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6920 レーザーテック

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今中能夫【米国株ハイテク・ウォーズ】ジェンスン・フアンが描くAIの未来図

全世界が注目! エヌビディア・テクノロジー・カンファレンスで見えてきた「生成AI」の社会的影響

2024年最初の四半期を終え、AIブームに沸いた米国株式市場にも一服感が出ているが、世に「生成AI」が誕生してからまだわずか1年半、AI革命はこれからが本番だ。今回の連載では、このムーブメントの中心人物、エヌビディア<NVDA>のCEO、ジェイスン・フアンが毎年恒例のテック・カンファレス「GTC2024」で語った言葉の意味を、詳しく解説してもらう。これまで漠然としていたAI革命の具体像が見えてくるはずだ。

◆最新半導体アーキテクチャー「ブラックウェル」を発表

 今後のAI相場の行方を占うイベントとして世界中の投資家から注目を集めたエヌビディアの年次テクノロジー・カンファレンス「GTC2024」。3月18日から4日間の日程で開催されたこのイベントは、日本でもその一端は報道されてきたが、はたして多くの人に正確な内容が伝わっているのだろうか。そこで今回は、発表された内容を精査し、このイベントで描かれた「生成AI」の具体的な用途について分かりやすく伝えてみたい。

 まず、フアンCEOによる基調講演で発表されたのは、「ブラックウェル(Blackwell)」という最新AI半導体のアーキテクチャー(構成要素)についてだ。これによって最初に製品化されるのが「B200」という次世代の半導体で、ひと言で言うと、現在流通している「H100」と比べて推論性能が約15倍と飛躍的に向上し、なおかつ電力消費を4分の1程度に抑えることができるというものだ。

 推論性能もさることながら、この省エネ性能は今後のAI普及に向けて非常に重要な項目だ。というのも、膨大な電力を消費するAI半導体では、搭載したサーバーをデータセンターに増強しようと思っても、地域の電力供給網の制限によって難しくなってしまっているからだ。同社によれば、「B200」は今年の後半から市場に投入されるという。そうなれば、必然的に、AIを強化したい顧客企業による、現在の主力機種「H100」から「B200」への買い替え需要が次々に発生していくのではないだろうか。
 
◆「生成AI」の新たな用途は企業向けのスーパーコンピューター

 そして、今回のフアンCEOの講演の中で特筆すべきなのは、この最新アーキテクチャーの具体的な需要が示されたことだ。それはずばり「シミュレーター」としての需要だ。

 どういうことかというと、分かりやすく言えば、一昔前に日本の政府機関が開発した「地球シミュレーター」をイメージしてもらえばいい。最先端のスーパーコンピューターを駆使して、温暖化や地殻変動など地球規模の科学的問題のシミュレーション分析を精細な画像によって行い、話題を呼んだシステムだ。フアンCEOによると、「ブラックウェル」では、こうした"スパコン"並みのシミュレーション分析が実現できるという。

 具体的な用途を挙げれば、まず企業の研究開発がある。そして製品の設計や工場の運営・管理。セクターでは、航空・宇宙、防衛、自動車、化学、薬品・バイオ、医療関係全般など、要するに製造業の全セクターに需要がある。これまで多くの人が、「生成AI」は文書や画像の作成など、事務的分野のイノベーションだと捉えていた。だが、そうした範疇を超え、巨大な製造業の企業活動の中核部門に入り込むというのだ。

 もちろん、現在でも世界中に複数のスーパーコンピューターは存在するし、日本でも「富岳」のような高性能な機器がある。だが、もし、企業がこれを購入しようと思ったら、1000億円以上の費用がかかるし、納期も数年かかる。国の研究所から借りる場合は1日単位または月単位で借りることになる。しかし、エヌビディアの「ブラックウェル」を使えば、これまでは高額で使いにくかったスーパーコンピューターを企業が導入することができるところまでハードルが低くなるということなのだ。

