井関農 Research Memo(7):2024年12月期は売上横ばい、減益を見込む。短・中期の抜本的構造改革に着手
■今後の見通し
1. 2024年12月期の業績見通し
井関農機<6310>の2024年12月期の連結業績は、売上高が前期比0.0%増の170,000百万円、営業利益が同11.3%減の2,000百万円、経常利益が同52.2%減の1,000百万円、親会社株主に帰属する当期純利益が400百万円(前期は29百万円の利益)を見込んでいる。売上高に関しては海外事業の減収を見込んでいるものの、国内事業が増収となることにより2023年12月期と同程度の水準で着地する見込みだ。利益面に関しては、資産効率向上を目的とした生産調整の継続に加えて、人件費や物流費などを始めとする販管費の増加が影響してくることを見込んでおり、営業利益と経常利益に関しては減益となる見通しだ。
国内事業の売上高は、前期比1.8%増の115,000百万円を見込んでいる。市場環境としては、需要が弱含みで推移することが見込まれるものの、価格改定の効果に加えて、大型農機やボリュームゾーンの新型トラクタであるBFシリーズの拡販に注力することによりトップラインを拡大させていく。2023年12月期に発生し、減収要因となったサプライチェーンの混乱による大型農機の生産遅延は足元では解消している。生産回復により、市場のニーズをしっかりと取り込み、業績拡大につなげていく考えだ。また、BFシリーズの販売は好調に推移しており、2024年12月期においても業績に貢献してくることが期待される。その他、今春が初稼働となるトラクタ・田植機のスマート農機に関しても、実演強化による増販に注力していく。これらにより、商品別の売上高は、農機製品の売上高が同2.2%増の46,000百万円、作業機・部品・修理収入の売上高が同2.8%増の43,700百万円を見込んでいる。
海外事業の売上高は、前期比3.2%減の55,000百万円を見込んでいる。地域別では、北米市場の増収を見込んでいるものの、欧州市場、アジア市場、その他の市場が減収となる見通しだ。北米に関しては、コンパクトトラクタ市場の需要が弱含みで推移することが想定されているものの、市場の縮小には底打ち感が見られている。そうしたなか、AGCO社との連携を強化しながら各種販売施策を実行することによりトップラインを拡大させていく。また、販売価格の改定(値上げ)も増収要因となりそうだ。欧州に関しては、減収見込みではあるが、近年業績が順調に拡大してきており高水準を継続している。景気後退や政府・自治体の景観整備事業に対する予算縮小による需要軟化懸念などを鑑み、やや保守的な見通しとなっている。欧州子会社を核とした販売・サービスの強化、コンシューマー向け製品の拡販に注力していくことにより好調を持続させていく。アセアン市場のタイに関しては、干ばつの影響が継続することなどにより需要が弱含みで推移することが想定されている。そうしたなかにあっても、IST社を中心とした販売網の強化や新規ディーラーの獲得などによって売上回復に注力していく。東アジア市場に関しては、韓国代理店における一時的な在庫調整等により減収を見込んでいる。これらにより、北米市場の売上高は同12.7%増の16,000百万円、欧州市場の売上高は同3.6%減の32,000百万円、アジア市場の売上高は同21.0%減の6,400百万円を見込んでいる。
2.「プロジェクトZ」の下で、聖域なき事業構造改革を断行
先述の通り、2024年12月期は「プロジェクトZ」の初年度にあたる。「プロジェクトZ」は、短・中期的な時間軸のなかで、資産効率と収益性を向上させながら成長を加速させていくことを目的としている。短期集中の抜本的改革としてまずは、2025年までに製造会社の経営統合(2024年7月を予定)、広域販売会社の経営統合(2025年1月を予定)、製品ごとの利益率改善を実行していく。製造会社の経営統合に関しては、井関松山製造所と井関熊本製造所を統合する。製造会社を経営統合し、人的資源や投資・システムを集約することにより、生産の効率化、人的資源の有効活用、資産の効率化、在庫の圧縮、固定費の削減などを実現していく。広域販売会社の経営統合に関しては、北海道、東北、関東甲信越、関西中部、中四国、九州の広域販売会社を1社に統合し、在庫拠点の最適化、物流体制の再構築、在庫の一元管理を実現していく。これにより、物流費の圧縮や棚卸資産の削減を実現していく考えだ。また、製品ごとの利益率改善に関しては、開発機種の選択と集中などにより実現していく。具体的には、成長率と市場規模という2軸で開発機種を取捨選択し、機種・型式を30%以上削減することなどにより開発の効率化と製品利益率の向上を目指す。これらの短期集中かつ抜本的な構造改革を実行しながら、2024年中にはさらなる抜本的構造改革施策を公表し、資産効率と収益性を高めていく方針だ。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水陽一郎)
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提供:フィスコ