「半導体関連」大逆襲相場始まる! ここから注目すべき10銘柄 <株探トップ特集>
―海外マネー流入加速でバブル後最高値の日本株、いよいよ花形セクターが動き出す―
これだけのブル相場を誰が予想したであろうか。週末19日の東京株式市場では日経平均株価が寄り後早々に前日比350円あまりの上昇で3万924円まで上値を伸ばす場面があった。2021年9月につけたバブル崩壊後の最高値3万670円(終値ベース)の更新については、既にTOPIXが33年ぶり高値更新を果たした後ということもあってそれほどのインパクトはないが、日経平均の目指す場所は更にその先にある3万1000円台と言わんばかり、真空地帯を駆け上がるような値運びに市場関係者からも驚きの声が上がっていた。
●恐るべき外国人買いの威力、風景一変の東京市場
今の上昇相場の背景には、怒涛のごとき海外マネーによる日本株買いがある。4月は記録的な買い越しをみせた外国人投資家だったが、18日発表された前週(5月第2週)の投資部門別売買動向でも、現物で5658億円の大量買い越し。この週は先物でも2153億円の買い越しとなっており、現先合計で7800億円あまりに達した。しかも、今週は日経平均が5連騰で高値まで1500円強の上昇をみせていることで、輪をかけて日本株を買い漁った可能性が高い。
今回の上げ潮相場の起点は、東証による企業への低PBR改善要請とウォーレン・バフェット氏の日本株追加投資が共鳴したことにあるが、加えて為替市場での円安進行も強力な追い風となった。この円安を誘導しているのは、紛れもなく日銀の超ハト派路線継続である。いずれにしても東京市場に上場する主力どころの銘柄には、想定を超えた投資資金の攻勢が続いた。
一方、騰落レシオをはじめとする各種テクニカル指標は過熱感が極めて強いのも事実で、いったんクールダウンが必要なタイミングではある。全体指数の底上げ的な動きは一巡し、ここからは一段の上値期待を内包するものとそうでないものを選別する動きが顕在化してくる公算が大きい。決算発表シーズンも通過したことでテーマ買いの動きが再燃する時間帯に入ってきた。どこに投資の焦点を当てるかでパフォーマンスも大きく変わってくる。そして、日本株見直しの流れと融合する有力テーマはずばり半導体関連である。今週は、半導体セクターにおける逆襲相場の初動を想起させるような地合いであった。
●半導体市況は暗闇でも株価は底入れ
半導体 関連は今目に見えている収益環境を見る限り、買いを肯定づける根拠には乏しいようにも思われる。なぜなら、年後半に向けて市況底入れを見込んでいたマーケットが目先は裏切られた格好となっているからだ。スマートフォンやパソコンの販売不振が続いており、在庫調整が遅々として進まず、つれてメモリーを中心とする半導体市況の底入れに向けたシナリオも霧に包まれた状況にある。新型コロナウイルスの感染拡大が世界を震撼させ、世界中で経済活動が急減速を余儀なくされた時、それとは裏腹に商機を高めたのがデジタル関連ビジネスを展開する業界であった。「遠隔・非接触」をキーワードに情報機器特需が生まれ、データセンターなどのデジタルインフラ整備にも高水準の需要が創出された。これらがすべて半導体需要に直結したことはまだ記憶に新しい。しかしその反動が22年の後半から顕在化した。
グローバル経済はインフレが加速し、消費の落ち込みも影響してスマートフォンやパソコンの過剰在庫が浮き彫りとなった。WSTS(世界半導体市場統計)によると今年1~2月の段階で世界の半導体売上高は前年同期比22%減と大きく落ち込んでいる。米メモリー開発・製造大手のマイクロン・テクノロジー<MU>のCEOが3月の決算発表時に、「メモリー業界は過去13年間で最悪の環境」と発言したことが伝わるなど悲観的な報道が相次ぎ、それまでの年前半に底を確認して後半回復に向かうという楽観的な見方が雲散した。
