いちご Research Memo(3):不動産価値向上を図る心築事業を軸に3上場投資法人を運用・管理(2)
■会社概要
4. 心築(しんちく)事業
心築事業はいちご<2337>事業の柱であり、不動産価値向上ノウハウは同社のコア・コンピタンスである。心築という言葉は同社の造語であり、「心で築く、心を築く」の信条の下、同社の技術とノウハウを活用し、1つ1つの不動産に心を込めた丁寧な価値向上を図り、現存不動産に新しい価値を創造することを言う。
心築事業は、保有不動産の賃貸収益(ストック)と譲渡収益(フロー)の両面がある。賃貸収益(ストック)は自己保有資産(2,554億円、取得簿価ベース)から生み出され、2024年2月期にはALL-IN粗利ベース収益で9,712百万円(前期比4,107百万円増)と、ホテルをはじめ全てのアセットタイプで賃料が伸長した。譲渡収益(フロー)は、売却における譲渡益であり、ALL-IN粗利ベース収益で14,109百万円(同2,415百万円増)となった。ホテルをはじめ商業施設やオフィス等を対象に時間をかけて心築・売却するマルチアセット、レジデンスを1年程度で心築・売却するオーナーズともに堅調に推移した。
自己保有残高は2,565億円(2024年2月末)。保有資産の特徴は、物件タイプとしてはオフィス(31%)、ホテル(25%)、商業施設(22%)、レジデンス(19%)とバランス型のポートフォリオになっている。地域別には東京(50%)及び東京以外首都圏(9%)が多く、福岡(18%)、大阪(8%)が続く。また物件規模では、10~50億円未満の中規模物件が52%と多く、いちごオーナーズが主に対象とする10億円前後の物件も18%と一定割合を占める。
心築事業の成功のカギは良質な物件の取得である。2024年2月期累計では40物件、69,514百万円(平均1,737百万円/物件)の資産が取得された。2023年2月期累計が45物件、50,704百万円(平均1,126百万円/物件)だったのと比較すると、総額が増加し、案件規模が大型化した。いちごオーナーズでの取得は43,276百万円と全体の62%である。マルチアセットの取得物件種類で多かったのはホテル(17,870百万円)であり、次にオフィス(7,210百万円)が続く。
売却に関しては、2024年2月期累計では55物件、69,693百万円(平均1,267百万円/物件)の資産が売却された。売却物件種類のなかではレジデンスが最大であり50,556百万円と高かった。売却においても、レジデンスを扱ういちごオーナーズでの売却が49,639百万円と全体の71%である。これは、「いちご・レジデンス・トークン」事業の開始により、いちごオーナーズの販売チャネルが拡大したことに伴い取得も拡大している。マルチアセットの売却物件種類で多かったのはホテル(16,080百万円)で、このうち150億円はいちごホテルリートへの物件提供である。ホテルはコロナ禍から脱却し需要が高まっており、売却可能な環境が整ったことが見て取れる。
5. クリーンエネルギー事業
クリーンエネルギー事業は2012年に開始され、現在では全国64ヶ所の太陽光、風力発電所プロジェクトをグループで運営するまでに成長した。内訳としては、同社が保有する太陽光発電所が48ヶ所、151.4MW。同社が保有する風力発電所が1か所、7.3MW。いちごグリーンインフラ投資法人が保有し、同社が運営する太陽光発電所が15発電所、29.4MW。直近では、同社で2番目の規模のいちごえびの末永ECO発電所(13.9MW)が売電を開始した。
同社のクリーンエネルギー事業の特徴は、1) 遊休地の有効活用を図ること、2) 北海道から九州・沖縄まで全国に分散していること、3) 固定買取価格制度の下20年間の安定した収益が保証されており、36円以上の買取価格が過半であること、4) 2MW以下のものから関東最大級の43MW(いちご昭和村生越ECO発電所)まであること、5) 太陽光発電以外にも風力発電、バイオマス発電に取組み電源の多様化が行われていること、などである。2016年2月期決算で黒字転換して以来、安定収益を生んでいる。今後の開発を計画するのは、バイオマス発電所が5ヶ所、5.2MW及びNon-FIT太陽光発電所10発電所43.3MWである。バイオマス発電所に関しては、地域一体型バイオマス発電の事業計画認可(経済産業省)を取得し、徳島県那賀郡那賀町での開発計画が進捗している。Non-FIT太陽光発電所に関しては、再生可能エネルギーの需要増に対応し、外部企業等の需要家向けに開発する計画である。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 角田秀夫)
《SI》
提供:フィスコ