シナネンHD Research Memo(5):創業100周年へ向け、持続的成長と社会的貢献を目指す
■シナネンホールディングス<8132>の中期経営計画
1. 長期経営構想
エネルギー産業、とりわけ同社が属する石油・ガス産業は、環境問題から中長期的に厳しい環境にある。そして同社にも、世界的な脱炭素やSDGsへの意識の高まり、気候変動への対応などから、エネルギーサービス企業として責任ある対応が求められている。当然ながら同社もこうした状況を十分理解しており、2027年度の創業100周年に向けた第三次中期経営計画のなかで、「脱炭素社会の実現に貢献する総合エネルギー・ライフクリエイト企業グループへの進化」をビジョンに、既存事業というこれまで同社を支えてきた経営基盤を強化しつつ新規事業を開発することで持続的成長と社会的貢献を図り、企業価値を向上させることを目指している。
なお、長期経営構想は第一次~第三次の中期経営計画として実行計画に落とし込まれており、これまで第一次中期経営計画(2018年3月期~2020年3月期)で事業の選択と集中、資本の効率化に着手、第二次中期経営計画(2021年3月期~2023年3月期)では資本効率の改善、持続的成長を実現する投資の実行、社員の考え方・慣習・行動様式の変革という3つの定性目標に沿って収益力の強化と事業基盤の整備を目指した。5ヶ年計画となる第三次中期経営計画(2024年3月期~2028年3月期)では、経営基盤強化の加速と成長戦略の着実な実行によって同社のビジョンを実現し、2027年度の創業100周年を迎えるというシナリオになっている。
2028年3月期にROE8%以上、経常利益100億円を目指す
2. 第三次中期経営計画
第二次中期経営計画では定性目標に加えてROE6.0%以上という定量目標を掲げたが、投資の実行や組織風土改革は一定程度進展したものの、資本効率の改善に課題が残り、定量目標は未達となった。2024年3月期にスタートした第三次中期経営計画では、第二次中期経営計画の課題解消を踏まえ、風土改革・働き方改革のさらなる推進、人財育成の推進及び人財の適正配置の実現、業務効率化や標準化などによる生産性向上、グループ経営体制の強化によって経営基盤の強化を加速するとともに、事業ポートフォリオの変革と資本効率の改善という成長戦略を着実に推進することで、エネルギーへの依存体質を改め、「脱炭素社会の実現に貢献する総合エネルギー・ライフクリエイト企業グループ」に進化することを目的としている。そのため、5ヶ年計画となる第三次中期経営計画の前半3年間は積極投資を実行し、残り2年間でさらなる飛躍・躍進に向けた成長を遂げ、2028年3月期に、ROE8%以上、経常利益100億円という財務目標、そして「脱炭素社会に対応した事業構造への転換」と「社員の市場価値の向上」という非財務目標の達成を目指す。
脱炭素に向けた事業構造、社員の市場価値向上を目指す
3. 非財務目標
(1) 脱炭素社会に対応した事業構造への転換
同社は、2030年度の自社操業に伴うGHG※1排出量(Scope1+2)を、2016年度比で50%削減することを目標としている。具体的には、LPガス配送で配送効率の改善、配送車両のEV化、ガスの自家使用でカーボンニュートラルLPGの使用、消費機器の高効率化、省エネ行動の徹底、電気の自家使用では再生可能エネルギーメニューの使用、太陽光発電などの設置、省エネ行動の徹底によってGHGの排出量を抑制する一方、バイオ炭やブルーカーボン※2などによる炭素貯留、森林ファンドやブルーカーボンファンドなどの設定・投資による環境価値の取得、事務所や工場でのCO2吸収装置設置などの取り組みによって除去量を増やしていくことで、カーボンニュートラルを実現する考えである。
※1 GHG(Greenhouse Gas):二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガス。GHGの排出量を算定・報告する際の国際的な基準であるGHGプロトコルにのっとり、サプライチェーン全体をScope1(自社の燃料消費)、Scope2(自社の電気使用)、Scope3(原材料・通勤・輸配送など上流のエネルギー消費、及び製品の仕様や廃棄など下流のエネルギー消費)に分けて把握、管理、開示する動きが強まっている。日本では、プライム市場の上場企業には、FSB(Financial Stability Board:金融安定理事会)の要請により設立されたTCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures:気候関連財務情報開示タスクフォース)が推奨するScope3の開示が求められている。
※2 ブルーカーボン:海草や海藻の藻場や、湿地・干潟・マングローブ林といった浅場などの海洋生態系に取り込まれた炭素。
また同社は、Scope3の目標に、財務的な拡大と脱炭素対応を同時に実現していく指標として、GHG排出量1tあたりの生産性を測る炭素生産性※を採用した。そして、炭素生産性をGHG排出量1トンあたりの売上総利益と定義し、2027年度のサプライチェーン全体(Scope1~3)の炭素生産性を、2016年度比で6.0%以上向上させること目標としている。具体的には、全事業における売上総利益率の改善、サプライチェーン全体でのGHG排出量の削減、バイオエタノールやSAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)などの燃料の供給、高効率給湯器などの販売、再生可能エネルギー事業の拡大、再生可能エネルギー電源の調達・供給比率の拡大によって、より少ないGHG排出量でより多くの利益を産み出し、脱炭素社会に対応した事業構造への転換を目指していく方針である。
※炭素生産性:GHG排出量1トンあたりの生産性のことで、ステークホルダーとの協力によりサプライチェーン全体の脱炭素対応を実現していく指標として計測される。
(2) 社員の市場価値の向上
同社は、企業価値は社員の市場価値の総和であるという考えの下に、社員の市場価値の向上によって会社の企業価値を向上させていく考えである。チャレンジや働きがい・やりがい、社是・ミッションへの共感などによってエンゲージメントを強化し、適切な評価・報酬や適材適所のジョブローテーションなどによって教育投資の効果を高め、ダイバーシティ&インクルージョンに沿って会社方針・メッセージや職場環境を整備する。これにより、社員は市場価値の高い個人に成長することで人生を豊かにし、同社はその成長した個人に選ばれ続ける会社となって社員の人生をより豊かにしていく相関関係を目指している。
同社は特にエンゲージメント指数(組織風土調査における「満足度」指数で5点満点)、教育訓練時間(OJTを除く社員1人あたりの年間時間)、女性管理職比率を重要視している。エンゲージメント指数では、会社の存在意義や事業の社会貢献性、ミッション、ビジョンなどを魅力的に発信するとともに、学ぶ意欲のある社員に教育機会を与えキャリア形成を仕組み化し、多様な社員が活躍できる環境を整備することで、満足度を2022年度の3.3点から2027年度には4.0点以上とする計画である。教育訓練時間は、成長意欲のある個人を仕組みと教育機会の拡充によってサポートするため、2022年度の16.4時間から2027年度には25. 0時間に拡大することを目標とする。女性管理職比率は、多様な視点を経営に反映して新たな価値を創出するため、ダイバーシティを推進して女性社員を積極登用し、2022年度の5.1%から2027年度には20.0%へ引き上げることを目指す。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
《SI》
提供:フィスコ