 「GTC2024」の会期中、実際のシミュレーション映像が流されていたが、あの映像の精度を見れば、ファンの言葉により説得力を感じるだろう。そして、AI社会の将来像がフアンの言葉通りに進んでいくとするなら、今後もこの分野の圧倒的なトップとしてのエヌビディアの地位は揺るがないだろう。なぜなら、膨大な情報をもとに精度の高いシミュレーションを行い、それを高精細CGで表現するにはグラフィックに関する高い技術力が必要になるが、これこそがGPU(画像処理半導体)専門メーカーであるエヌビディアの強みだからだ。
 
 いま、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ<AMD>、インテル<INTC>などの半導体メーカー各社、アマゾン・ドット・コム<AMZN>、アルファベット<GOOGL>、マイクロソフト<MSFT>などハイテク大手各社がAI半導体の開発競争を繰り広げている。だが、各社が進める「生成AI」の適用範囲は、複雑な文章を整理したり、広告用のビジュアルを作成したりといった、事務的な業務にとどまっていると思われる。スーパーコンピューター並みの計算能力があったとしても、エヌビディアのような高精細CGの描画能力と高速処理能力は持っていないだろう。
 
 一方、エヌビディアは、これまで品質に特にうるさいゲーム・ユーザー向けに、GPUを30年以上、ひたすら開発してきた実績がある。そこで培った技術は、突然沸き上がったブームで慌てて動き出した企業が簡単に追いつけるような水準にはないのだ。これまで、エヌビディアに懐疑的な市場関係者の間では、「技術的に見て、生成AIにはGPUは向いていない」という意見もあったが、こうした見方は今回のカンファレンスで完全に覆されたのではないだろうか。

◆もはやチップとは言えない、エヌビディアのAI半導体

 では、今カンファレンスで発表された最新AIアーキテクチャー「ブラックウェル」とはどのようなものなのだろうか。ここで改めて、その内容について見てみたい。
 
 現行の「H100」、その後継機で今年春から出荷が始まる「H200」に続いて出荷を予定しているのが「B200」で、これは「ブラックウェルGPU」2個を連結してパッケージングした製品だ。そして「ブラックウェルGPU」2個と、エヌビディア製のCPU(中央演算処理装置)、「Grace」1個を組み合わせたのが「GB200」という製品で、今カンファレンスでは、この「GB200」とその上位機種が重点的に紹介された。

 一つは「GB200NVL72」という製品で、「Grace CPU」36個と「ブラックウェルGPU」72個を組み合わせて液体冷却する製品である。見た目はスーパーコンピューターそっくりだがシステム上は一つのGPUとして認識される。さらにこれを8基集めて液冷装置を取り付けたものが、現時点での最上位機種と思われる「GB200NVL72 COMPUTE RACKS」だ。

 形状だけではなく、価格も従来の半導体と比較すると、桁外れだ。カンファレンス期間中、フアンCEOはCNBCのインタビューで「ブラックウェルGPU」1個の価格は3万~4万ドルだと言っていたが、「Grace CPU」とパッケージコストを考えると、「GB200NVL72」は日本円換算で1基5億円以上、「GB200NVL72 COMPUTE RACKS」になると40億円以上はする計算になる。

 とんでもない金額だと思うかもしれないが、私はこの製品は"売れる"と思う。スーパーコンピューターを導入するのに比べれば安価で、使い勝手も良く、企業のメリットは計り知れないと思うからだ。

◆第二のスーパー・マイクロ候補は?

