下がり銘柄数で割った騰落レシオ(25日移動平均)は27日時点で144.24%と、「買われすぎ」の目安とされる120%を上回る状況が続き、東証プライム市場の平均予想PERは17倍台と過去10年間の平均を上回っている。過熱感を解消するような調整局面に入る可能性を想定することも肝要と考える。


1段目:MSCI全世界株指数、2段目:赤:日経平均株価・青:米ダウ工業株30種平均、3段目:ストックス600、4段目:円相場(青:対米ドル、緑:対ユーロ)、5段目:米長期金利
出所:ブルームバーグ
市場関係者の注目は日米の金融政策だ。9月のFOMCにおいて0.25%の利下げは織り込み済みだが、注目されるのは参加者による金利見通しだ。米関税によるインフレ懸念が高まる中で市場が期待するような複数回の利下げが見通されるかが注目される。日本では9月の日銀金融政策決定会合では金利は据え置かれるとみられるが、2026年1月までに日銀が0.25%の利上げに踏み切るとの見方は多い。足元の為替相場は安定しているが、パウエルFRB議長や植田日銀総裁の発言次第では円相場が大きく動く可能性がありそうだ。

引き続きトランプ米大統領の発言が市場をかく乱する可能性には注意したい。トランプ米大統領の利下げ要求はFRBの独立性を揺るがしかねず、FRBに対する市場の信認低下によってリスク回避の動きが強まる可能性もがありそうだ。米関税政策による世界経済への影響も懸念材料だ。三菱自動車工業 <7211> [東証P]は関税影響を吸収するための価格転嫁が進まないことや、東南アジアなどの販売不振を背景に業績予想を下方修正した。同様の動きが広がれば投資家心理が悪化しよう。
過熱感が強い中、「休むも相場」と考える。企業の自社株買いが相場を支えることで株式相場が大きく下落することはなさそうだが、国内企業の2026年3月期業績は減益見通しだ。過熱感が薄らぐか、来期の業績回復が見通せるまでは待つのも良いと考える。

(2)北陸経済動向
足元の北陸経済は緩やかな回復・持ち直し基調にあるが、一部に弱めの動きもみられる。

堅調なのは「個人消費」だ。6月の商業動態統計小売6業態販売額(全店ベース)は前年同月比4.2%増と40カ月連続で前年同月を上回った。スーパーの販売額が同7.0%増、ドラッグストアが同6.3%増と伸びが目立ち、スーパーは飲食料品の値上げ、米価格の上昇といった物価高が押し上げ、ドラッグストアは新規出店効果などが寄与した。また、今年度の設備投資額は製造業を中心に前年度を上回る計画であり、公共投資は能登半島における復旧復興工事等により前年同月を上回る推移が続いている。

一方で「生産」が弱い。6月の鉱工業生産指数(速報値・季節調整済)は前月比3.0%減と3カ月ぶりに低下した。電子部品・デバイス工業はスマートフォン向けや自動車向けの不振、金属製品工業はアルミニウムサッシなどの不振が重荷になっている。回復の兆しがみえるのは、生産用機械工業であり、海外向け中心に堅調だ。
先行きについては、海外景気や為替、国内物価の動向などに引き続き注意したい。



(参照:日銀金沢支店発表資料「北陸の金融経済月報」、「北陸短観」、国土交通省発表資料、経済産業省及び経済産業省中部経済産業局発表資料、財務省北陸財務局発表資料、内閣府発表資料より今村証券作成)
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