戸田工業 Research Memo(3):2023年11月に創業200周年を迎えた老舗の化学素材メーカー(2)
■戸田工業<4100>の会社概要
(1) 電子素材事業
主に自動車、通信・家電機器市場を事業フィールドとして製品展開を行っている。磁石材料(フェライト、希土類)、誘電体材料(チタン酸バリウム)、LIB用材料、軟磁性材料を「戦略4事業」として位置づけている。全体として金属・レアメタルなどの化学品の市況や為替変動による影響で見かけの売上が大きく変動するほか、利益面でも在庫や売価の価格連動の追従性及び稼働率で変動することがある。
2023年3月期の製品別売上高では磁石材料が11,400百万円(セグメント内での構成比56%)と電子素材事業で最大の売上となっている。その中心はボンド磁石用のフェライト・希土類磁性コンパウンド(磁性粉末と樹脂を複合化した成形材料)である。ボンド磁石は高分子樹脂やゴムなどのバインダーにフェライト磁石や希土類磁石の微粒粉末を高充填した磁性コンパウンドから製造され、最近は希土類磁石コンパウンド材料の比率が高まっている。磁力面で焼結磁石に劣るものの、複雑形状加工成形、金属との一体成形、薄型化や長尺広幅化が可能という利点がある。「ハードフェライト・ソフトフェライト」、「等方性・異方性」、など、幅広い製品群を揃え、様々な産業で利用されている。用途としてはエアコン・空気清浄機向けや自動車向けなどの需要が拡大し、利用分野が広がっている。また2021年8月に射出成形ボンド磁石などを製造・販売する江門協立磁業高科技有限公司(以下、江門協立)を連結し、現在は成形事業を含めた事業展開となっている。
この数年で数量を大きく伸ばしてきたのがハイニッケルを中心とする車載用LIB用材料で5,800百万円(セグメント内での構成比29%、前期比では30%減)となっている。同社は磁気テープに代表される磁性酸化鉄市場の急激な市場縮小に対し、既存事業の技術を生かしLIB用正極材料の研究に着手、2000年にコバルト酸リチウム(LiCoO2)事業を開始した。その後、買収などで2002年にニッケルコバルトアルミン酸リチウム(LiNiCoAlO2)、2007年にNi(OH)2/CoOx、2008年にはスピネル型マンガン酸リチウム(LiMn2O4)を事業化、同時にArgonne National Labからリチウムリッチのニッケルコバルトマンガン酸リチウム(Li-Rich NCM)のライセンスを取得し、LIB用正極材料3成分系の事業化を迅速に行った。また米国ミシガン州に工場建設を始め、2010年に伊藤忠商事<8001>と前駆体・正極材料製造のJV、2015年には欧州化学大手BASFと日本を拠点にLIB用正極材料を展開するBASF戸田バッテリーマテリアルズ(同)(以下、BTBM)を立ち上げた。NCA、NCMなど様々な正極の研究開発、製造、販売を行うこととし、2017年にはハイニッケル系正極材料生産設備を大幅増強した。LIB用材料は、BTBM(BASFジャパン66%、同社34%出資、持分法適用会社)が展開しており、2022年12月期の売上高は21,644百万円(前期比28.1%増)、当期純利益4,666百万円であった。なお、2022年7月20日には、年間45GWhのバッテリーセル製造に必要な生産量の確保を目指し、ハイニッケル系正極材料の生産能力を2025年までに6万トンに引き上げることを発表した。2022年12月19日にはドイツBASF本社が、BTBMを通じてトヨタ自動車<7203>とパナソニックホールディングス<6752>の合弁会社であるエナジー&ソリューションズ(株)(以下「PPES」)へNCM系正極材料の納入を開始するとの開示があった。LIB用材料は車載対応で多額の先行投資を必要とし、減損処理、投資損失、市況の乱高下などから収益推移の重しとなっていたが、ここに来て投資効果が現われ、収益を稼ぎ出す事業に変わってきている。一方でリチウムイオン電池用正極材料の前駆体を手掛ける連結子会社の戸田アドバンストマテリアルズ(カナダ)は主力ユーザーの多くが欧州EV向けであるため、中国の欧州でのEV攻勢で生産が伸び悩み、この影響から2021年12月をピークに収益が悪化している。
