昭和産業 Research Memo(1):2024年3月期第3四半期の営業利益は上方修正した通期予想を超過達成
■業績動向
1. 2024年3月期第3四半期の連結業績
昭和産業<2004>の2024年3月期第3四半期の連結業績は、売上高265,555百万円(前年同期比4.9%増)、営業利益11,319百万円(同148.1%増)、経常利益14,137百万円(同115.0%増)、親会社株主に帰属する四半期純利益10,362百万円(同156.3%増)となった。引き続き原材料コストやエネルギーコストの上昇分を製品価格に反映した適正価格での販売を優先した結果、増収増益を確保した。特に利益面は好調で、今第3四半期決算とともに、今期2度目となる通期業績予想の上方修正、並びに増配を発表している。なお、2023年11月10日に上方修正した2024年3月期通期の計画に対する第3四半期の進捗率は、売上高が78.1%、営業利益113.2%、経常利益117.8%、親会社株主に帰属する四半期純利益は115.1%となっている。
2.セグメント別業績
同社は、2023年4月より営業組織を、「プロダクトアウト型」からマーケットイン志向の業態別・顧客別の「ワンストップ型」の体制に改編し、事業管理体制を変更した。それに伴い、報告セグメントの区分も変更され、従来の「製粉事業」「油脂食品事業」「糖質事業」「飼料事業」の4区分のうち、「製粉事業」「油脂食品事業」「糖質事業」を「食品事業」に統合した。食品事業の内訳は、「製粉」「製油」「糖質」のカテゴリに分かれ、「製粉」は小麦粉、プレミックス、パスタ、焼成パン、ふすまを、「製油」は食用油、大豆たん白、冷凍食品を、「糖質」は糖化製品、コーンスターチ、加工でん粉を扱う。
(1) 食品事業
食品事業の売上高は217,075百万円(前年同期比6.3%増)、営業利益は11,210百万円(同160.4%増)となった。新型コロナウイルス感染症の5類移行に伴い外食や飲料用途などの需要が回復した一方で、コンビニエンスストア向けの日配品や内食需要は価格上昇による買い控えなどにより、物量面では厳しい状況が続いた。しかし、原料穀物相場の推移や円安進行による輸入コスト、エネルギーコスト上昇に見合う適正価格での販売を優先したことにより、前年同期比で増収増益となった。
製粉カテゴリでは、輸入小麦の政府売渡価格の引き上げ(2023年4月、平均5.8%)、及び引き下げ(2023年10月、平均11.1%)を受け、小麦粉製品の価格改定を行った。小麦粉の販売数量は前年同期並みであったが、プレミックスの販売数量は前年同期比減少、パスタは外食需要の改善もあって前年同期比増加した。適正価格優先の営業姿勢を維持したことが増収に結び付いている。また業務用については組織再編によるワンストップ型の提案営業により、一人の営業担当者で、顧客の多様なニーズに対して製粉や製油、糖質など、複数の素材を扱えるようになったことが奏功し、顧客との新たな接点から提案活動も活発化し、業績面への寄与が見られている。一方で家庭用製品については、価格改定の影響もあって販売数量は前年同期を下回っている。
製油カテゴリでも製粉と同様に組織再編による顧客への提案営業や課題解決型アプローチによる営業活動を行い、価格に見合った高付加価値製品の販売量が伸び増収を確保、利益面でも寄与している。ベーカリーなどの製粉チャネルへの提案や、糖質チャネルである飲料メーカーにカフェ飲料のコクの底上げを実現する油脂の提案など、組織再編による営業力の強化が進んでいる。これらの取り組みが、適正価格での製品販売を後押しする形になり、利益率改善の好影響が生まれていると考えられる。
糖質カテゴリは、外食や業務用の需要回復を背景に、当期の施策でもあるグループ会社との協業に基づく適正価格での販売活動や低分解水あめ、粉あめ等の独自性のある商品の拡販に注力し、前年同期比増収となった。糖化品の販売数量は前年同期比で増加した。コーンスターチはビール向け等の需要増加により販売数量が増加、加工でん粉については工業用途の需要減により前年同期を下回っている。同社と敷島スターチ(株)及びサンエイ糖化(株)は、グループ会社間の協業施策に基づき、生産拠点の最適化や事業構造改革を進めており、「粉あめ」「結晶ぶどう糖」「オリゴ糖酸」等の差別化製品の拡販も寄与している。
なお、同社では2024年3月期下期の重点施策を展開中である。同社としては、新型コロナウイルス感染症の5類移行後も市場全般は同感染症拡大以前の販売数量まで回復していないとの認識で、先行不透明な状況のなか、収益確保のための戦略をカテゴリ毎に推進している。現状順調に進んでおり、今期業績への貢献が期待される。個別に見ると、製粉カテゴリでは、グループ製粉5社のさらなる連携強化と事業の構造改革を推進している。グループ会社の連携強化の例としては「焼成パン」事業が挙げられる。グループ会社で取り扱う焼成パン(焼きたてのパンとして売り場で販売するパン)について、同社とグループ会社が連携し、コンビニエンスストア向け商品として納入している。また構造改革では商品アイテム数の集約によるコストダウンや、廃棄物の削減によるフードロス対策、顧客の売り場需要の変化に対応した商品開発等を展開中である。製油カテゴリでは、2023年5月に資本業務提携した辻製油(株)との協業を始めている。この協業により、取扱可能な油種のバリエーションが広がった。前期は菜種油の価格上昇が製品コストの上昇要因となったが、この協業によって油種ポートフォリオを適時に最適化することでコストコントロールが可能になるメリットがある。糖質カテゴリでは、ターゲットユーザー向けの拡販、顧客ポートフォリオの見直しによる収益安定化や原料調達チャネルのさらなる多様化等を推進中である。
(2) 飼料事業
飼料事業の売上高は45,012百万円(前年同期比0.4%減)、営業利益は316百万円(同7.4%減)となった。2022年秋に感染が確認された鳥インフルエンザの感染拡大や2023年夏の猛暑が配合飼料の販売に影響し、配合飼料及び鶏卵の販売数量は前年同期を下回り、売上高は前年同期を下回った。一方、原料価格が高値で推移するなか、コスト上昇に見合う適正価格での配合飼料の価格改定の推進や、畜産物の販売支援による畜産生産者との取り組み強化、高付加価値商材の拡販等に努めた。グループ会社である昭和鶏卵(株)の預託農場への飼料販売、鶏卵生産及び販売と、一気通貫したレイヤー事業基盤の強化により生産性が向上している。
飼料事業においても、2024年3月期下期の重点施策として、農場の抱える様々な課題に対する解決策を提案する提案型営業の推進によって飼料の拡販を展開するほか、グループ会社との協業による一気通貫のレイヤー事業戦略の展開により、利益規模の拡大と安定化を進めている。
(3) その他事業
不動産業、保険代理業、自動車リース業、運輸・倉庫業などを行うその他の売上高は、3,467百万円(前年同期比8.3%減)、営業利益は1,012百万円(同6.6%減)となった。倉庫業については、貨物獲得競争が激化するなかで商社や主要顧客との取り組みを強化し荷役量の増加に努めたが、貨物取扱量は前年同期を下回った。
(執筆:フィスコアナリスト 村瀬智一)
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提供:フィスコ