トレードワークス Research Memo(7):2023年12月期売上高はM&A効果により会社計画から上振れの見通し
■今後の見通し
1. 2023年12月期の業績見通し
トレードワークス<3997>の2023年12月期の連結業績は売上高で前期比7.0%増の3,500百万円、営業利益で同6.7%増の340百万円、経常利益で同3.8%増の340百万円、親会社株主に帰属する当期純利益で同9.8%増の220百万円と期初計画を据え置いた。上期は減収となったものの、金融ソリューション事業において採算の良い新規案件の売上が第4四半期に集中して計上される見込みであることから、増収増益の達成は可能と見られる。
また、同社は2023年7月にシステムエンジニアの常駐派遣を展開するペガサス・システムの全株式を取得、子会社化したことを発表した。業績への影響額は見通しが固まり次第公表する方針だが、直前期となる2023年3月期の売上高は687百万円、営業利益は21百万円となっており、売上高については半期分の上乗せ効果が期待できそうだ。一方、利益面ではアドバイザリー費用37百万円にのれん償却額が加わることもあり、中立か若干マイナスに影響する可能性がある。のれん金額については確定していないものの、10年定額償却を予定している。2023年3月期末の純資産が107百万円、株式取得額が359百万円(うち、14百万円分は株式交換)であったことから、のれんは250百万円程度になると弊社では見ている。
そのほか、グループ従業員数の増加に伴うオフィス拡張と業務の効率化を目的に、2023年11月に本社(東京都千代田区)を移転することを発表している。面積は従来の300坪から600坪と2倍に拡張し、今まで別拠点にあったFXシステム事業部を集約するほか、ペガサス・システムの本社も新オフィス(東京都港区)に移転する。賃料の坪単価は従来よりも安くなるが、面積が2倍になるため年間の賃借料は若干増加する見通しだ。2023年12月期の連結業績に与える影響は軽微となる。
(1) ペガサス・システムの子会社化について
ペガサス・システムの創業は1984年で同社よりも社歴は長く、システム開発やネットワーク設計及び構築における顧客先への常駐派遣を行っている。顧客先は電力・ガス、通信会社や上場企業など大企業が中心で、売上高の約8割が継続取引顧客で占められ、業績も比較的安定して推移している。エンジニアの在籍数は2023年6月時点で48名となっており、新卒採用も年間5名程度のペースで実施している。同社はこれらエンジニアのリソースを、可能な範囲で自社の金融ソリューションやデジタルコマース、メタバースソリューション領域に活用していくほか、2022年に資本出資した医療用ロボットの開発ベンチャーであるリバーフィールド(株)に出向を予定しており、ロボット技術開発のノウハウを吸収していくことも計画している。リバーフィールドでは開発リソースが不足しており、従来からエンジニアの派遣要請(5名程度)が同社にあったが、リソースに余裕がなかったため見送りになっていた。今回、ペガサス・システムを子会社化しリソースが拡充されたことから、2名の派遣を行う予定にしている。なお、ペガサス・システムの営業利益率は常駐派遣ということもあり、3~5%と低水準ではあるが、今後は付加価値の高い業務の比率を高めることで、10%程度まで引き上げることは可能と弊社では見ている。
(2) 重点施策と事業別売上見通し
2023年12月期は、前期と変わらず以下の4点の重点施策に継続して取り組む。
・主軸事業である金融ソリューション事業では、既存顧客との取引深耕や新規顧客の獲得により、証券インターネット取引システム領域でのシェア拡大を図る
・新規事業については、事業者との資本・業務提携の関係強化により収益化に向けた事業基盤の構築を推進する
・AI、IoT技術の利用や、フィンテックによる新しいサービスの開発に取り組む
・働き方改革、人材不足解消など、生産性向上をテーマとした高需要領域への進出を図る
事業別売上見通しについては、すべての事業で増収を見込んでいる。金融ソリューション事業では、下期に新たに3社にインターネット取引システムの導入が決まっているほか、既存顧客向けにも新NISAや外国株取引への対応などに関する追加開発案件の受注が決まっており、増収に寄与する見通し。FXシステム事業では、下期に新規顧客1社にシステム導入が決まっており、通期で前期比10%前後の増収を見込んでいる。セキュリティ診断事業については、第2四半期までの落ち込みを挽回できるかどうか手動診断サービスの受注状況が鍵を握る見通しで、減収となる可能性もある。
注力分野であるデジタルコマース事業については前期比2倍増の売上成長を目指す。「AZLM」については想定よりも伸び悩んでいるが、新型コロナウイルス感染症拡大(以下、コロナ禍)の影響で停滞していたインバウンド需要の復活により、オンライン免税ECサービス「Tax Free Online」の取り組みを再度強化する方針で、協業先のアイエントとプロジェクトを組んで認知度向上を図るべく、旅行会社やホテル向けにプロモーションを行う計画となっている。同サービスの流通額が拡大すれば、システム利用料だけでなく手数料収入が増加し収益貢献に寄与してくるため今後の動向が注目される。
メタバースソリューションについては、導入実績が徐々に増え始めている。2023年3月にはメタバースプラットフォーム「Meta Village」が、常総学院高等学校に採用されたことを発表した。アバターを通じた「匿名性」「リアリティ」「双方向コミュニケーション」といった特徴や、金融ソリューション事業で培われた情報セキュリティに対する信頼性の高さなどが評価された。同校では直接来校が難しい遠距離の受験生や保護者に対する学校の情報発信ツールとして活用している。また、同年4月には社会的弱者・不登校対策に取り組んでいるNPO法人と相談者、相談員希望者をつなぐマッチングポータルサイト「こころといのちのメタバース」を「Meta Village」上にオープンし、NPO団体の日本ピーススマイル協会、いのちのほっとステーションの2団体が参加している。
そのほか、2023年8月にはBIPROGY<8056>のグループ会社で金融業界向けソリューションサービスを展開する(株)トレードビジョンにメタバースプラットフォームの提供を開始し、第1号ユーザーとして金融商品取引サービスを行うサンワード貿易(株)に採用されたことを発表した。サンワード貿易では企業広報や投資情報提供、投資家向けセミナー、人材採用分野での活用を想定している。コロナ禍が一巡してメタバースに対する注目度もやや沈静化した感はあるが、中長期的に見れば普及していく可能性は高いと弊社では見ている。
ソフトウエア受託開発及びITコンシェルジュサービス事業では、あじょで人材採用が順調に進んでいることや、金融ソリューション事業との協業案件が増えていることもあり、下期も順調に推移する見通しで、これにペガサス・システムの売上が加わることになる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
《YI》
提供:フィスコ