いい生活 Research Memo(4):不動産事業向けに、業務効率及び生産性向上のSaaSを提供(2)
■事業内容
2. ビジネスモデルの特色・強み
いい生活<3796>の強みは、大きく分けて5つある。1つは、特定の業界に特化した垂直型の市場特化型SaaS(バーティカルSaaS)を展開している点。このアプローチにより、業界特有のニーズに深く対応する製品を提供できる。2つ目は「SaaSオンリー」という戦略で、これによりクラウドベースのサービスに集中し、顧客への効率的なサービス提供が可能となっている点。3つ目はマルチプロダクト戦略を採用しているため、必要なシステムを幅広く自社で提供することができる点。4つ目は特に賃貸管理会社に焦点を当てることで、特定セグメントのニーズに特化したサービスを提供し、様々なサービスが1つのSaaSプラットフォーム上に統合され、シームレスな連携が実現している点がある。5つ目は自社開発の製品が不動産業界に精通したエンジニアやセールスチームによって支えられている点である。これにより、実際の業界の問題に対する理解が深まり、顧客に適した解決策を提案できる。日本情報クリエイト<4054>、GA technologies<3491>、SREホールディングス<2980>など、不動産テックを展開する同業他社に対する大きな差別化要因になると考えられる。
(1) 情報精度の高さと事業領域
不動産業界における、これまでの一般的なシステムの利用では、個別のWeb広告媒体やシステムが単独で利用されていることが多く、情報は各個別媒体とのやり取りに限られており、閉鎖的なシステムの中に留まっていることが多いという状況が続いていた。不動産会社はそれぞれに個別に対応をする必要があり、関係者が多く介在する不動産取引において、その状況で情報連携を図ろうとすると、人手を介して情報連携を行ったり、異なるシステム間の情報連携を手動で行わざるを得なかったり、IT化、情報化の効果を十分に発揮できていない状況が見られた。
同社のサービスはクラウド上で一元化されているためリアルタイムで情報を取り扱うことができ、かつ情報の正確性が担保されている。具体的な例としては、賃貸物件における空室情報の伝達が挙げられる。通常その賃貸物件が空室かどうかを正確に知っているのは、オーナーとオーナーに管理を任された賃貸管理会社である。賃貸仲介の会社が、当該物件が空室かどうか、募集して良い物件かどうかを確認するには管理会社に個別に電話などで確認するのが一般的で(「物件確認」と呼ばれる)、時間がかかる割にはタイムリーでもなく正確性も担保しきれないという状況で、その不利益は物件を探す消費者が被ることが多かった。同社のサービスを利用している賃貸管理会社が入居者の募集を行う場合、物件に申し込みが入った時点で物件情報がただちにクローズされ、仲介会社は業者間流通サイト(「いい生活Square」)を通じて、今その物件が空いているのか募集中なのかリアルタイムで把握できる。管理会社が利用する賃貸管理システムと完全に連動しているため、空室情報をリアルタイムで更新することが可能となる。機能ごとに個別のシステムを導入した場合、オンプレミスとSaaSではなかなかデータ連携がうまくいかないことも多く、その場合にも不動産会社はデータを人手により連動させる必要がある。SaaSオンリーである同社のサービス群を利用している場合、その情報はサービス間でシームレスに利用可能で、従来のシステムと比べると利便性が高く、この点が同社の差別化要因となっている。
(2) ポジショニングによる競争優位性
同社のサービスはポジショニングにも特徴があり、不動産領域に特化した垂直特化型サービスを展開しながら、マルチプロダクト戦略を取ることで、不動産におけるすべての業務領域をカバーしている。それぞれのサービスがクラウド上にあるので、シームレスに連携されたサービスを通じて顧客企業に対して高い全体最適性を提供できるという独自のポジショニングを取っている。この特徴を業績の安定という観点から見ると、不動産の取引形態に応じた様々な業務をすべて事業領域として展開しているため、景気が下降した局面でも比較的影響を受けにくい収益構造になっているところが同社の強みと言える。
サービスの提供によってノウハウが社内に蓄積されていくだけでなく、そのノウハウを会社全体で共有し深掘りすることができる仕組みとなっており、新しいサービスを展開しやすい環境にある。顧客企業に対しても、より良いサービスの提案や品質の向上につなげていくサイクルができている。さらに多くのユーザー企業からのフィードバック・要望を通じて、様々なノウハウが社内に蓄積されることで付加価値の高い提案を可能としており、競合他社との差別化要因ともなっている。
3. 市場環境
同社を取り巻く環境は今後数年間で大きく成長することが見込まれている。今まで紙や対面ベースでの仕事が主流だった不動産業界は、今後、DXが急速に進んでいくと想定されているためだ。「2025年の崖」問題(2018年に経済産業省が発表した「DXレポート」より)によると、既存システムの老朽化・肥大化・複雑化・ブラックボックス化などによって、仮に日本がデジタル化に遅れれば、2025年以降最大で年12兆円の経済損失が生じると警告されている。各企業のデジタル化への取り組みは社会課題になっており、政府によるデジタル化推進政策も市場成長を後押しするものと思われる。同社のサービス内容は、「新しく革新的なDXツールの開発」「効率性と生産性を向上させる方法について、企業にコンサルティング・サービスを提供」という、今後の市場環境のニーズと方向性が合っており、市場規模の拡大とともに事業成長が見込まれる。
市場のリスク要因としては、景気悪化に伴う経済全体の需要減少に加えて、人口減少による需要の減少などが挙げられる。このような状況を想定し、同社は業界に特化したマルチプロダクト戦略をとることで物件の取り扱いデータを蓄積し、物件管理・営業支援・業者間プラットフォームなどの各種サービスと連携することで、新たな付加価値及び生産性の向上を実現し対応している。
一方、現在の同社を取り巻く不動産環境は、個人・法人ともに活況を呈している。不動産取引市場においては、価格の上昇に続き、賃料の上昇も見られ、個人の住み替え需要も底堅く推移している。また、円安や超低金利を背景に海外投資家のニーズは依然高く、今後も同社にとって追い風となり、事業拡大の機会になる。このような傾向が続けば、市場は今後も拡大することが予想され、同社には事業拡大の好機となると弊社では考えている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 中山博詞)
《HH》
提供:フィスコ