巴川紙 Research Memo(9):静電チャック、高性能金属繊維シートを中心に拡大を推進(2)
■巴川製紙所<3878>の中長期の成長戦略
(5) 機能性シート事業は機能性不織布の新製品展開やセルロースマイクロファイバー製品等で緩やかな成長
同事業は製紙・塗工紙が引続き減少、紙加工、ガムテープは中長期的に漸減傾向の推移、機能性不織布が全体を牽引する模様。
1) 機能性不織布分野を量産展開
抄紙技術の展開として、有機・無機等の様々な素材を生かした機能性シートを製品化し、銅繊維シートやステンレスの「金属繊維シート」などは、半導体産業向けに「高性能ヒートシンク」や「フレキシブルヒーター」など、さらに付加価値を付けた製品として事業展開している。銅繊維、ステンレス繊維以外にも「フッ素繊維シート」や「セラミック繊維シート」「機能性粉体担持シート」などが製品化されている。特に「セラミック繊維シート」は1,500℃の環境でも使用可能な繊維シートで、金属、セラミックス等の熱処理工程の断熱材、電池用類焼防止剤などの利用が見込まれる。また環境配慮型製品として機能性粉体を高密度で高充填した「機能性粉体担持シート」は、防湿、ガス吸着シートとしての利用が見込まれる。なおこれらの製品群は2023年3月期より量産化が始まっており、金額は小さいものの、用途の広がりで徐々に売上拡大が見込まれる。全体として牽引役は機能性不織布となるが、大手クライアントが採用となれば大きく変化する分野と見られ、会社計画は十分達成が期待される。
2) 環境配慮型製品としてセルロース繊維配合樹脂が分析測定器に採用決まる
環境負荷低減に優れた材料である木材パルプ(セルロース)材料技術の展開として、セルロースマイクロファイバー製品「グリーンチップ(R) CMF (R)」の量産化も進めている。同市場では他社がセルロースナノファイバーの開発に注力しているのに対し、同社はセルロースナノファイバーがコスト高である点や、他の素材と複合化しにくいなどの問題点があるとの認識で、マイクロファイバーと樹脂を混合した製品の販売拡大を目指してきた。セルロースマイクロファイバー製品であれば、コストメリットがあるほか、セルロース繊維混入率51%以上で可燃物として廃棄が可能であること、成型時の樹脂流動性や強度のコントロールが可能であること等の利点がある。従来は展示会場でコップなどの成形品や折り鶴などの紙工芸品的な展示品に留まっていたが、2023年11月21には同社とエフピー化成工業(株)が共同開発したセルロース繊維配合樹脂「グリーンチップ(R)CMF(R)」の難燃性を付与した製品が島津製作所<7701>の分析計測機器に採用されることとなった。分析装置では安全性の観点で難燃性が求められ、3年をかけて一定強度を保ちつつ難燃性を持つ製品を実現した。金額的には小さいものの、具体的には島津製作所が11月下旬から出荷する液体クロマトグラフの構成ユニット15種類に採用される。なお今回はポリプロピレン樹脂に配合した製品となったが、今後はポリエチレンやABS樹脂、ポリカーボネート、ゴム系樹脂、さらにはポリ乳酸などと配合し、機能向上や用途拡大が期待されるなど、潜在的な成長の種として期待が持てよう。
(6) トナー事業は独立系トナーメーカーNo.1のスケールメリットを生かしシェア拡大目指す
同社最大事業のトナー事業については、2023年3月期の売上高135億円をベースに2026年3月期に150億円を目指すこととしている。同事業は専業メーカーとして売上高で最大手のポジションを確立、スケールメリットと開発力、日中3工場の立地とグローバルな直販体制でシェア拡大を図るとしている。また注力製品として利益率の高いカラートナーに注力する方針。実際、2023年3月期はトナー事業の生産トン数がモノクロトナーで減少、カラーは増産し数量増となっており、数量で見た市場シェアは2022年3月期の6.1%から4.9%に低下している。しかし高単価のカラートナーの構成比が上がったことで売上高は拡大している。
同社はこの動きを継続させ、全世界ベースでのトナー市場がほぼ横ばいで推移する(2022年6月時予想を2023年7月中計資料で開示)として2026年3月期の売上高150億円を計画したと見られる。
ただし2024年3月期上期において前年同期比大幅減となり、下期改善方向を期待するも、計画未達成の可能性が濃厚である。この背景には中国経済の低迷なども影響しているが、世界的なペーパーレスの動き、またサスティナブル経済の推進のなかでペーパーレス化に拍車がかかる可能性がある。このため、全世界ベースでのトナー生産量がさらに減少する懸念があり、同部門については2026年3月期の目標達成はかなりハードルが高くなると見られる。
(7) 中計全体として売上達成はハードルがあるも、利益は高付加価値製品群の拡大、構造改革推進で達成期待
同社の中計計画の見直し発表を行った2023年7月時点と比較し、短期間ながら事業環境が大きく変化、前提条件が大きく変化している。具体的に半導体生産がメモリ中心に大きく減退、半導体生産の回復が2024年後半になる予想となっている。またトナー事業については世界的なペーパーレス化、また在宅勤務の増加などで大きく変革の時期を迎え、改めて見直しも必要と見られる。ただし、半導体事業では新たに生成AIなどの出現により2025年は大きな需要拡大が見込まれる。日本においても熊本を中心に巨大半導体設備投資の実行が見込まれ、半導体製造装置の需要も過去最高額を超える動きがある。このため、同社の2025年3月期については半導体産業の緩やかな回復、トナー事業の回復の遅れ等で収益の足踏みが懸念されるが、2026年3月期については半導体産業の大幅拡大が寄与し、売上はトナー事業の回復の遅れで未達懸念も、利益面ではMIX良化、製紙業などの構造改革による生産性向上の継続により会社中計の利益達成は十分可能と見られる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 岡本 弘)
《AS》
提供:フィスコ