ところが、株式市場に目を向けると半導体セクターの株価は年初からの下値切り上げ波動を維持する銘柄が思いのほか多かった。米国では画像処理半導体大手のエヌビディア<NVDA>が一貫して上値指向となり高値更新を続け、時価は21年11月につけた上場来高値をにらむ位置にいる。半導体銘柄で構成されるフィラデルフィア半導体株指数(SOX指数)も年初から調整を織り交ぜながらも下値を切り上げており、13週移動平均線を上回った位置をキープしている。
●生成AIが半導体の新たなダイナミズムに
半導体関連株に息吹をもたらしているのは何か。それはまず、世界的に存在感を急速に高めている生成AI が挙げられる。生成AIは学習したデータをもとに文章や画像をオリジナルで自動的に作成するAIで、米オープンAIが公開した「チャットGPT」で一躍世界の視線を釘付けにした。この生成AIは加速度的に市場が広がっており、膨大な演算系半導体の需要を喚起する可能性がある。
そして、もう一つは世界的な半導体覇権争いで、これは半導体製造装置メーカーなどに政治的背景による強力な追い風をもたらしている。先端半導体分野は米中摩擦の主戦場でもあるため、国家戦略として開発・生産拠点を確保しておく必要に迫られている。国が巨額の財政出動で半導体工場建設を資金面で支援するという動きは、日本でも台湾積体電路製造(TSMC)<TSM>とソニーグループ <6758> [東証P]が連携する熊本工場で注目されたほか、日の丸半導体ラピダスへの財政支援なども今後拡大する可能性が高い。
今週18日には欧米や韓国、台湾の半導体大手7社の幹部が首相官邸に招かれ、岸田文雄首相と面会した。この席で岸田首相は日本への投資拡大を呼びかけており、今後は半導体生産の重要拠点が国内で相次いで立ち上がる可能性が高まった。半導体各社が表明した日本への投資額は21年以降合計2兆円を超える水準となることが報じられている。日本政府がにわかに半導体政策を積極化させる背景には、バイデン米政権の後ろ盾があることも推察されるが、こうなると東京市場でも同関連株への注目度が増すのは必然の流れといってもよい。
●変化を示唆するレーザーテクの株価
東京市場で半導体関連株への資金の流れが本格化していることを如実に示すのは、同関連のシンボルストックに位置付けられるレーザーテック <6920> [東証P]の動向だ。同社株は常にプライム市場で群を抜く売買代金をこなすいわば一本杉のような存在だが、株価の方は2月以降、半導体市況の悪化と歩調を合わせるように下値模索の展開を強いられていた。マスクブランクス検査装置で世界シェアを独占しており、次世代EUV露光装置向けでも世界で唯一供給できるグローバルニッチトップとして活躍。しかし、1月末に23年6月期の受注高予想を大幅下方修正したことが、ヘッジファンドなどによる売り攻勢の手掛かりとなった。
個人投資家の信用買い残が積み上がる一方、同社の株価は下げ止まらない展開を強いられていたが、今週に入り動きを一変させている。株価は4連騰で上値追いを鮮明とし、19日にザラ場高値2万1000円台まで回復、4営業日合計の上げ幅は2700円に達した。グローバルベースで見た生成AIによる半導体需要の拡大余地と、政府の半導体政策への“本気度”を目の当たりに、来期以降の受注回復にマーケットの思惑が移行した。
「麦わら帽子は冬に買え」という。半導体関連セクターの今の収益環境は冬の只中にあるが、株式市場は常に未来を映す。気がつけば、春を通り越して夏の太陽が意識されるような相場環境が近づいている可能性もある。今回のトップ特集では、レーザーテク同様に半導体関連の代表的ポジションを占める銘柄から、穴株的な妙味を内包した銘柄まで幅広く計10銘柄を紹介する。
●半導体物色人気再燃で要注目の10銘柄
◎アドバンテスト <6857> [東証P]
