シュッピン Research Memo(9):新たに中期経営計画(ローリング方式)を公表(2)
■中長期の成長戦略
3. 2024年3月期の取り組み
これまで取り組んできた4つの価値の「シンカ」※のそれぞれの視点に「バリューチェーン・シナリオプラニング」をかけあわせ、以下の施策を推進していく方針である。
※1) 進価(進む価値)、2) 深価(知識を深める価値)、3) 真価(真実の価値)、4) 新価(新しい価値)の4つのシンカを、シュッピン<3179>のすべての取り組みと全社員の行動目標に紐づけ、人材の育成やエンゲージメントの強化、業務の見直しなどに活かすとともに、生産性(1人当たりの売上高)の向上につなげていく考え。
(1) AIMDのバージョンアップ(カメラ事業)
AIMDの価格変更タイミングを増やすことにより、顧客と同社のスイートスポット(均衡点)をより確実に探り当て、不必要な値下げや機会ロスを防ぎ、中古品の売上高、回転率、粗利益をさらに高めていく。
(2) 時計MDサポートAIシステムの構築(時計事業)
金融工学的アプローチによりMDの意思決定を支援するシステム構築に取り組む(12月商戦に向けてパイロット運用を予定)。時計の価格変動を商品別に分析し、騰落トレンドを推定、タイムリーに把握することで、「時計事業」の利益向上、在庫水準の適正化につなげていく。
(3) オンライン買取見積の強化(時計事業)
オンライン買取見積を業界最多の4,000アイテム(現行は2,600アイテム)に拡大し、リアルタイムでの買取・買い替えを一層推進していく(第2四半期での実装を予定)。
(4) LINE・YouTubeコンテンツの強化(全事業)
特に「カメラ事業」において、コンテンツ専門部署として「コンテンツクリエイト部」を新設し、YouTubeを中心に動画コンテンツを積極配信してZ世代の獲得を目指す。
(5) フクイカメラサービスとの協業推進(カメラ事業)
2022年1月26日に資本業務提携したフカイカメラサービスとの協業をさらに推進していく。具体的には、買取からWEB掲載までの同社業務において、すでにアウトソーシングをしている業務(修理、コンディション・チェック)に加え、新たに商品化プロセスの一部をアウトソーシングすることにより、生産性向上、カメラ修理の専門性向上、商品在庫増加に伴う保管スペース対応を進める。
(6) データ基盤の強化(全事業)
基幹システム構築と合わせ、データウェアハウス※1・BIツール※2を刷新し、MD支援や本社機能など現行業務の生産性向上と、中長期的な新サービス開発※3・業務効率化への貢献を目指す。2024年3月期のIT投資は4.9億円を予定している(3年間の設備投資合計は9.3億円を計画)。
※1 データ分析に特化したシステムであり、大量データの保存や集計に優れている。
※2 蓄積されたデータを分析及び可視化するためのツール
※3 生成系AIや各種AI-Techの活用などにより、例えば、API経由で商品価格の外部提供や新しいレコメンド手法の開発、リアルタイムのWeb接客などを計画しているようだ。
4. SDGsへの取り組み
投資家からの関心も高いSDGs(持続可能な開発目標)については、これまで同様、「価値ある大切な商品の新たな創造事業」と「働きやすい職場づくり」を通じて、社会課題の解決に向けた取り組みを自らの企業価値向上につなげていく方針である。特に、「価値ある大切な商品の新たな創造事業」については具体的な取り組みの1つとして、商品の梱包材や名刺など、使用する紙は環境に配慮したものに変更した。また、2022年はTCFD※1に準拠した環境開示のほか、CDP質問書※2への回答も開始するなど情報開示の充実を図るとともに、2022年7月には(一社)障がい者自立推進機構※3とオフィシャルパートナー契約を結び、障がい者アーティストを支援する「パラリンアート」の活動にも参画した。2023年以降、SDGsの取り組みを多面的に展開予定である。
※1 企業に気候変動がもたらす財務的影響の把握、開示を促すために、金融安定理事会(FSB)によって設立された組織であり、2017年6月に情報開示のあり方に関する提言を公表している。
※2 ESG投資を行う機関投資家やサプライヤーエンゲージメントに熱心な大手購買企業の要請に基づき、企業の環境情報を得るために送付されるもの。
※3 障がい者アーティストの経済的な自立を目的として、アート作品(絵画・デザイン等)を利用してもらう活動を行っている。
5. 中長期的な注目点
弊社でも、AIの活用や様々な価値の追求により、特定分野でさらにプレゼンスを高め、利益成長を重視していく戦略には合理性があると評価している。一方、アップサイド(上乗せ要因)として注目されるのは、M&Aや事業提携を含む、海外への本格展開、ならびに新たな収益源の創出にある。すでにテストマーケティング的に取り組み、「時計事業」を中心に認知度が上がってきた海外展開については、利用者から高い評価を受けており、国内と同様、海外(現地)での買取の仕組みを確立することで新たな成長の軸となる可能性は大きい。特に、一定の顧客基盤を持つ現地企業との連携により、同社の成功モデルを融合することができれば具現性はさらに高まるものと期待できる。今回の「Buyee Connect」の導入についても、自社サイトを通じた海外販路の拡大という点においては非常に理にかなった戦略と言え、まずは市場の開拓と認知度の向上を図っていく考えのようだ。また、新たな収益源の創出(例えば、情報力及び会員基盤を活かした有料サービスの導入やメディア事業への展開等)についても、ロイヤリティ(熱量)が高く、質・量ともに充実した会員基盤をはじめ、愛好者にとって魅力的なコンテンツ情報が集まる仕組みを、いかに収益化に結び付けていくのかがカギを握ると見ており、外部資源の活用を含め、同社ならではの事業モデルの確立に注目したい。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
《SI》
提供:フィスコ