 「GTC2024」の話題はさておき、次に、今後のハイテク企業の決算の見方についても触れておきたい。5月22日予定のエヌビディアの決算に注目が集まるのは当然として、その前に、4月下旬か5月上旬予定のスーパー・マイクロ・コンピューター<SMCI>の決算にも注目したい。エヌビディアの「H100」の省エネ版「H200」が2024年春から出荷開始される見込みなので、「H200」搭載サーバーがどの程度収益貢献する見込みなのか、2024年1-3月期の業績はもちろんだが、4-6月期の売上高見込みの数字が見どころだ。

 次に注目したいのは、AI半導体で不可欠な高速大容量メモリー、「HBM3e」を生産するマイクロン・テクノロジー<MU>だ。先の決算発表の席で同社は、DRAM市況が十分上昇していない現在は設備投資の増額は行わないという意味のことを言っていた。しかし、エヌビディアの「ブラックウェル」でもそうだが、AI半導体の性能向上には、DRAMの最新規格「DDR5」のウェハをベースに作るHBMの性能向上と大容量化が不可欠である。特に今後、「生成AI」でシミュレーション機能を強化しようと思うなら、AI用GPU本体の性能向上とともにHBMの能力向上と容量拡大が重要になってくる。

 また、シミュレーターのような大量の高精細CGを高速処理する場合は、AIサーバーのメインメモリ(「DDR5」)とストレージ(SSD=NAND型フラッシュメモリを組み合わせた記録媒体)の容量拡大が必要になる。昨年までのメモリー不況を脱して、同社はすでに2024年8月期第2四半期で黒字転換しているが、恐らく来期2025年8月期決算では過去最高に近い営業利益になるのではないかと予想している。そして、来期には設備投資の増加が必要になると思われる。

 他には大手ソフト会社やシステムインテグレーター、クラウドを使って自社サービスを展開しているネット企業などの動向にも注目したい。例えばセールスフォース<CRM>やオラクル<ORCL>、IBM<IBM>といった企業だ。各社とも、すでに自社サービスに「生成AI」または各種のAIを取り入れてサービスを開始しているが、今後、こうした企業がどのようにAIを活用していくのか。各社の決算内容を見れば、「生成AI」の現時点での社会への浸透度が推し量れるだろう。

 一方、半導体デバイス・メーカーは、見るべき焦点が限られている。例えばインテルは現時点では明らかに大きな飛躍は期待できないだろうし、AMDもこれからエヌビディアをキャッチアップするのは難しいだろう。

 むしろ期待が持てるのは半導体製造装置メーカーだ。ディスコ <6146> 、東京エレクトロン <8035> 、SCREENホールディングス <7735> 、アドバンテスト <6857> 、レーザーテック <6920> など日本にも有力メーカーが多いが、このセクターが「生成AI」の恩恵を本格的に受けるのはこれからだと思うからだ。

 一説では、「半導体の微細化はそろそろ限界が近づいているから製造装置の市場拡大の余地は少ない」という声もある。だが、これまでの半導体と比べて、AI半導体の製造ははるかに複雑になっている。加えて今回のカンファレンスで明らかになったことは、「ブラックウェル」の例を見る通り、現在のAI半導体が大き過ぎるということだ。したがって、今後、さらに機能を向上させ、使い勝手をよくしようとすれば、半導体の微細化は必須になるのだ。
 
 これまでは最先端半導体(現在は3ナノ)の最初の用途は、アップル<AAPL>の「iPhone」が中心だった。だが今後は、徐々にパソコン、データセンター、そしてAI半導体へと用途が広がっていくだろう。限界どころか「生成AI」の登場によって、このセクターの市場成長の余地はさらに広がっているのだ。


【著者】
今中能夫(いまなか・やすお)
楽天証券経済研究所チーフアナリスト 

1961年生まれ。大阪府立大学卒業。岡三証券、シュローダー証券、コメルツ証券などを経て2005年より現職。1998~2001年、日経アナリストランキングソフトウェア部門1位、2000年、同インターネット部門1位。ハイテク業界、半導体業界を対象にした綿密な企業分析に定評がある。楽天証券の投資家向けサイト「トウシル」https://media.rakuten-sec.net/で注目企業の詳細な決算分析動画およびレポートを随時、公開中。

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