半導体検査装置で世界上位にあり、特にDRAM用ではトップシェアを誇る。海外売上高比率は実に96%に達する。M&A戦略を積極的に推し進め、業容拡大路線を突き進む。近年は大量のデータを必要とする生成AIに使われる半導体のテスターで同社の優位性が浮き彫りとなっている。24年3月期は営業37%減益の1050億円見通しながら保守的で上振れの可能性が意識される。株価は決算発表を受けいったんマドを開けて売られたものの、その後切り返し急。25年3月期の利益復元を織り込み、株価は24年ぶりに上場来高値を更新した。目先信用買い残が減少する一方、貸株調達による空売りの買い戻しが株価に強力な浮揚効果を与えているとみられる。上昇一服場面は狙い目か。
◎東京エレクトロン <8035> [東証P]
半導体製造装置の国内トップメーカーであり、グローバルでみても売上高規模は米アプライド・マテリアルズ<AMAT>、オランダのASMLホールディング<ASML>に次ぐ第3位に位置している。前工程で強みを持つが、特にエッチング装置や成膜装置で高い商品競争力を誇る。中国向け輸出ウエートが高いが、米政府が打ち出す輸出規制対象外のレガシー半導体向け製造装置で需要獲得が進んでおり懸念は後退している。24年3月期は営業36%減益を見込むものの、来年以降は人工知能(AI)関連のほか、基本ソフト移行に伴うパソコンの買い替え需要が発現することで、改めて商機が高まるとみられている。株価は3月下旬に形成した戻り高値をクリアし上げ足に弾みがついた格好となった。
◎ディスコ <6146> [東証P]
切断・研磨装置の世界トップメーカーで独自技術を駆使してグローバル市場を席巻する。世界的な電気自動車(EV)シフトを背景に市場拡大が加速するパワー半導体向けで高水準の需要を捉え、切断装置の替え刃などサプライ品も好調で収益押し上げ効果をもたらしている。新商品の開発・販売にも余念がない。23年3月期はトップラインが前の期比2ケタ増収で営業利益は21%増の1104億1300万円と好調だった。24年3月期は会社側未開示ながら、足もとの動向から苦戦が予想されている。しかし、スマートフォンとパソコンの在庫調整が進展すれば、今期業績の落ち込みも限定的となる公算が大きい。中期的な成長性に陰りはなく、株価は上場来高値圏で頑強な値動きを続けそうだ。
◎ソシオネクスト <6526> [東証P]
工場を持たないファブレス形態でSoC(システムオンチップ)の設計・開発及び販売を手掛けている。先端半導体の設計ノウハウを武器に需要を開拓、車載用やデータセンター向けで高水準の受注を獲得している。SoCは利益率の高さが際立ち、将来的にも成長ドライバーとなる。23年3月期営業利益は前の期比2.6倍の217億1100万円と急拡大。24年3月期の同利益は4%増の225億円予想と伸びが鈍化する見通しながら、上振れ余地が大きいとみられている。また、来期以降の業績拡大にも期待がかかる。昨年10月にプライム市場に新規上場し、初値は公開価格比5%高と小さく生まれたが、セカンダリーでの快進撃は特筆に値する。13週移動平均線をサポートラインに青空圏を進む展開。
◎東京応化工業 <4186> [東証P]
半導体フォトレジスト(感光性樹脂)で世界シェア26%前後とトップクラスの商品競争力を誇る。特に市場が急拡大途上にあるEUV 用フォトレジストでは43%という高水準のシェアを確保し他社を引き離している。20年12月期以降は売上高、営業利益ともに連続で過去最高を大幅に更新中。22年12月期営業利益は前の期比46%増の301億8100万円と急拡大した。23年12月期は利益の伸びがあまり期待できない状況ながら、ここを踊り場として、次期以降はEUV向け最先端品などの牽引で再び高成長路線に復帰する公算が大きい。株価は21年9月の最高値8340円奪回が第一目標となるが、中勢1万円大台も十分に射程圏といえそうだ。
◎TOWA <6315> [東証P]