2023年3月期の売上高は10億円と小さいが、今後の期待が大きいのがMLCC向け誘電体材料事業である。コンデンサーは3大受動部品の1つで、能動部品(供給された電気エネルギーを増幅、変換、整流などが可能)を正しく作動させるために必要不可欠な部品であるため、ほどんどの電子機器に使用されている。この中でセラミックコンデンサーは国内におけるコンデンサー生産額の8割近くを占める。現在、スマートフォン、自動車、家電など、あらゆる電子機器で利用され、2022年度は7,497億円の生産額を誇る。セラミックコンデンサーの主原料はチタン酸バリウムで、実用化で先陣を切ったのが村田製作所<6981>、その後、太陽誘電<6976>、TDK<6762>など日系企業が続いて基幹事業化に成功し、サムスンが2000年代に入り本格参入するまで日本企業の独断場であった。同社は2004年にチタン酸バリウムの製造設備を新設し、同分野へ本格参入したが、特徴はその製造方法にある。チタン酸バリウムの製法は、原料を焼成する固相反応法が主流で、村田製作所なども大半はこの製法で内製化している。なお日本化学工業<4092>、富士チタン工業(株)などは湿式反応と焼成を組み合わせたシュウ酸塩法を利用しているが、固相法に対して細かい粒度が得られることが特徴である。これらに対し同社は独自の湿式合成技術によって原料を高温・高圧下で反応させ、100nm未満の微細な粒子の粒度を均一に制御できる水熱合成法を利用している。現在、セラミックコンデンサーでは、小型化、大容量化、高誘電率が求められ、すでに0603サイズが1005サイズを抜いて最大比率となっている。さらに0402サイズの比率も高まり、0201サイズも通信モジュールやウェアラブル機器などの特定用途での利用が始まっている。現在、スマートフォンの不振から足元の生産が低迷しているものの、今後、超微粒子チタン酸バリウムの需要が急速に高まると見られる。
(2) 機能性顔料事業
機能性顔料事業の2023年3月期売上高は14,723百万円(前期比8.6%増)となっている。主に塗料、複写機・プリンター、環境市場を事業フィールドとして製品展開を行っている。これまで塗料用顔料、複写機・プリンター向けトナー・キャリア用材料などを中心に拡大してきた。顔料は、創業以来の事業で、塗料市場では建築物や構造物向けの着色材料などで着実に用途が拡大しているものの、複写機・プリンター市場は、ペーパーレス化、電子化などの影響で成熟化している。ただし同社はシェア拡大に努め、化粧品顔料、透明酸化鉄など新製品群の拡大や環境市場向けの土壌・地下水浄化材などで補い、売上を確保してきた。利益面では原材料・エネルギー価格高騰の影響などで利益率の低下を余儀なくされてきたが、新型コロナ感染症拡大(以下、コロナ禍)による影響から回復してきた。なお、同事業については、将来的な発展を見据え、2022年12月28日に戸田聯合の出資持分を同社持分法適用関連会社である浙江華源顔料股分有限公司(以下、浙江華源)へ移管した。同社が2011年に出資した戸田聯合は黄色の酸化鉄顔料を中心に製造販売を行い、2001年に出資した浙江華源は赤色の酸化鉄顔料を中心に事業展開してきた。近年、中国では酸化鉄顔料メーカーの統廃合・提携が活発だが、今回の統合で浙江華源は赤色、黄色、黒色のすべての酸化鉄顔料事業を手掛けることになり、世界第2位の酸化鉄顔料メーカーとなった。戸田聯合は2023年3月期第4四半期から連結除外となったが、中長期的には持分収益の寄与や浙江華源の売上拡大などシナジー効果が見込まれ、トータルとして同社機能性顔料事業の拡大に寄与するとみられる。
事業展開を最終用途別で示すと、5つの事業フィールドとなる。「環境」、「複写機・プリンター」、「塗料」が機能性顔料事業、「家電・通信機器」、「自動車」が電子素材事業にほぼ属している。2023年3月期では「自動車」が売上高12,300百万円(構成比35%と最大で)、次いで「塗料」8,600百万円(同25%)、「家電・通信機器」7,100百万円(同20%)の順となっている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 岡本 弘)
《SI》
提供:フィスコ