樹脂封止装置や切断加工装置を手掛ける半導体製造装置メーカーで、半導体製造の後工程を担当する。精密金型でも高い商品競争力を誇り、その技術力に定評がある。車載用半導体やパワーデバイスの需要は引き続きタイトで、高水準の受注残を武器に24年3月期は会社側の計画を上回る業績が想定される。会社側では今期営業利益を前期比19%減の81億6000万円と予想しているが、かなり保守的で110億円前後まで上振れ余地を内包している。株価は年初来高値圏にあるが、長期波動では底値圏もみ合い離脱の初動。わずか1年半前の21年11月には3740円の高値を形成しており、時価はそこから4割近くディスカウントされた状態で戻り妙味がある。
◎野村マイクロ・サイエンス <6254> [東証P]
半導体業界を主要顧客とする超純水装置の大手で、海外での展開に力を入れており、特に韓国サムスン電子や台湾の受託製造大手TSMC<TSM>向けなどで実績を積み上げている。岸田首相が米国や、韓国、台湾の半導体大手7社の幹部を首相官邸に招き日本への投資拡大を呼びかけたが、既にTSMCは熊本に大規模工場を建設中でサムスンも横浜に開発拠点を設ける計画にあるなど、同社に吹く追い風は強い。業績は23年3月期の営業48%増益に続き、24年3月期も7%増の70億円と増益基調をキープする見通し。株価は直近急動意し、約半年ぶりに5000円台を回復したものの上値を出し切った感触はなく、21年9月の上場来高値5770円を目指す動きに。
◎ティアンドエス <4055> [東証G]
製造業の生産管理システム開発及び運用・保守を主力とし、最先端半導体工場向けの受託開発で強みを発揮する。画像処理技術や、ソフト高速化、AI技術を活用した業務効率化など付加価値の高いステージで実力を発揮している。キオクシアを主要顧客とし、日立グループ向けでも実績が豊富。TSMC<TSM>と熊本工場で協働するソニーグループ <6758> [東証P]からも受注を獲得したほか、日の丸半導体会社ラピダスが北海道に建設する最先端半導体の製造工場でも案件獲得の期待がある。更に、韓国サムスン電子が横浜市に開発拠点を設立する方向にあるが、同市に本社を構えるT&Sにとって地の利が意識される。業績は22年11月期営業5割増益で23年11月期も2ケタ成長を見込むが、中期的な成長性は非常に高く、株価も居どころを変えそうだ。
◎ミライアル <4238> [東証S]
半導体シリコンウエハー 容器製造を手掛けており、特に300ミリウエハーで優位性を発揮する。製品設計、金型製作、成形や検査工程に至るまでワンストップで生産体制を整えている点が特長。高品質が求められる半導体業界向けに高機能樹脂製品の量産で収益機会を広げている。23年1月期は売上高が前の期比22%増の142億6500万円、営業利益が同29%増の24億5700万円と原料コスト上昇のなかで大幅増収増益を達成。24年1月期について会社側では開示していないが、人件費負担で利益が鈍化する可能性は拭えないもののトップラインの拡大は続きそうだ。株価は目先反騰色を強めているが、依然としてPER10倍割れ(前期実績ベース)でPBR0.6倍台と割安感が強い。
◎ステラ ケミファ <4109> [東証P]
半導体洗浄やエッチング工程などで使われるフッ素高純度薬品(超高純度フッ化水素酸)で世界シェアトップの実力を持つ。売上高の半分を海外で占めている。半導体メモリー市況の底入れが遅れていることから足もとの収益環境は悪く、23年3月期は前の期比23%営業減益となり、24年3月期も同利益は28億円予想と前期比2割減を見込んでいる。しかし、株価面では業績悪の織り込みが進んでおり、既に来期以降の成長トレンド回帰を読んで下値切り上げ波動を明示している。株主還元に積極的なこともポイントで、前期の年間配当は60円を実施、今期は増配の可能性がある。3月7日に上ヒゲでつけた3020円の高値奪回を視界に入れている。
株探ニュース